響け!ユーフォニアム 第六回「きらきらチューバ」 シナリオ抜き書き

響け!ユーフォニアム 第六回「きらきらチューバ」

脚本 花田十輝 絵コンテ・演出 河浪栄作

 

(プロローグ)

 

滝「さぁ北宇治の実力、見せつけてきなさい!」

生徒たち「はいっ!!」

観客男A「結構上手いじゃん」

観客男B「どこだっけ、ここ?」

観客女B「うそっ、北宇治?」

観客女A「こんなに上手かったっけ?」 

 

OP

 

〇1-3教室

 

中間試験を受けている久美子たち。choiceと書き込む久美子、考え込む葉月、真剣な表情の緑輝。

 

久美子「(ナレ)サンフェスを終えて、心地よい達成感を味わえたのも束の間。高校に入って初めての中間試験。平均よりやや上という、喜ぶほどでもなく落ち込むほどでもない結果を迎えた後、いよいよ夏のコンクールに向けての練習が始まった」

 

〇音楽室

 

並び座る部員たち、スケジュールの印刷された紙を順に受け渡してゆく。

 

滝「まず、これからのスケジュールをみなさんにお配りしました」

 

久美子「(ナレ)吹奏楽コンクールは、例えるなら野球部における甲子園のような、吹奏楽部にとっての最大の大会。わたしたちの地域では府大会、関西大会、全国大会の順に各大会で代表に選ばれた高校が次の大会に進むシステムなのだが、わが北宇治高校はここ10年、最初の府大会止まり。しかも銅賞という残念な状態なのだった」

 

滝「さて、ここからが重要な話なのですが、今年はオーディションを行うことにしたいと思います」

部員たち「(ざわざわ)え、まじ!?」

晴香「え、オーディションって?」

滝「はい。わたしが1人1人、みなさんの演奏を聴いて、ソロパートも含め大会に出るメンバーと編成を決める、ということです」

久美子「えっ」

部員たち「えぇーっ!?」

 

タイトル 第六回「きらきらチューバ」

 

〇大会に向けた編成の説明映像

 

久美子「(ナレ)わたしたちはA部門というカテゴリーでコンクールに出場する。この部門では、課題曲と自由曲の2曲を最大55名までの編成で演奏する決まりになっていて、それ以上人数がいる場合、誰かが出場できないことになる。北宇治高校では以前から、上級生が優先的に出場してきた。つまり、ほとんどの場合初心者と1年生が外れてきたのだった。そこに突然降ってわいたオーディション。当然、反対の声は大きかったが……」

 

〇音楽室

 

滝の説明が続く。

 

滝「難しく考えなくても大丈夫ですよ。3年生が1年生より上手ければよいだけの事です。もっとも、みなさんの中に1年生より下手だけど、大会には出たいという上級生がいるなら別ですが(と、にっこり)」

 

久美子「(ナレ)という『粘着』、『イケメン悪魔』のあだ名にふさわしい滝先生の『意地悪』なひと言に反論できる者はなく、オーディションは行われることになった」

 

〇教室(低音パート)

 

低音パートのメンバーがオーディションの話をしている。

 

葉月「でも、コンバスって緑1人だから当選確実でしょ?」

緑輝「先生の望むレベルじゃなきゃ、コンバス抜きで編成組むってこともありますよ?」

久美子「緑ちゃんなら大丈夫だと思うよ」

葉月「ユーフォだって3人だし、全員合格だよね?」

久美子「……うん(暗い顔をする)」

 

〇中学時代(回想)

 

楽器室で上級生に詰められる久美子。

 

上級生「馬鹿にしてんの?」

久美子「……」

 

〇教室(低音パート)

 

オーディションの話が続く。

 

梨子「そんなこと言って、チューバだって全員選ばれちゃうかもよ?」

葉月「えっ、わたし初心者ですよ」

梨子「わっかんないよ?オーディションだからね。先生の前でちゃんとした演奏ができれば、もしかしたら……」

葉月「いやー無理ですよ。無理、無理。きっと来年には成長してると思うんで、そん時に。(後ろ後ろーと指さす梨子と久美子をに気付き)……ん?(いつの間にか、後ろに立つあすかに)おっおわあぁぁぁぁぁあすか先輩、パーリー会議終わったんすか?」

あすか「甘いぞ、加藤!!」

葉月「うわあぁぁ」

あすか「(葉月を指でつつきながら)よく考えるのだ加藤ちゃん!オーディションだよ、オーディション!上手い人間がレギュラーになるシステムだよ」

葉月「そんなの分かってますよぉ」

あすか「本当に分かってる?それって逆に言えば、下手だと来年も再来年もレギュラーの保証はないってことなのだよ」

葉月「う……へっ?」

あすか「(緑の肩を掴み)来年、例えばサファイア川島みたいな、聖女のチューバ経験者が入ってきたら……」

 

〇未来のイメージ

 

新入生が入部して、自己紹介。

 

ルビー川島「わたし、ルビー川島ですぅ。チューバやってます(と上手く吹く)」

葉月「うまっ」

~1年後~

PD川島「プラチナダイヤモンド川島です。チューバやってます(ルビー川島と二重奏を始める)」

葉月「うまっ、うまっ。うまーっ!」

 

〇教室(低音パート)

 

現実の戻り、あすかの話が続く。

 

あすか「なんてことになるかも知れないんだよ?」

葉月「そんな。緑の人でなしっ」

緑輝「ほぇ?」

あすか「だから、初心者でも今年からレギュラー取るつもりで頑張る。冬に凍死するキリギリスのようにならないためにも」

葉月「はっ、はい分かりました」

梨子「なんか例えがおかしいような?」

久美子「キリギリスって凍死しましたっけ?」

あすか「あ、ノンノン。日々の練習が大切ってこーと」

 

扉が開く音に、女子たち「ん?」。卓也が入り口に立っている。

 

卓也「課題曲、自由曲の譜面とCDもらってきた」

 

机の上に置かれる譜面とCD。

 

卓也「課題曲が田坂直樹『プロヴァンスの風』、自由曲が堀川奈美恵『三日月の舞』」

あすか「おお、滝先生。分かってるぅ」

久美子「そうなんですか?」

あすか「うん。堀川奈美恵といえば、京都府生まれの今をときめく女性作曲家だよ。管弦楽吹奏楽を中心に活躍している若き才能。彼女の魅力は繊細なメロディーと……」

卓也「始まった……」

緑輝「聴いてみましょうか?」

 

ラジカセから流れる『三日月の舞』を聴く一同。

 

葉月「おぉ、何かかっこいい!」

緑輝「ですね」

あすか「うふふ。この曲は低音がいいんだよねぇ」

 

久美子「(ナレ)その曲は確かにダイナミックで、でも失敗したら目も当てられなくなりそうで……」

 

〇職員室

 

窓際でコーヒーを飲む滝。

 

久美子「(ナレ)わたしは思った。やっぱり滝先生は本気で全国を狙っていると」

 

〇教室(低音パート)

 

梨子、低音パートのメンバーに譜面を配る。

 

梨子「それで、これが譜面ね。それぞれオーディションで吹くところに〇印がついてるみたい」

夏紀「(譜面を受け取り)どうも」

あすか「えーと、どれどれ(と初見で吹ききる)」

葉月「うわぁ、もう吹けちゃうんですか?」

あすか「ふーん、オーディションはここからここまでかぁ。滝先生も意地悪だねぇ」

葉月「ねぇねぇ、久美子も吹ける?」

久美子「うん、あそこまでは無理だけど(と吹く)」

夏紀「(歩いてきて)上手いね」

久美子「えっ、ありがとうございます」

夏紀「ユーフォ始めたの、いつって言ってたっけ?」

久美子「小4からです。姉につられてなんとなく」

夏紀「じゃぁ今年で7年か。そりゃ差もつくか……。個人練行ってくるね(と、出ていく)」

久美子「あ、はいっ」

葉月「差ってなんですか?」

梨子「うん……。それより、はい。(葉月に譜面を渡して)指番号振っといてあげたから、これに沿って練習してみて」

葉月「はぁ(と、息を吸って吹き始める)」

梨子「ほらぁ、焦らないの。まずは1つ1つ、狙った音をしっかり出すことを心掛けて」

葉月「んなぁ、難しい!(と抜き差し管が外れて)うわっ、壊れた!!」

梨子「違う違う。外したの」

卓也「メンテのとき教えただろ?」

葉月「メンテ?ロータリーにオイルは注してますけど」

卓也「あっ、あー……」

梨子「あっ……。教えてなかったっけ?」

 

楽器室

 

チューバを分解して清掃する葉月たち。

 

葉月「チュパカブラばらばら事件」

緑輝「おぉ、迷える魂に幸あれ」

葉月「ま、まだ壊してないからね。……しかし、こう見ると大きいなぁ」

緑輝「管も長いですね。吹き込んだ息って、ここ通って、この管通って、あっちの管に行って、ここを通って」

葉月「すごいよ、チュパカブラ!」

久美子「(抜き差し管を清掃しながら)ねぇねぇ、たまにはこうやってメンテしないといけないんだよ。それぞれつなぎ目のところの汚れとか、中の汚れを柔らかいブラシで取っていって。で、全部きれいにしたら、グリースをちょっと付けてはめていく。ロータリーはこっちのオイル。わかるよね」

葉月「うん。あぁ、待って。自分でやる。じゃなきゃ覚えないし……」

 

管の清掃を終えて、楽器を磨く葉月を久美子と緑が見守る。

 

葉月「えーと、仕上げはこれで(ポリッシュで磨いて)、おぉ!きらきらだ。うーん、さすがチュパカブラ、美人だねぇ。惚れ直したよ。よおし、じゃぁこっちも」

緑輝「なんか、初めて楽器を持った時のことを思い出しますね」

久美子「……うん」

 

〇小学校時代(回想)

 

ソファーでユーフォを磨く久美子。横にはトロンボーンを持った中学生の麻美子が座って見守っている。

 

久美子「はぁー」

麻美子「あぁ、ぴかぴかになってきたじゃん」

久美子「うん!えへへ」

 

〇楽器室

 

昔を思い出して微笑む久美子。と、葉月が何か困っている.

 

葉月「あれー?抜けなくなった」

緑輝「それ、違うんじゃないですか?」

久美子「ん?わっ、それ間違ってるよ!」

葉月「そ、そうなの?」

久美子「ちょっと貸して!うわっ固っ、なにこれ!?」

緑輝「この緑もお力添えします」

葉月「ど、ど、どうしたら」

久美子「大丈夫。こっち持ってて。いい?」

葉月「うん」

緑輝「はい」

久美子「せーの」

3人「よっ……」

久美子「せーの」

3人「ほっ……」

葉月「ううぅ、こんなの先輩に見られたら絶対に怒ら……」

3人「(廊下のあすかに気付き)はっ!」

あすか「……そうか、チュパカブラだけに大きなかぶだ!」

葉月「助けてください!」

 

〇中庭

 

麗奈と話す久美子。

 

麗奈「チューバのソフトケース?」

久美子「うん。葉月ちゃんが、もっと家でも練習したいって。楽器管理係だったら知ってるかなぁって……」

麗奈「ちょっと待って。調べてみる。(ノートを開いて)……1つだけあった」

久美子「ほんと?」

麗奈「持ち帰るなら、いま書いておくね」

久美子「うん。ありがとう。あ、個人練?」

麗奈「あぁ、うん。トランペット、ソロもあるから」

久美子「えっ!?ソロやるつもりなの?」

麗奈「分からないけど。滝先生、ソロもオーディションで決めるって言ってたでしょ」

久美子「そっか」

 

上階の渡り廊下からトランペットの音が聞こえてくる。

 

麗奈「……香織先輩」

久美子「上手だね」

麗奈「先輩の中ではね。ハイトーンもきれいに出せるし。(ノートを閉じて)もう持ち帰っても大丈夫」

久美子「……高坂さんらしいね」

麗奈「……っ」

 

宇治駅前の交差点(回想)

 

髪をかきあげて笑顔を見せる麗奈。

 

麗奈「黄前さんらしいね」

 

〇中庭

 

話を続ける久美子と麗奈。

 

麗奈「仕返し?」

久美子「あっ、うーん、そうかも(と笑い)あ、ケースありがとう(と、立ち去る)」

麗奈「っ……」

 

トランペットのソロパートを吹き始める麗奈。

 

〇楽器室

 

チューバのケースを閉める葉月に久美子が尋ねる。

 

久美子「ほんとに持って帰るの?」

葉月「ここまで来て、やめるわけに行かないでしょ。こうやって背負うんだよね(ケースを背負って)っおぉおぁっととぉ」

久美子「わぁ、大丈夫?」

緑輝「わぁあ」

葉月「よっと、ほぅ」

久美子「なんか、チューバに担がれてるみたい」

緑輝「久美子ちゃん、声に出てる……」

久美子「はっ(と手で口を押さえる)」

 

宇治川沿いの石段

 

チューバを吹く葉月。その横では久美子と緑がソフトクリームを食べている。

 

久美子「やっぱり抹茶ソフトにすればよかった」

葉月「はあぁ駄目だ。ぜんぜん思ったように吹けないよぉ」

緑輝「さっきよりは良くなりましたよ。ねっ」

久美子「ぅんっ」

葉月「いいよ。自分でわかってるから」

久美子&緑輝「うぅ……」

葉月「わたしさ、中学の時、テニス部でも最初はまったく思ったプレーができなくて。中途半端は嫌だったから、いっぱい練習したんだ。でも、駄目だった。最後の大会、勝てなくって。だから上手くなりたい、チューバは。自分で納得できるくらい」

緑輝「あぁ、葉月ちゃん(葉月に近づく)」

葉月「うわぁ、なに」

緑輝「緑、感動しました。これ食べていいですよ(と抹茶ソフトを差し出す)」

葉月「ちょ……」

緑輝「ひとは何でも変えられます。世界中の何でも」

葉月「……うん、頑張る!」

緑輝「その意気です!さぁ」

葉月「うぉ、緑。(ベチャっと押し付けられて)ぼべ、冷た!……助げでぇ」

緑輝「葉月ちゃん、大好きですよ」

葉月「ヴえぇ」

久美子「上手くなろうね」

葉月「ぶへ!」

緑輝「はい!」

 

CM(バリトンサックスの晴香)

 

〇廊下

 

梨子にインタビューする久美子たち。

 

梨子「チューバやってて良かったこと?」

緑輝「はい!モチベーションの側面から、ぜひ参考にしたいと思いまして」

葉月「(コクコク)」

梨子「そうだねぇ」

緑輝「何かありませんか、梨子先輩?」

梨子「大きくて、重い!」

緑輝「それは、良いところですか?」

梨子「地味で、あんまり目立たないところばかり吹く割には息がつらい。苦しい」

緑輝「良いところなんですか?」

梨子「なぜかチューバのせいってよく怒られる。……そんな感じだなぁ」

 

〇渡り廊下

 

卓也にインタビューする久美子たち。

 

卓也「チューバの良いところ?」

久美子「はい。前に後藤先輩チューバ大好きって言ってましたよね。その辺りを是非、葉月ちゃんにご教示いただきたく」

葉月「……(期待のまなざし)」

卓也「ふん……。加藤」

葉月「はい」

卓也「チューバの一番良いところはなぁ」

葉月「はいっ」

卓也「チューバの良いところっていうのはなぁ、良いところが無いところだ」

久美子「先輩」

葉月「おぉ」

卓也「良いところが無いのに一生懸命頑張る。ひたすらに頑張る。そこが良いんだよ。いや、それが良いんだよ。その気持ちが分かれば、お前も立派なチューバ吹きだ」

葉月「はいっ」

梨子「(拍手して)良いこと言った!」

久美子「良いことでした?勢いだけでしたよね、今の。明らかに」

梨子「違うよ。愛と自信が大切ってことだよ」

久美子たち「ぁー……」

 

〇廊下の手洗い場

 

あすかに相談する久美子たち。

 

あすか「もう、なんで早く聞きに来なかったの?水臭いなぁ」

久美子「梨子先輩は愛と自信が大切だって言っていました」

あすか「そうだねぇ。そう言うことなら、今の加藤ちゃんにピッタリのやつがあるかな。レッツ加藤ちゃん」

 

〇教室(低音パート)

 

あすかに楽譜を渡される葉月。

 

葉月「なんだこれ?」

あすか「指番号振ってあるから、初見でいけるでしょ?」

葉月「えっと……(と、吹き始める)」

久美子「練習曲ですか」

あすか「そ、初心者用のね。どんな簡単なことでも、完璧に出来ると嬉しいもんでしょ」

緑輝「まずはできるって感覚と喜びを味わってから、次につなげるわけですね」

あすか「そうよぉ。えらいわねサファイア川島」

緑輝「えへへ、川島緑ですぅ」

あすか「(葉月に)ほらぁ、できてるじゃない」

葉月「はぁ」

あすか「この調子ならオーディションだって間に合うよぉ」

葉月「だって簡単ですし……」

あすか「ん?何?」

葉月「だって簡単じゃないですか。テンポも遅いし。見て分かりませんか?どこがわたしにピッタリか知りませんけど、あすか先輩の考える練習って……」

あすか「(怒りのあすか、葉月の脇腹をくすぐり)加藤ちゃんのくせに生意気だぁ!」

葉月「ああぁ、ちょっとやめっ!?お腹いたいっ!うはは」

あすか「腹筋が出来ていないからだ、この怠け者めが!」

 

〇楽器室

 

葉月に隠れて密談するあすか、卓也、久美子と緑。

 

あすか「奥の手か」

久美子「早っ……(口を押える)」

あすか「サファイア川島は15分後、ここに加藤ちゃんを連れてきて」

緑輝「緑ですが!(と、敬礼)」

あすか「黄前ちゃん」

久美子「はい」

あすか「君には一肌ぬいでもらおうか」

久美子「……」

 

あすかの前にチューバ君(CV黄前久美子)が立っている。

 

あすか「ばっちりだね!去年の学園祭で作ったの。あっ、でね、加藤ちゃんが来たら『チュパカブラだヨー。葉月ちゃんはボクを吹くために生まれてきたんだヨー』って」

チューバ君「わたし、騙されてます?」

あすか「加藤ちゃんのために決まってるダロが」

チューバ君「噓だ」

あすか「口ごたえとは生意気だねぇ」

チューバ君「ぜったいあすか先輩の趣味ですし、しかもこれチュパカブラじゃなくてチューバ君ですし……」

あすか「えっ、そうなの?」

チューバ君「わたしのカバンに付いてるやつなんですけど……」

あすか「なんでユーフォなのにチューバを?」

チューバ君「あのシリーズではユーフォのマスコット出してくれないから、代わりです」

あすか「あいかわらず日陰だねぇ、ユーフォ」

 

楽器室の外から葉月たちの声がする。

 

葉月「どしたの、急に?」

緑輝「こっちですよ」

葉月「楽器室?」

チューバ君「はっ」

あすか「おおっと、時間よシンデレラ。飛び切りの魔法をかけてあげるわ。!!グッドラック!」

チューバ君「えっ、へぇ」

 

入り口に立つ葉月と緑。緑のほうがチューバ君に食いつく。

 

チューバ君「あっ……」

緑輝「チューバ君♡」

久美子「そうだった!」

緑輝「チューバくーん♡」

チューバ君「うわ、ちょっと」

緑輝「チューバ君!チューバくーん♡」

チューバ君「ぼ、僕は葉月ちゃんに用事が……」

葉月「久美子、なにやってんの?」

チューバ君「チュパッ!!?いや、僕は久美子じゃなくて……」

 

扉の外のあすかと卓也。その手にはカンニングペーパーが示されている。「初志貫徹」「加藤を頼む!!」

 

久美子「後藤先輩!そうだ、しっかりしなきゃ。葉月ちゃんの為に」

チューバ君「葉月ちゃん。僕はチュパカブラだよぉ……(葉月がいなくなったことに気づいて)いない!!」

緑輝「(うっとりと)わたしがいますよ、チューバ君♡」

あすか「うん。いいねぇ(と、写メを撮る)」

 

〇教室(低音パート)

 

久美子が着ぐるみから顔を出して落ち込んでいる。

 

久美子「騙された。騙されました、わたし(と、さめざめ)」

あすか「あららぁ、こっちも面倒くさいねぇ。吹部にもユーモアは大切でしょ(と、チューバ君の顔をぷにぷに)

緑輝「(それを見て)わあああぁ!」

久美子「そうかも知れませんけど」

梨子「でも何で急に葉月ちゃんのこと心配しだしたの?」

久美子「それは……」

 

〇小学校時代(回想)

 

ソファーで泣いて落ち込む小学生の久美子。

 

久美子「(OFF)なんか思い出しちゃって。上手く吹けないのって……」

 

〇教室(低音パート)

 

久美子の話が続く。

 

久美子「周りが思ってるより、ずっとつらいと思うんです」



〇廊下

 

1人廊下で個人練習をしている葉月。ふと、秀一の姿を見かけて頬を赤らめる。

 

久美子「(OFF)今はまだ考えることも多いから、そこまで意識していないのかも知れないけど、何かきっかけが掴めないと嫌になっちゃうんじゃないかなって」

緑輝「そもそもトランペットかサックスがやりたいって言ってましたもんね」

 

〇教室(低音パート)

 

あすか「まぁ、低音はねぇ。最初は他の楽器やりたかったって人、多いからなぁ」

梨子「モチベーションを上げる……かぁ」

卓也「俺は合奏したときかなぁ……」

久美子「えっ、今なんて?」

卓也「あ、いや、チューバだけだと単調なフレーズが続くから、なぁんだって思ってたことがあって……。でも、合奏で他のパートと音が合わさったらさ、音楽になった。ハーモニーが生まれた。支えてる実感もあった。その時から俺はずっとチューバが……」

あすか「何でそれを加藤ちゃんに言わなかったの?」

卓也「少し、照れくさくて」

久美子「葉月ちゃん、合奏したことないかも」

あすか「この前のサンフェスは……」

梨子「あっ、ポンポン持って歩いてました」

あすか「その前の合奏練習は?」

緑輝「初心者だから、演奏せずに座ってました」

全員「それだ!!」

梨子「葉月ちゃん、基礎練してばっかりだったねぇ」

緑輝「合奏の楽しさ」

久美子「ある!葉月ちゃんができる曲」

 

〇廊下

 

夕日が射す廊下を、葉月がチューバを抱えて歩いてくる。

 

葉月「うぅ、唇痛い……んん、ふんっ(と気合を入れて)」

 

〇教室

 

葉月が帰ってくると、久美子と緑が待っている。

 

葉月「ただいま戻りましたぁって、あれ先輩たちは?」

久美子「葉月ちゃん、これ合奏してみたいんだけど(楽譜を差し出す)」

葉月「え、わたし曲とかまだ出来ないよ?ん、ってこれ、さっきの……」

 

葉月が椅子に座り、久美子と緑も演奏準備が整って、3人の合奏が始まる。

『きらきら星』の演奏。ハッとする葉月。

 

(インサート)練習をする麗奈、夏紀、クラリネットパート、パーカッションパートの姿。

 

曲が終わり、久美子が葉月に尋ねる。

 

久美子「どうだった?」

葉月「……ぁ、何だろう。すごく……、音楽だった」

久美子&緑輝「はぁ」

葉月「そっか、こういうことか。うん、やっぱいいね、チューバ。めっちゃ楽しい!!」

 

〇電車内

 

下校する久美子と葉月。葉月はチューバを抱えている。

 

久美子「そしてまた持って帰る、っと」

葉月「うん!離れたらいけない気がしてさ。そういう久美子だって、持って帰ってるじゃん?」

久美子「感化されちゃった」

葉月「いいじゃん!久美子も頑張りな」

久美子「上から来るねぇ」

葉月「(電車が駅に着き)おっと、降りなきゃ。よっ(と、立ち上がり)、……ありがとね」

久美子「ぅん」

 

黄檗駅ホーム

 

電車から降りようとした葉月、足がもつれて転びそうになり、秀一がそれを助ける。

 

葉月「フンっ、ふぇうわあぁぁぁ……痛っ……くない。です」

秀一「っぶね。大丈夫?」

葉月「あ……」

 

チューバを支える秀一、葉月がその顔を見つめる。

 

秀一「すげぇな、チューバ持って帰るんだ」

葉月「あ、……うん。家でも練習、したくて……」

秀一「そっか。オーディション、頑張ろうな!」

葉月「ぅ……、うん」

 

宇治川沿いのベンチ

 

ベンチでユーフォを吹く久美子。塾帰りの葵が歩いてくる。

 

久美子「(ナレ)こうしてコンクールに向け、それぞれが目標へと向かって歩き出し……」

 

葵「(久美子を見つけて独り言)いいな、久美子ちゃんは」

久美子「(気配に気付き)ん?葵ちゃん?」

 

久美子「(ナレ)それぞれの想いを胸に……」

 

葵「(笑顔を見せた後、叫ぶ)オーディション、頑張りなよ!!)

久美子「えっ?」

 

風になびく久美子の髪~空の一番星へパン。

 

久美子「(ナレ)次の曲が始まるのです」

 

つづく

ED