響け!ユーフォニアム 第八回 「おまつりトライアングル」 シナリオ抜き書き

響け!ユーフォニアム 第八回 「おまつりトライアングル」

 

脚本 花田十輝 絵コンテ・演出 藤田春香

 

〇1-3教室内

 

昼休みの教室。久美子たちがお弁当を前にして、秀一の事を話している。

 

葉月「だから、塚本と付き合ってんの?って」

久美子「付き合ってる?塚本?つか……うわあぁっ、秀一の事!?」

緑輝「どうなんですか?」

久美子「いや、付き合ってないけど」

緑輝「本当に?」

久美子「うん」

緑輝「よかったぁ」

久美子「いや、待って。なんでそんな話になってるの?」

葉月「いや、ほら2人ちょくちょく一緒に帰ってるみたいだったからさぁ」

緑輝「緑、安心しました。葉月ちゃん、行きましょう!」

葉月「待ってよ!だから昨日も言ったけど、わたし別に塚本が好きだとかって言うんじゃなくって」

久美子「好き……、秀一を?葉月ちゃんが!?」

葉月「(慌てて)しーっ」

久美子「「あ、ごめん(口を押える)」

葉月「だから、違うって言ってるじゃんかぁ」

緑輝「でも、気にはなるんですよね?」

葉月「ま、まぁ、ちょっとだけ」

緑輝「あがた祭り……」

葉月「えっ?」

緑輝「一緒に行きたいなぁ、なんて思ってたりしてませんか?」

葉月「まぁ、ちょっとはね……。(緑を見て)のわぁ!」

緑輝「(手でハートマークを作り)恋ですよ!」

葉月「なんでそんなに積極的なんだよぉ……」

緑輝「それはもちろん、全ての音楽は恋から始まるからです。愛と死は音楽にとって永遠のテーマ。全ての曲はそのために有ると言っても過言ではないのですよ、葉月ちゃん」

葉月「なんか、論点が微妙にずれてない?」

緑輝「さあ、行きましょう!」

葉月「わぁ、待って待って……」

 

久美子「(ナレ)あがた祭りというのは毎年6月5日に行われるお祭りで、この時期になるとなんとなくみんながソワソワし始めたりする……」

 

〇音楽室

 

優子が香織に話しかける。低音パートでは久美子たちも盛り上がる。

 

久美子「(ナレ)こんな感じで」

 

優子「香織先輩!」

香織「……?」

優子「あの、もし良かったらあがた祭り……」

香織「ごめん。あすかと晴香と一緒に行こうって言ってて」

優子「えぇー……」

夏紀「邪魔だってさ」

優子「うっさい!」

久美子「へー、緑ちゃん妹さんと行くんだ」

緑輝「はい、毎年そうなんです」

久美子「へぇ、仲良いんだね」

葉月「ぁ……(こちらを見る秀一に気づいて)」

秀一「ん……(と、目をそらす)」

 

麗奈がその様子を見ながら、席につく。

 

OP

 

〇教室内(低音パート)

 

パート練習の場でもあがた祭りの話題でもちきり。

 

夏紀「わたしはクラスの友達と行って、後は流れみたいな感じかな」

緑輝「梨子先輩は誰と行くんですか?」

梨子「ぇ……」

夏紀「決まってんじゃん。後藤でしょ?」

梨子「ちょっ、夏紀ぃ」

久美子「えっ?」

緑輝「先輩、それってもしかして恋ですか?」

夏紀「恋もなにも、こいつら付き合ってるよ?」

梨子「夏紀!」

緑輝「興味、しんしんですっ!!(とキラキラ)」

梨子「ちょっと待って。だから付き合ってるというか、付き合ってないというか……」

卓也「(むせて)……付き合ってないのか、俺たち……」

梨子「ああ、そうじゃなくて……。ほら、秘密にしとこうって話してたでしょ?」

あすか「何なに、公式発表?とうとう言っちゃう?」

卓也「なんでそこだけ入ってくるんですか」

あすか「だって。みんな知ってるのに、じれったいんだもん」

葉月「あすか先輩は彼氏とかいないんですか?」

あすか「いる訳ないでしょ?わたしの恋人はユーフォ・ニ・アムさん、ただ一人!」

夏紀「黄前ちゃんは誰と行くの?」

久美子「わたしですか?……あんまり人ごみ好きじゃないからなぁ。家の近くがもう屋台の通りで、あんまり有難みも感じないし……」

夏紀「黄前ちゃんって、そういうトコ冷めてるよね」

久美子「え、そうですか?」

梨子「葉月ちゃんは誰と?」

葉月「えっ、わたし?」

緑輝「あぁ、葉月ちゃんは……(葉月にチョップされ)痛ぁ……」

葉月「まだ決めてなくて。はは、あはは」

久美子「お祭りかぁ」

 

タイトル 第八回 「おまつりトライアングル」

 

〇音楽室

 

合奏練習する部員たち。滝が演奏を止める。

 

滝「みなさん、前にも話したはずですよ。この部分は何を表現しているんですか?……田中さん」

あすか「はいっ。(大げさな身振りで)地球を離れただ1人、遠い星に旅立つ。その旅路を祝福する様に、月が舞っている場面です!ちなみに作曲者は、子供の頃から1人で夜空を見るのが大好きで……」

滝「そこまでで結構ですよ」

部員たち「(笑い声)」

滝「今の田中さんの舞はなかなかのものでした。あのように自由奔放に、恥ずかしげもなく。ここの音は軽やかに、そして勇ましく。分かりますね」

部員たち「はいっ」

 

久美子が楽譜に書き込む。それを見てあすかが話しかける。

 

あすか「黄前ちゃん、そこ苦しんでる?」

久美子「はい……」

あすか「ここ、替え指でいったほうが良いかもよ」

久美子「ありがとうございます」

 

久美子を見ていた秀一、ふと横を見ると麗奈と目が合う。

 

滝「それでは次、ベルリンBの頭。クラリネットから行きましょう……」

 

宇治駅

 

電車から降りてくる久美子に秀一が声を掛ける。

 

久美子「(運指を確認しながら)うーん、と……」

秀一「よっ」

久美子「(気づかず)こうか……、そして……(小突かれ)った!」

秀一「無視すんなよ」

 

宇治川沿いの道

 

連れ立って帰る2人。運指の確認をする久美子に秀一が尋ねる。

 

秀一「どっか引っかかってんのか?」

久美子「うん、まあね……」

秀一「俺も。トロンボーン人数多いし、頑張らないとオーディションやばそうで……」

 

宇治川沿いのベンチ

 

秀一がトロンボーンの練習をしている。久美子がベンチに座りそれを聞いている。

 

秀一「どう思う?」

久美子「うーん、トロンボーンの1年、3人だっけ?」

秀一「(久美子の横に座り)うん、福井と赤松。ユーフォは……、全員行けそうだよな」

久美子「人、少ないしね。でも、滝先生って実力なかったら平気で落としそうな気がするし、気は抜けないよ」

秀一「なんかさ、まじで全国行けたりしてな。ここの吹部に入ってまだ2ヶ月位だけどさ、最近そんな気がしてきた」

久美子「そんな甘くないよ」

秀一「でも、前よりは絶対上手くなってるって」

久美子「うん。でも、もっと上手くなりたいね」

秀一「そうだ、じゃぁ今度一緒にここで練習するか」

久美子「えー、ユーフォ重いし、やだ」

秀一「なんだよ。……お前さ、5日って何してんの?」

久美子「5日?普通に部活」

秀一「その後だよ。あがた祭り……、一緒に行かね?(顔が赤い)」

久美子「は?何で?」

秀一「……いいや。考えといて、じゃあな(と、立ち去る)」

久美子「(ナレ)それは全く予想もしていなかった事で、わたしの思考回路は思いっきり混線してしまった」

久美子「なんだよ……」

 

〇久美子のマンション・外観

 

雨が降っている情景。

 

〇通学風景

 

傘をさして登校する久美子~電車内の久美子~歩く久美子の背

 

〇北宇治高校

 

正門前の通学風景

 

〇1-3教室

 

久美子、席で悶々と相関図を描いている。

 

久美子「(整理すると、葉月ちゃんは秀一をあがた祭りに誘いたくって、秀一はあがた祭りに……。なるほど)」

 

〇(空想)1-3教室

 

葉月が緑に泣きついている。

 

葉月「えぇーん、緑ぃ」

緑輝「この嘘つき!何故そうならそうと先に教えてくれなかったのですか?」

久美子「違うの、違うのぉ!」

秀一「そうだ、久美子は悪くない(きりっ)」

久美子「お前は出てくんな!」

 

〇1-3教室

 

現実に戻り、困惑する久美子。前方で葉月が緑と話している。

 

久美子「えー、これはまた厄介な……」

緑輝「「本当ですか?それはもう行くしかないです。飛べー、走れー、告白しろーです」

葉月「いやー、でも勘違いかもしれないしさ」

緑輝「そんなことありません!ねえ久美子ちゃん」

久美子「えぇ?」

緑輝「葉月ちゃんったら、この間塚本君と目が合っ……」

葉月「ちょーっ、もぅサファイア!!止めて!」

緑輝「あぁ、サファイアはいけませんよ。反則です!」

久美子「秀一と?」

葉月「いや、でも偶然かもだしさ」

緑輝「偶然なんてありません。必然なんです。運命なんですよ!ね、久美子ちゃん」

久美子「うぇ!?あ……、うん」

緑輝「さあ、オーディエンスも曲が始まるのを待っています。ステージへ行きましょう(と葉月を連れ出そうとする)」

葉月「え、待ってまって。自分のタイミング、自分のタイミングで行くから」

 

〇音楽室

 

考え込む久美子。前方で赤松と話す秀一と目が合ってしまう。

 

久美子「どうすればいいんだ……。(秀一と目が合い)やばっ」

秀一「(音楽室から出て行く久美子を見て)赤松、ごめん俺ちょっと」

葉月「(出ていく秀一を目で追い)よし、……いくか」



〇手洗い場

 

手洗い場の前でため息をつく久美子に、秀一が声を掛ける。

 

久美子「(ため息)はぁ……。(秀一に気付き)っぇえ」

秀一「あ、いた」

久美子「何?」

秀一「そっちこそ何?さっき、合図しただろ」

久美子「わたしが?してないよ」

秀一「しただろ。こっち見てから1人で外でて……」

久美子「なんでそれが合図になるんだよ……」

秀一「普通そう思うだろ?っていうか、あがた祭り……」

久美子「うわあ、ぁ、あれね……」

秀一「……予定あった?」

 

久美子、ドアを開けて出てきた少女の手をとっさに掴む。

 

久美子「ごめん。わたし、この子と行くことにしてて……」

秀一「えっ……、高坂と?」

久美子「えっ……、はっ」

 

久美子、掴んだ手が麗奈のものだったことに気付く。葉月がそこにやって来る。

 

葉月「塚本……(久美子を見てうなづく)」

久美子「はっ……(1歩さがる)」

葉月「ちょっと話があるんだけど、いい?」

秀一「ぇ、いま、久美子と話してるんだけど……」

久美子「行ってきなよ!行ってきなよ、秀一」

秀一「……行っていいのかよ」

久美子「……うんっ」

秀一「あっ、そ……」

久美子「うん……」

 

立ち去る秀一を追いかける葉月。残された久美子、握る手に力がこもる。麗奈がそんな久美子の横顔を見つめる。

 

〇下足室

 

雨が上がった夕方。久美子が下駄箱の前で浮かない顔をしている。落としたローファーの向きを揃えようとしたとき、麗奈がやってくる。

 

久美子「(しゃがみ込み)うーん」

麗奈「ねえ、何時にどこ集合?」

久美子「……」

麗奈「お祭り、行くんでしょ?」

 

CM(トロンボーンパート)

 

〇1-3教室

 

美知恵が生徒たちに向け注意をしている。

 

美知恵「もう1度言っておくぞ。祭りといえども高校生らしく楽しむこと。分かったな!」

 

久美子「(ナレ)という美知恵先生のしつこい注意と……」

 

〇音楽室

 

滝が部員たちに話をしている。

 

滝「では、本日の練習はこれまでにします」

部員たち「ありがとうございました」

 

久美子「(ナレ)お祭りの熱でどこか浮ついた練習が終わると……」

 

久美子の前方で、みぞれが優子に向かって首を横に振っている。

 

〇縣神社周辺

 

祭りの情景、制服で買い食いをしているホルンパート。

 

久美子「(ナレ)夕暮れとともに、賑やかな祭りの時間がやってくる」

 

宇治川沿いのベンチ

 

座っている卓也のもとに、浴衣姿の梨子がやってくる。

 

梨子「後藤くん、お待たせ」

卓也「ぅん……」

梨子「どうかな?」

卓也「(耳を赤くして)かわいい」

梨子「……ありがと」

 

〇屋台通り

 

屋台の情景。くじ引きのあすか、香織、晴香。射的の夏紀、優子、加部。

 

〇JR宇治駅

 

妹の琥珀を連れた緑が葉月の髪型を整える。

 

緑輝「うん。OKです、葉月ちゃん」

葉月「本当?変じゃない?」

緑輝「超かわいいです」

葉月「私服でスカートはくの、ほぼ初めてなんだけど……。ん?(緑そっくりの琥珀に服を掴まれ)ガーン、緑だ。すごい再現率」

緑輝「よく言われます」

葉月「名前、なんだっけ」

琥珀「こはく……」

緑輝「葉月ちゃんだよ。こんばんは、は?」

琥珀「……こんばんは」

葉月「うひゃー、やばいね。こんばんは!」

琥珀「みどりちゃん、おまつり……」

葉月「早く行きたいかぁ」

緑輝「じゃあ、緑たちは行きますかね」

葉月「うん」

緑輝「ねえ葉月ちゃん、今日メチャクチャかわいいですよ!ね、琥珀

琥珀「ちょーかわいい」

葉月「そ?」

緑輝「最高です」

葉月「サンキュ。じゃあね」

緑輝「また明日」

葉月「(手を振り)いってらっしゃーい。(見送り、空を見上げた後)フーーーーっ」

 

と、腹式呼吸をしている葉月のもとに秀一がやってくる。

 

秀一「加藤!」

葉月「ぅう」

秀一「悪い、遅れた」

葉月「おう……」

 

宇治神社参道

 

久美子がTシャツに短パンというラフな格好に、ユーフォを背負って階段を上ってくる。下を向いて息を切らす久美子に、麗奈が声を掛ける。

 

久美子「なんで……ユーフォ、持ってこなくちゃいけないんだぁ……」

麗奈「10分遅刻」

久美子「ん?……わっ」

 

久美子が顔をあげると、白いワンピースを着た麗奈が立っている。

 

麗奈「何?」

久美子「やっ、かわいくてビックリした(と、自分の足元を見やる)」

麗奈「(照れて)……、行こっ」

久美子「え、どこ行くの?」

麗奈「大吉山。登るの」

久美子「なんで?」

麗奈「何となく。楽器は交替で持つから」

 

歩き始めた麗奈の背中を見つめる久美子、ついて歩き始める。

 

久美子「(ナレ)高坂さんの真っ白いワンピースと、少しひんやりとした青い空気に見とれて、わたしの頭の中は雪女のお話でいっぱいになった」

 

〇さわらびの道

 

登山口に向けて歩いて行く麗奈と久美子。

 

久美子「(ナレ)不安を感じながらもその美しさに惹かれ、命を落としてしまう気持ちというのは、こういう物なんだろう」

 

麗奈、宇治上神社の前に差し掛かり、久美子に尋ねる。

 

麗奈「どっちが好き?」

久美子「え?」

麗奈「さっきの神社と、こっちの神社」

久美子「……」

麗奈「わたしはこっちの方が好き。渋くて大人な感じがする。分かんない?」

久美子「ねぇ」

麗奈「何?」

久美子「こういう事、よくするの?」

麗奈「こういう事って?」

久美子「いきなり山に登ったりとか」

麗奈「わたしを何だと思ってんの?する訳ないでしょ」

久美子「だよねぇ」

麗奈「でも、たまにこういう事したくなるの。制服着て、学校行って、部活行って、家戻って……。なんかたまに、そういうの全部捨てて、18切符でどっか旅立ちたくなる」

久美子「それはちょっと分かる気がする」

麗奈「これはその旅代わりみたいなもん」

久美子「ずいぶんスケール小っちゃくなっちゃったね」

麗奈「それは仕方ない。明日、学校だし」

久美子「ぇ……」

麗奈「「早く」

 

〇大吉山・登山道

 

麗奈と久美子、暗くなり始めた登山道を登る。麗奈が立ち止まって、久美子に言う。

 

麗奈「交替」

久美子「え?」

麗奈「楽器」

久美子「いいよ、これ重いし」

麗奈「駄目。そういうのちゃんとしないと気が済まないから(と髪をしばる)」

久美子「じゃぁ……」

麗奈「(ユーフォを持って)重っ……っしょ」

久美子「何かあれだね」

麗奈「何?」

久美子「その白ワンピースにユーフォ持たせてるの、背徳感がすごい」

麗奈「何で?」

 

麗奈のサンダルのストラップが、かかとに食い込んでいるのを見て。

 

久美子「足、痛くないの?」

麗奈「痛い。でも、痛いの嫌いじゃないし」

久美子「何それ、なんかエロい……」

麗奈「……変態」

久美子「あははは……」

 

〇縣神社

 

参拝するあすか、香織、晴香の3人。香織がお祈りを口に出す。

 

香織「オーディション、うまく行きますように」

あすか「そんなのお祈りしても上手くはならないよ」

晴香「それはそうだけど」

あすか「楽器も音楽も、全部自分次第でどうにでもなるのに、神様に頼むなんてもったいないよ」

香織「それもそうだね」

 

あすか、屋台通りを男子と歩く葉月のすがたを見つけて。

 

あすか「ん?あれ、加藤ちゃんじゃない?なに彼氏?やったぜ加藤ちゃんかよ」

晴香「追いかけちゃ駄目だよ。見なかったふり。ね」

あすか「分かってるぅ」

 

宇治川沿いのベンチ

 

秀一と葉月が座っている。

 

葉月「やっと座れたね……。あぁ、たこ焼き。ちょっと冷めてるけど」

秀一「サンキュ」

葉月「わたし、男子とあがた祭り来んの、初めてだ」

秀一「俺も初めて。あんま、こういうの慣れてないし。……加藤さ、チューバ上手くいってる?この間持って帰ってたよな?」

葉月「塚本、わたしさ、塚本のことが好きなんだけど……」

秀一「(むせて)ぶっ……、げほ。ぁあ、うん。いや、おう」

葉月「何、その反応?」

秀一「いや、びっくりして」

葉月「で、返事は」

秀一「(組んだ掌を見つめて)……ごめん」

葉月「(絞り出すように)……そっか」

 

宇治川の情景。水面に映る灯り、ゆったり流れる宇治川の流れ。

葉月、両手を挙げて宣誓。

 

葉月「よしっ、分かった。わたしが久美子との間、取り持つわ」

秀一「いや、あいつとはそんなんじゃないし……」

葉月「もしかして、自覚なしってやつ?」

秀一「ホントに違うんだって、マジで」

葉月「チューバは……、チューバは陰で支えるのが仕事なのだよ、塚本君(と、笑う)」

秀一「(つられて)……はははは」

 

〇大吉山・登山道

 

すっかり暗くなった登山道を麗奈のスマホが照らす。

 

久美子「(びっくりして)ぅわっ……」

麗奈「アプリ。暗いと思って入れといた」

久美子「あ、へぇ……」

麗奈「わたし本当はさぁ、前から思ってたの。久美子と遊んでみたいなぁって」

久美子「えぇ!?」

麗奈「久美子って性格悪いでしょ」

久美子「あ……、もしかしてそれ悪口?」

麗奈「ほめ言葉。中3のコンクールの時、『本気で全国行けると思ってたの?』って聞いたんだよ?性格悪いでしょ」

久美子「いや、あれは純粋に気になったから。……っていうか、やっぱりそれ悪口」

麗奈「違う。これは、愛の告白」

久美子「……どう考えても、違うでしょ」

麗奈「でもわたし、久美子のそういうところ気になってたの、前から。好きっていうか、親切な良い子の顔して、でも本当はどこか冷めてて。だから良い子ちゃんの皮、ペリペリってめくりたいなぁって」

久美子「それは、どういう……」

麗奈「分かんないかなぁ、わたしの愛が」

久美子「高坂さんねじれてるよ……」

 

〇大吉山・展望台

 

麗奈と久美子が展望台に到着する。2人の前面に宇治の夜景が広がる。

 

麗奈「着いた」

久美子「(安堵のため息ひとつ、夜景に気づいて息を吞む)はー。……はっ」

麗奈「綺麗だね(と先へ進む)」

久美子「……うん。(と麗奈に続き)高坂さんはこれが見たかったの?」

麗奈「……見たかったっていうと、ちょっと違うけど。他人と違うことがしたかったの。」

久美子「わぁ、地面が星空みたいだ……。あ、あれお祭りの灯りかなぁ」

麗奈「そんなに塚本が気になる?」

久美子「へっ?そんな訳ないじゃん。そんなんじゃないし……」

麗奈「「ふーん、そんなんじゃないんだ」

久美子「ぅん」

麗奈「ねえ、お祭りの日に山に登るなんて馬鹿な事、他の人たちはしないよね」

久美子「……うん、まぁ」

麗奈「久美子なら分かってくれると思って」

 

〇(インサート)仲良し女子のイメージ。

 

お揃いのシュシュ、LINEの画面、ピースサイン、廊下でのダベり。

 

麗奈「(OFF)わたし、興味ない人とは無理に仲良くなろうと思わない。誰かと同じで安心するなんて、馬鹿げている。当たり前に出来上がってる人の流れに、抵抗したいの」

 

〇大吉山・展望台

 

麗奈と久美子の話が続く。

 

麗奈「全部は難しいけど、でも分かるでしょ?そういう意味不明な気持ち」

久美子「……うん、わかるよ。高坂さんの気持……」

 

麗奈の指先が、まっすぐ久美子の額に触れる。夜景を背にした麗奈のワンピースが風になびく。久美子は麗奈から目をそらすことができない。

 

麗奈「……麗奈」

久美子「……麗奈」

麗奈「わたし、特別になりたいの。他の奴らと同じになりたくない」

 

麗奈の指先が久美子の額から鼻筋、鼻筋から唇へと撫でるように動いて、離れる。

 

麗奈「だから、わたしはトランペットをやってる。特別になるために」

 

久美子「(ナレ)吸い込まれそうだった。わたしは今、この時なら命を落としても構わないと思った」

 

久美子「トランペットやったら、特別になれるの?」

麗奈「なれる。もっと練習して、もっと上手くなれば、もっと特別になれる。自分は特別だと思ってるだけのやつじゃない。本物の特別になる。(と、久美子を見て笑い出す)ふふっ、ふふふふっ。やっぱり久美子は性格悪い」

 

ED

 

〇展望台のベンチ

 

サンダルとスニーカーを脱いで演奏準備をする麗奈と久美子。

 

麗奈「準備できた?」

久美子「できたよ。何やるの?」

麗奈「中3の時やったやつ。送別会の」

久美子「あれ?」

麗奈「好きなの」

久美子「……分かった」

 

2人だけの合奏が始まる。奥華子『愛を見つけた場所』。

 

〇(インサート)屋台通り

 

祭りの情景(緑と琥珀、夏紀・優子・加部、卓也と梨子、あすかたちの横で美知恵と滝から逃げるホルンパートたち)。

 

〇(インサート)宇治橋

 

1人で歩く葉月、緑と琥珀がやってくる。強がる葉月に何かを察する緑。泣き出す葉月に抱きつく緑と琥珀。葉月、たまらず笑ってしまう。

 

〇展望台のベンチ

 

麗奈と久美子の合奏が、静かに終わる。

 

久美子「(ナレ)こうして、まるで夢でも見ているような不思議な時間は過ぎて……」

 

〇音楽室

 

生徒たちの前に立つ滝が、オーディションのスタートを告げる。

 

久美子「(ナレ)そしてまた……」

 

滝「では、オーディションを始めます」

 

久美子「(ナレ)次の曲が始まるのです」

 

つづく