響け!ユーフォニアム 第五回「ただいまフェスティバル」 シナリオ抜き書き

響け!ユーフォニアム 第五回「ただいまフェスティバル」

脚本 花田十輝 絵コンテ・演出 三好一郎

 

(プロローグ)

 

麗奈「言っとくけど、滝先生すごい人だから!馬鹿にしたら許さないから!!」

滝「わたしはできると思っていますよ。何故なら、わたしたちは全国を目指しているのですから」

 

OP

 

〇保健室

 

身体測定をしている1年生たち。葉月は肺活量を測定している。

 

女子「(ざわざわ)また体重増えてた……」

葉月「ふー、はぁーーー、ぶふぅうぅぅぅ!(と肺活量を測定)」

女子A「わっ、すごーい」

女子B「男子並みだよ!どうなってんの?」

葉月「ぷはあぁぁ……(と、へたり込み)ふぅぅ」

女子B「すごいよ、葉月!」

緑輝「さすがチューバですね」

女子AB「えっ?」

緑輝「葉月ちゃんが担当するチューバは、吹奏楽のなかでも特に肺活量の必要な楽器と言われています」

女子B「そうなんだ」

葉月「だからさぁ、いつも先輩に鍛えられてて……」

 

〇廊下(回想)

 

梨子が葉月に腹式呼吸の指導をしている。

 

梨子「吐ききったところで吐く!さらに吐く!あきらめないで、まだ吐けるよ!」

葉月「うぅぅぅぅぅぅ」

梨子「まだ行ける!もっと吐ける!全部吐いて、残らず吐いて。吐いて吐いて吐いて吐いてぇ!」

 

〇保健室

 

会話を続ける葉月たち

 

緑輝「って、毎日耳まで赤くして頑張ってます!」

女子A「すげぇな、吹部……」

女子B「過酷だね……」

久美子「(OFF)嘘!?」

 

久美子、胸囲測定の結果を見て落ち込む。

 

久美子「胸囲が去年と同じ。まったく変わってない!あぁっ(涙目で胸をなで)」

 

〇草原(イメージ)

 

草原に立つ久美子、空に向かって叫ぶ。(高校生・成長期・憧れのCカップの文字が飛ぶ)

 

久美子「おい、久美子!あんたもう高校生だよ。春になったら大きくなって、すっかり大人になるんじゃなかったの?」

 

〇保健室

 

現実に戻った久美子に緑輝が話しかける。

 

緑輝「久美子ちゃん、どうかしましたか?」

久美子「あ、緑ちゃん。ん(と、緑の胸と自分の胸とを見比べ)、ふぅん……」

緑輝「えっ?」

 

〇中庭の階段

 

身体測定終わりの久美子たち。背伸びをする葉月。

 

葉月「あぁ、やっと終わった」

久美子「(葉月の胸を見て)ぺったんこ」

葉月「ん?何?」

久美子「2人ともありがとう。遠回しに励ましてくれて。わたし心が折れそうに……」

緑輝「あ、あすか先輩です」

葉月「せんぱーい!」

あすか「おっ、終わったね身体測定。どうだった?(と体をひねるとバストが揺れる)少しは成長したの、お嬢ちゃんたち?」

 

久美子があすかのバストに気圧され、また落ち込んでいる。

 

タイトル 第5回 「ただいまフェスティバル」

 

〇音楽室

 

談笑している部員たち。春香と牧が段ボール箱を持って入ってくる。

 

部員たち「(ざわざわ)」

葉月「あ、来た!」

晴香「はーい、来週の本番に向けて衣装配るから、順番に取りに来てね。まずはパーカスから。……堺さん」

堺「はい」

晴香「釜屋さん」

釜屋「はい」

 

久美子「(ナレ)サンライズ・フェスティバル、通称サンフェスでは音楽イベントのひとつとして、府内各校の吹奏楽部によるパレードが恒例となっている……」

 

晴香「次、低音……」

葉月「はい!はいっ、はーい!」

 

久美子「(ナレ)吹奏楽部ではマーチングと言って、今回の様に行進したり、フォーメーションを展開しながら演奏することもある。マーチングコンテストに力を注ぐ有名校にもなると、中には衣装に憧れて高校を決める生徒もいるらしい」

 

晴香「(手をたたき)はい、聞いて」

あすか「今日の練習はグラウンドが空いているので、外でやりまーす。試着終わったらジャージに着替えて、グラウンド集合で」

晴香「じゃぁ、音楽室は女子……」

 

試着を終えた女子部員たち。スカートを翻す葉月。久美子はまだ胸のサイズを気にしている。

 

葉月「ふん。どう、似合う?」

緑輝「はい!似合ってます。……あぁ、緑もコンバス持って行進したかったなぁ」

 

〇(インサート)マーチング会場

 

コンバスを抱き抱え、笑顔で行進する緑輝。

 

〇音楽室

 

葉月「(その姿を想像して)無理でしょ」

緑輝「分かってます」

葉月「まぁ、今回はわたしたち初心者に混じって一緒に歩こ?」

優子「きゃあああ♡先輩かわいい!マジ、エンジェル。あとで写真、いいですか?一緒に」

香織「いいけど、去年も撮ったような」

優子「いいんです!何度でも」

あすか「さっすが香織、確かに似合う」

香織「もぅ、あすかの方が全然かっこいいよ」

あすか「えっ?そうかなぁ?」

香織「そうだよ。スタイルいいし、美人だし。それに……」

麗奈「(久美子の視線に気づき)……?」

久美子「(目が合って)ぅ、ん……(と目を伏せる)」

麗奈「(照れて)っ……」

 

〇グラウンド

 

強い日差しのもと、グラウンドに久美子たちが立っている。

 

久美子「ぅわあ……。これってもしかして焼ける?」

葉月「そりゃ焼けるでしょ」

緑輝「出てるとこだけ、こんがりと……」

葵「(久美子たちに近づき、日焼け止めを差し出す)はい」

久美子「あ……」

葵「使っていいよ、日焼け止め」

久美子「あおいちゃ……先輩」

葉月&緑輝「ありがとうございます!」

葵「(笑って)やっぱり落ち着かないね、久美子ちゃんに先輩って言われると」

久美子「(立ち去る葵に)あ、ありがとう」

 

グラウンドに線が引かれる。整列する部員たち。

 

あすか「はーい、いいですか?今日はまず、楽器を持たずに練習をします。初心者の1年はステップ練習をしてください。他は全員、行進の練習から始めます。足が揃ってないと、ある意味演奏のミスより目立つので気合を入れていくように!」

部員たち「はいっ」

 

行進の練習をする部員たち

 

久美子「(ナレ)行進は1歩62,5㎝。左足から歩き出す。1歩62,5㎝というのは8歩でちょうど5m。演奏しながら下を見ないで、常にこの歩幅で歩けるようにならないといけない。正確にできていれば……」

 

晴香がピッと笛を吹き、部員たちの足が整然と並ぶ。

 

久美子「(ナレ)こうなるし、できていなければ……」

 

晴香がピッと笛を吹くが、部員たちの足の位置がばらばら。

 

久美子「(ナレ)こうなる」

 

行進する部員たちに、あすかたちの指導の声が飛ぶ

 

晴香「足ちゃんと揃えてね。ちょっと体ブレてるよ」

あすか「前をしっかり見て!」

晴香「背筋伸ばして。ほら、そこライン揃ってないよ」

 

(時間経過)並ぶ部員たちを前にあすか。

 

あすか「はい。それじゃ、5分休憩」

 

〇木陰のベンチ

 

久美子と葉月が歩いてくる。

 

久美子「あぁ……、やっと休めるよ」

葉月「あぁ、暑かった」

久美子「こりゃ本番はもっと暑いよねぇ」

葉月「勘弁してほしいよ……。(水筒を差し出し)飲む?」

久美子「ん?あぁ、いい。ありがとう。……あれ、緑ちゃんは?」

葉月「んっ(と指さし)。なんか、かわいいからガードやってって言われてたよ?」

久美子「(ガードの練習をする緑を見て)ふーん、ガードかぁ。さすが聖女だねぇ」

葉月「はぁ、わたしなんて謎ステップもまだななのに」

久美子「あぁ、北宇治高名物の?」

葉月「謎っていうだけあって難しいんだよ(と、やって見せる)。歩きながら、えっと、こうして、こう。こう、こう、こうで、こうか?あれ?こうだっけ?」

久美子「確かに謎だぁ」

葉月「でしょ?さっきあすか先輩に注意されたんだ」

 

あすかに指導される葉月のイメージ(ちょっと!!やる気あんの!ダメ!遅い!まだ遅い!の文字)

 

葉月「ねぇ、あすか先輩ってさぁ部長より厳しいよね」

夏紀「そりゃそうだよ(と2人のもとに近づく)。あすか先輩はドラムメジャーだからね」

久美子「夏紀先輩」

葉月「あの、ドラムメジャーって何ですか?」

夏紀「隊列の先頭を歩いて、指揮者の代わりになる人。まぁ、そのバンドの顔みたいなもんかな」

久美子「バンドの顔って、部長じゃないんですね」

夏紀「晴香先輩はメンタル弱いからなぁ……」

葉月「部長なのに?」

夏紀「まぁね。本当はみんな、あすか先輩に部長になって欲しかったんだけど、あすか先輩はそういうの、あんまり好きじゃないからさ。副部長も渋々だったし」

久美子「そうなんですか」

葉月「すごいリーダー体質ってかんじだけど」

夏紀「ま、向き・不向きと好き・嫌いは別ってことじゃない?どっちにしろ、去年に比べたらずいぶん変わったよ。去年は行進の練習なんて当日までほとんどしなかったし……」

あすか「(部員たちに)そろそろ始めるよー」

久美子&葉月「はいっ(と駆け出す)」

 

〇グラウンド

 

練習を再開した部員たち。

 

久美子「(ナレ)あの海兵隊の合奏以来、この部の空気は明らかに変わった。『やってもどうせ同じだ』から『頑張れば良くなる』に変化したのだ。ひとは単純だ。見返りがあると分かれば頑張るようになり、頑張ってよくなれば更に頑張ろうとする」

 

(時間経過)真剣な表情の部員たちの前にあすか、滝らが立っている。

 

あすか「(笛を吹き)はい、集合して……。ラスト1本の感じ、忘れないでね。来週の本番までもう時間がないから、明日も集中して練習するからね」

部員たち「はいっ」

あすか「(うなずく)」

滝「(あすかの視線をうけ)では、そろそろ時間ですね」

あすか「はい。じゃぁ、今日はここまで。片づけに入ります」

橋「あの、ちょっといいかな。明日からグラウンド使えないんでしょ?なら、もう少し合わせておいた良いと思うんだけど……」

滝「(時計を見て)分かりました。あと30分だけ延長しましょう。ただ、帰らなきゃいけない人は帰ってください。続ける人は携帯使っていいですから、家に連絡すること。分かりましたか?」

部員たち「はいっ」

 

〇テント

 

楽器を置き、ポーチからスマホを取り出す久美子に、葵が声をかける。

 

久美子「しょっ……」

葵「じゃあね、久美子ちゃん」

久美子「え、あ、葵ちゃん、帰るの?」

葵「うん。これから塾なんだ。頑張ってね(と、立ち去る)」

久美子「……あ、先輩つけるの忘れてた(と、晴香と立ち話する葵を見る)」

 

〇グラウンド

 

練習を続ける部員たち。美知恵の掛け声が響く。

 

美知恵「1,2,1,2,1,2,1,2,1,2,1,2,1,2……」

 

六地蔵駅

 

すっかり暗くなった駅前に久美子・葉月・緑輝がやってくる。

 

葉月「1,2,1,2,1,2,1、うわっつとと(足がもつれ)。もうっ、なかなか慣れないよぉ」

 

黄檗駅ホーム

 

電車から降りてくる葉月、車内の久美子にあいさつ。

 

葉月「じゃあねぇ」

久美子「バイバイ」

葉月「(あくび)ふわぁ」

 

〇電車内

 

がらがらの車内。久美子、シートに腰をおろす。

 

久美子「よいしょぉっ……。あぁ、疲れた。今夜は爆睡だな。(と、大あくび)ふぁぁ」

 

ローファーも脱いでくつろぎ、ふと横を見ると、隣の車両の麗奈と目が合う。

 

久美子「うっ……(と、姿勢を正す)」

 

宇治駅

 

改札を出る久美子と麗奈。

 

久美子「高坂さん、電車通学になったの?」

麗奈「帰り遅くて危ないからって、母さんが」

久美子「そうだよね。昨日もこの時間だったもんね。(どうしよう、なに話そう。中学の時のことは話せないし、また滝先生の話するのもなぁ……)」

 

宇治駅前の交差点

 

交差点までやってくる久美子と麗奈。

 

久美子「っそろそろ中間試験だね……」

麗奈「うん」

久美子「ぇ高校って、勉強難しいよね……」

麗奈「うん」

久美子「あぁ……」

麗奈「黄前さん」

久美子「あ、はいっ?」

麗奈「どう思う?滝先生」

久美子「えっ、滝先生?」

麗奈「そ、どう思う?」

久美子「どうって、そりゃ良い先生だと思うよ。みんな練習するようになったし、夏紀先輩も去年はこんなことなかったって言ってたし、それに、まぁかっこいい……とか」

麗奈「(ハッと)かっこいい?」

久美子「えっ、あ、いや、わたしじゃないよ。みんなが言ってるの。わたしはどっちかって言うと、乗せるの上手い先生だなぁぐらいで」

麗奈「そう」

久美子「うん、そう。ほら、海兵隊が上手にできたからって、去年まで銅賞だったところがいきなり全国行けるとか、そんなのあり得ないよなぁって思って……。(失言に気付き)ああっ、いや違う。あぁあ違うの。そう言うんじゃなくってぇ……」

麗奈「(表情が見えなかった麗奈がくつりと笑う)くくっ」

久美子「(意外な反応に驚いて)ぁっ」

麗奈「黄前さんらしいね(と髪をかき上げ、笑顔を見せる)」

久美子「あぁ」

麗奈「じゃあ、わたしこっちだから」

久美子「へっ、あ。……あぁ」

 

緩やかな坂道を登っていく麗奈を見送る久美子。

 

久美子「(ナレ)その微笑みは謎ステップより謎すぎたけど、なぜかちょっただけ嬉しかった(と、微笑む)」

 

久美子「(ぴょんっ、と振り返り鼻から息を漏らす)ふんっ」

 

CM(テナーサックスの部員たち)

 

〇黄前家

 

久美子の部屋。目覚ましが鳴り、ベッドの久美子が目をさます。

 

久美子「うーん……、っは!!」

 

宇治橋

 

走る久美子

 

久美子「(ナレ)吹奏楽部のイベントや大会の当日は、朝からとても忙しい」

 

〇北宇治高校・正門

 

走ってくる久美子に手を振る葉月。

 

久美子「(ナレ)まず当たり前のことだけど、会場に楽器を運ばなくてはいけない」

 

〇楽器室

 

楽器の準備をする部員たち。葉月が見慣れない楽器を見て。

 

葉月「何ですか?これ」

梨子「スーザフォンだよ」

葉月「おっきいですね」

久美子「(ナレ)小さい楽器なら自分で運べるのだけど、大きな楽器になるとトラックで会場まで運んでもらうことになる」

 

〇駐車場

 

トラックに楽器を積み込む男子部員たち。

 

久美子「(ナレ)楽器運搬係の指示に従ってトラックに積み込んでゆく、結構な力仕事。こういう時、男子部員はとっても頼りになる」

秀一「(重そうに楽器を運ぶ葉月に気付き)ん?」

葉月「(スーザフォンをおんぶしてよろよろと)ふっ、っく、……よっ」

秀一「大丈夫か?」

葉月「あ、うん……」

秀一「貸して(と楽器を持ち上げる)」

葉月「へっ……。(軽々と運ぶ秀一に)おぉっ……」

 

〇音楽室

 

集合して、点呼をとる部員たち。

 

沢田「ホルン、全員います」

香織「トランペット、全員そろってます」

晴香「フルートは?」

姫神「フルートは、(スマホをチェックしつつ)1人遅れてる」

晴香「連絡は取れてるの?」

姫神「(スマホのメッセージに気付き)いま、駅に着いたって」

 

それぞれ、担当する係につく先輩たちの姿(手を組む野口と田邊、役員の晴香、あすかと香織、ピースする吉沢の写真を撮る萩原、楽譜をチェックする雑賀、OBを出迎える渡辺)。

 

久美子「(ナレ)吹奏楽部にはそれだけではなく、様々な係が存在する。各パートのリーダー、部長・副部長・会計。その他、記録係や楽譜係、来場した卒業生を担当するOB係。さらに美化とか広報とか、学校によって様々だが、大抵部員は何か1つは係に就いて仕事を

していたりする」

 

〇学校前の道路

 

バスに乗り込む部員たち。

 

〇バスの車内

 

通路を後ろに進む久美子、空席を見つけ座ろうとする。

 

久美子「すいませーん、通りまーす。(空席を見つけ)あの、ここ座っても……ぁ(と、秀一に気付く)

秀一「おい、なんだよ?」

久美子「(舌打ち)チっ」

秀一「舌打ちすんなよ!(構わず隣に座る久美子に)座るのかよ!?」

久美子「嫌ならほかに行けば?」

秀一「お前なぁ……」

 

〇バスの外

 

最終確認をするあすかたち。

 

あすか「そっち、揃った?」

晴香「(両手でOKサイン)」

 

〇バスの車内

 

並んで座る久美子と秀一。スマホいじる久美子に秀一が声を掛ける。

 

秀一「なぁ」

久美子「ん?」

秀一「今日、頑張ろうな」

久美子「……うん」

 

〇太陽公園

 

会場に詰めかける観客たち。

 

陸上競技

 

他校の生徒たちに混じって北宇治高校の吹奏楽部員たちも集合している。

 

美知恵「いいかお前ら、いよいよ本番だぞ。手を抜いたら承知しないからな!」

部員たち「はい」

美知恵「練習通りやればできる!」

部員たち「はいっ」

美知恵「気合を入れろ、声が小さい!!」

部員たち「はいっ!!」

美知恵「よし、わたしからは以上だ」

滝「(遅れて駆け寄り、息を切らせながら)はっ、すみません。はぁ、ちょっと迷っちゃいました。はぁ。先生からは?」

美知恵「終わりました」

滝「そうですか。えっと、わたしからは特にありません。(きょとんとする部員たちに)皆さんの演奏、楽しみにしてます」

葉月「はぁ、なんか落差ありすぎ」

久美子「だね……」

晴香「じゃぁ、みんな自分の楽器のチューニング終わらせておいてください」

部員たち「はいっ」

 

チューニングを行う部員たち。久美子もチューニングを終えマウスピースから唇をはなす。

 

久美子「大丈夫です」

夏紀「こっちもいいよ」

卓也「(うなずく)」

緑輝「久美子ちゃん」

久美子「うん?」

緑輝「あれ洛秋です」

久美子「あっ、ほんとだぁ」

葉月「あのブレザー、強いの?」

緑輝「ここ10年、関西大会常連の強豪校です」

夏紀「それで、あっちが立華(と、指さす)」

 

水色のユニフォームに身を包み、談笑する学生たち。

 

葉月「えっ、立華ってあの立華高校?」

緑輝「はい。あきれるほどマーチングの強い高校です。独創的な振付けから、水色の悪魔と呼ばれている有名校です」

あすか「あんなにかわいいのに、競技が始まった途端、笑顔のままで演奏しながら飛んだり跳ねたりして、ほんと恐ろしい連中なんだよねぇ」

葉月「まじすか」

梨子「はっ、そういえばプログラムに(と取り出し見て)、うわぁ、やっぱり立華、わたしたち、洛秋の順だ……」

葉月「(沈む雰囲気に)えっ、それがどうかしたの?」

夏紀「最悪ってこと。わたしたち、霞んじゃって何にも残せないかもよ」

葉月「えぇ、嫌だぁ、そんなの」

久美子「(手を振る立華の生徒に気付き)ん?」

梓「久美子ぉ」

久美子「あれ?梓ちゃん?」

葉月「知り合い?」

久美子「うん。同じ中学で吹部だった子。まだ時間あるよね?ちょっと行ってくる(と、駆け出す)」

 

〇競技場の端

 

梓のもとに駆け寄る久美子。

 

梓「なんだ久美子、北宇治だったんだ」

久美子「うん。梓ちゃん、立華に行ったんだね」

梓「えへ、この服着たかったの。予想通りの超スパルタだったけどね」

久美子「そりゃあ、立華だもん」

梓「それより久美子だよ。なんで北宇治なの?」

久美子「え?」

梓「なにかあるんでしょ?友達がいるとか?あ、そうだ、北宇治と言えばほら、高坂麗奈!」

久美子「え」

梓「あの子ってさ、立華の推薦蹴って北宇治行ったって聞いたよ」

久美子「え、え!?そうなの?」

梓「絶対何かあるって、みんなで話してたの。かっこいい男子がいっぱいいるとか。あはは、ないか。ねぇ、久美子聞いてない?ってかさ、北宇治に何があるのぉ?」

久美子「知らない。ないよ、そんなのぉ」

梓「あー、もう教えてよぉ。ぉ、(スマホが鳴って)ごめん、ちょっと待って。お、南宇治到着したって。ちょっと会いに行かない?駐車場すぐそこだし」

久美子「え?」

梓「うちらの中学の子、ほとんど南宇治に行ったでしょ。きっとみんないるよ」

久美子「あの……」

梓「いいから、行こ?」

久美子「あ……」

梓「あさみとかようことか、久しぶりじゃん」

 

駐車場に向かって歩き出した梓、動こうとしない久美子に気付く。

 

梓「ん?どうしたの?」

 

久美子、北宇治高校の部員たちを見やる。謎ステップおさらいの葉月、緑輝、談笑するあすかたち、野口にいじられる秀一、真剣な表情の麗奈。

 

梓「ねえ、行こ?」

久美子「ごめん。わたし今日はいいや」

梓「えっ、どうして?」

久美子「特に意味ないんだけどね。わたしが北宇治を選んだ理由」

梓「……」

久美子「スタートしたかったの。知っている人があまりいない高校に行って、新しく、最初から」

梓「(言葉にならない)ぁ……」

久美子「それだけ」

梓「久美子……。そっか。で、スタートはできた?」

久美子「あ……」

 

スピーカーからアナウンスが流れる。

 

アナウンス「それではただいまより、府内各高校吹奏楽部によりますサンライズ・フェスティバル・パレードをスタート致します。関係者の方は競技場グラウンドまで集合し、整列・待機してください」

久美子「……行かなきゃ」

梓「うん。じゃあ、次会うときはコンクールかな?」

久美子「そう……だね」

梓「お互い、頑張ろう」

久美子「うん。じゃぁ(と立ち去る)」

 

久美子「(ナレ)そのとき気付いた。わたしはもうスタートしていることに。そして今、後悔していないことに」

 

〇公園内の道路

 

パレードが始まり、他校の演奏や歓声が聞こえる。

 

陸上競技

 

パレードが続き、アナウンスの声が流れる。

アナウンス「立華高校吹奏楽部のみなさん、準備をお願いします」

久美子「(深呼吸)はぁっ」

梨子「(緊張の卓也に)後藤君、あれだけ練習してきたんだから、絶対成功させようね」

宮「あの粘着悪魔、何度も同じことばかりやらせて……」

 

(インサート)にっこり笑う滝のイメージ

 

橋「もう完璧にできてるって、分からせてやる」

スタンドの女子A「次、立華高校でしょ?」

スタンドの女子B「で、1個はさんで洛秋だってさ」

観客男A「はさまれたとこ、可哀そうだよなぁ」

観客男B「逆に目立って、いいんじゃね?メリハリきいて」

秀一「(それを聞いて、小さく)うっせーよ」

アナウンス「続きまして、立華高校吹奏楽部のみなさんです」

 

『フニクリフニクラ』が始まり、観客の大歓声が北宇治の部員たちにも届く。

 

葉月「何これ!?すごいね」

緑輝「立華高校の十八番ですよ」

 

華やかな立華の演奏に、明らかに反応が違う観客の歓声。それを聞いてどんどん委縮していく北宇治の部員たち。

 

三原「来たわね」

高久「うわ、うますぎる……」

加瀬「でしょ」

大野「まったく外さない」

加山「これはウチら悲惨だわ……」

香織「(優子に)深呼吸して」

優子「ぁ、はい……」

瀧川「俺、なんか自信がなくなってきた」

平尾「大丈夫、落ち着いて……」

晴香「(その様子を見て)ちょっと、もう出番だよ。みんなしっかり……」

 

ふいに、麗奈のトランペットが高らかに鳴り響く。虚を突かれてびっくりする部員たち。

 

優子「(ハッとして)バカ!高坂なに音出してんのよ!?ここ来たら音出し禁止って言われたでしょ?」

麗奈「すみません(フンっとばかりに髪をかき上げる)」

優子「ぁぁ!?」

 

笑う部員たち。雰囲気が和む。

 

臼井「びっくりしたね」

島「(聞き取れず)かと思った」

 

いよいよ北宇治高校の名前が呼ばれる。

 

アナウンス「続きまして、北宇治高校吹奏楽部のみなさんです」

高野「先生、スタートです」

滝「(靴ひもを結びなおしながら)本来、音楽とはライバルに己の実力を見せつけるために有るものではありません。ですが、今ここにいる多くの他校の生徒や観客は、北宇治の力をいまだ知りません。ですから、今日はそれを知ってもらう良い機会だと、先生は思います。(生徒たちを見て)さぁ、北宇治の実力、見せつけてきなさい!」

生徒たち「(笑顔になって)はいっ!!」

 

〇公園内・道路

 

あすかが笛を吹き、パレードがスタートする。シンバルに続き『ライディーン』の演奏が始まる。立華を見ていた観客たち、その音に気付く。

 

男性「お!」

女性「ん?」

 

真剣な表情で演奏する部員たち。

 

スタンドの女子A「あれ?」

スタンドの女子B「かっこいいね」

観客男A「結構上手いじゃん」

観客男B「どこだっけ、ここ?」

 

パレードが続き、笑顔で手を振るあすか。

 

観客男C「へぇ、やるなぁ」

観客男D「見た?ドラムメジャーの子、超美人じゃね?」

観客女A「知ってる?ここ」

観客女B「知らない。調べてみる。……うそっ、北宇治?」

観客女A「こんなに上手かったっけ?」

観客男E「へぇ、北宇治ねぇ」

 

高台の道を進む北宇治高校のパレード W.O

 

〇ゴール地点

 

パレードが終わり、頬から汗をしたたらせながらマウスピースから唇を離す久美子。

 

久美子「(ナレ)こうして、サンライズ・フェスティバルは終わり……」

 

〇北宇治高校・グラウンド

 

手を振るチューバくん

 

久美子「(ナレ)次の曲が始まるのです」

 

つづく

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