響け!ユーフォニアム 第一回 「ようこそハイスクール」 シナリオ抜き書き

響け!ユーフォニアム 第一回 「ようこそハイスクール」

脚本 花田十輝 絵コンテ・演出 石原立也

 

〇回想(中学時代、京都コンサートホール

 

ホール外の人々~ホール内の学生たち、ホールの扉を開けようとする女生徒たち。

女生徒「早く、早く」

 

観客席に座る梓の横に久美子がやってくる。

 

梓「やばい、緊張する。あっ」

 

三人の男たちが結果発表の紙をたらす。

 

梓「(OFF)きたぁ」

 

息を呑む二人、ホール内に歓声が響きわたり、二人、目をみはる。

 

梓「金だ!(OFF)金だよ!私たち」

金 大吉山北中学校の文字が見える。

梓「私、麻美に報告してくる。あの子緊張でトイレに閉じこもってるから」

 

ステージでは男が関西大会出場校の発表を始める。

 

男「この中より、関西大会に出場する学……」

 

久美子は緊張から解き放たれ、安堵の溜息をつく。

 

久美子「はぁ……金だ……」

 

歓喜する他校の学生たち、発表を終え一礼する男。

 

久美子「ダメ金だけど、金。……うん」

 

笑いながら横を見ると、隣では麗奈が顔をうずめるように泣いている。

 

久美子「高坂さん、泣くほど嬉しかったんだ……。良かったね、金賞で」

麗奈「悔しい……」

久美子「えっ……」

麗奈「悔しくって死にそう。なんでみんなダメ金なんかで喜べるの?わたしら全国目指してたんじゃないの?」

久美子「ほ……本気で全国行けると思ってたの?あっ……」

麗奈「(息を呑んで)あんたは悔しくない訳?わたしは悔しい!めちゃくちゃ悔しい!」

 

泣きながら立ち去る麗奈に、久美子はかける言葉もなく見送る。

 

メインタイトル「Sound! Euphonium」

 

〇黄前家

 

久美子が部屋の姿見の前でスカートの丈を上げ、胸を気にして溜息をつく。

 

久美子「(ナレ)高校に入ったら胸が大きくなるなんて噂、どうして信じちゃったんだろう……」

 

〇玄関・外

 

久美子「行ってきます」

明子「いってらっしゃい」

 

〇宇治の街(引き)~桜の通学路を歩く久美子

 

久美子「(ナレ)そんなことを思いつつ、私の高校生活は始まろうとしていた」

 

久美子、道端に吹きたまっている桜の花びらを手ですくい、息で飛ばす。~空に舞い散る花びら。

 

〇北宇治高校 正門~階段前

 

上級生たちが新入生を勧誘している。

 

久美子「(ナレ)わざわざ同じ中学の子が少ないこの学校を選んだのは、憧れのセーラー服の高校がここだけだったのと、いろんなことを一度リセットしたかったから」

 

あすか「新入生の皆さん、北宇治高校へようこそ!」

久美子「あっ、吹部だ」

 

階段に吹奏楽部のメンバーが立っている。

 

あすか「輝かしい皆さんの入学を祝して」

 

あすかが指揮棒を振り上げ、演奏準備をする部員たち。

 

久美子は期待に満ちた顔でそれを見上げる。

振り下ろされる指揮棒にあわせて演奏する部員たち『暴れん坊将軍のテーマ』

ピッチもテンポもダメダメの演奏に、久美子が唾を飲み込む。

 

久美子「……駄目だこりゃ」

 

ブロンズ像に止まっていた鳩が逃げ出す。

 

OPテーマ曲

 

〇校舎内トイレ

 

鏡の前の久美子、手を拭きながら。

 

久美子「(下手すぎる!)」



〇1-3教室内

 

新入生たちがはしゃぐ中、久美子は机に座って物思いにふけっている。

 

久美子「(バラバラしてた。ピッチもあってないし、リズムも……。でもまぁ、全国目指してる感じじゃぁないんだろうな……はっ(突然なにかが頭をよぎる))」

 

 (インサート)回想(中学時代、京都コンサートホール)泣いている麗奈アップ。

 

久美子「んー、でも、あれは下手だよなぁ」

葉月「何が?」

久美子「えっ!?」

 

久美子の机の傍らに、見知らぬ少女が立っている。

 

葉月「今言ってたじゃん、下手だよなぁって」

久美子「声に出てた?……ていうか、あなたは?」

葉月「あたし?加藤葉月!後ろの席だから、よろしく」

久美子「私、黄前久美子。よろしく」

葉月「で、何が……」

 

扉の開く音がして、担任の松本美知恵が入ってくる

 

美知恵「席につけ!高校生にもなって教室でバカ騒ぎするというのは、あまり褒められたものではないな。……ん?」

 

美知恵の目が彼女の前に立っている女子に向けられる。

 

美知恵「何だそのスカート丈は?」

女子たち「あっ……」

美知恵「すぐ直せ」

女子「すみません」

 

机に座っている久美子も、こっそりとスカートの丈を戻す。

 

美知恵「えー、私はこの一年三組を担任する松本美知恵だ。まずは名前を確認する。……アサイユウダイ」

男子生徒「はい」

美知恵「イシカワユキ」

女子生徒「はい」

美知恵「ウチヤマダヒロコ」

女子生徒「はい」

美知恵「エグチヨウコ」

女子生徒「はい」

美知恵「オウマエクミコ」

久美子「はい」

美知恵「カトウハヅキ

葉月「はいっ!」

美知恵「カワシマ……あ、リョク……キ?」

 

言い淀む美知恵に、最前列の少女が恥ずかしげに手をあげて答える。

 

緑輝「すみませーん。あの」

美知恵「うん?」

緑輝「それサファイア……です。緑が輝くと書いてサファイアです」

美知恵「カワシマ(名簿に書き込みながら)サ・ファ・イ・ア。すまなかった、もう間違わない」

葉月「サファイアかぁ、カッコいいね」

久美子「うん」

 

最後列で話す久美子と葉月を背に、緑が顔を赤くして美知恵に答えている。

 

緑輝「あ、いえ……」

 

〇放課後の教室

 

葉月「久美子ぉー、一緒に帰ろ?」

久美子「えっ、久美子ぉ?」

葉月「えっ、あってるよね?名前」

久美子「あ、うん、それはあってる……」

葉月「よね。わたし葉月ね。カトーとかでもいいよ。適当に呼んで」

久美子「一緒に帰る子いないの?ぁ……(手で口を抑える)」

葉月「いや。私さ、高校で新しい友達作って、新しいこといっぱいするって決めてるんだ。だからよろしくね、久美子ちゃん」

 

タイトル 第一回 「ようこそハイスクール」

 

〇廊下

 

久美子と葉月が廊下にでてくる。緑が前の扉から出てきたのを見て葉月が声をかける。

 

葉月「で、何が下手だったの?」

久美子「それはもういいじゃん」

葉月「あ、オパールちゃーん」

緑輝「(何かを見つけて)ぁ……」

久美子「(小声で)違うよ!なんかもっと緑色っぽい」

葉月「へっ?」

緑輝「「(久美子たちの方に駆け寄って)あのー、あのあの、それってチューバ君ですよね?」

久美子「へっ?(キーホルダーを見やりながら)あ」

緑輝「かわいいなぁ、チューバ君。大好きなんです。触ってもいいですか?」

葉月「ねぇオパールちゃん」

緑輝「(肩を落としながら)サファイアです」

葉月「あぁ、ごめん!サファイアちゃん」

久美子「好きなんだ?」

緑輝「はい!カワイイなぁ」

葉月「何それ?」

久美子「チューバのゆるキャラだよ?」

葉月「あぁ……ちゅーばぁ?」

久美子「金管の楽器」

葉月「きんかんのがっき?」

緑輝「緑、吹部だったんですよ。コンバスやってました」

葉月「こんばす?」

久美子「緑?」

緑輝「緑というのは緑の名前です。(恥ずかしそうに)サファイアってなんか、あれですし……、緑って呼んでいただけると有難いなって思ってます……。(気を取り直して)そしてコンバスというのは楽器の名前です。こぉーんな大っきな、バイオリンのお化けみたいなやつです。知ってますか?」

葉月「それ見たことあるよ」

緑輝「ありますか!」

久美子「私も吹部だったよ」

緑輝「ホントですか?ぁ、えーと」

久美子「あぁ、お」

葉月「(久美子にかぶせるように)黄前久美子!久美子でいいよ。私は葉月ね。よろしく」

久美子「(えぇー……)」

緑輝「アイコピー。久美子ちゃんは……久美子ちゃんのパートは」

久美子「あぁ、低音。ユーフォをやってたよ」

緑輝「なるほど、ポイですね」

久美子「ぅ」

葉月「え……UFO?」

久美子「UFOじゃなくてユーフォ。ユーフォニアムっていう、あ、(キーホルダーを見せながら)これの小さいの」

葉月「へー、だいぶ小さいね」

久美子「ん?」

葉月「私ね、中学まではテニス部だったんだけど、高校からは吹奏楽やろうと思ってるんだ」

緑輝「えー嘘ぉ。緑、今から吹部の見学行くんです。もしよかったらみんなで一緒に行きませんか?」

 

〇音楽室(扉前)

 

音楽室の扉前で3人がガラス戸から中を覗き込んでいる。

 

葉月「うわぁ、すっごー。あれトランペットだよね。私、あれがいいんだぁ。カッコいいよねぇ」

久美子「見て見て葉月ちゃん、あれがユーフォ」

 

音楽室の中には、ユーフォニアムを持つあすかが座っている。

 

葉月「どれどれ、えっユーフォでかっ!もー、びっくりするじゃん。久美子がチューバ君よりちっちゃいって言うから」

久美子「あぁ。ごめーん」

葉月「サックスもいいなぁ……。ん?(と、何かに気付き)うわぁぁぁあ」

 

いつの間にかガラス戸越しにあすかの顔が迫っている。びっくりして尻もちをつく葉月。

 

緑輝「葉月ちゃん?」

葉月「痛い~」

久美子「大丈夫?」

 

扉が開き、あすかが話しかけてくる。

 

あすか「あれぇ、君たちもしかして見学しに来てくれたのかな?さぁ、入って入って。カモン、ジョイナス!」

葉月「(目を輝かせながら)ヤバっ、綺麗」

あすか「うふ」

 

〇音楽室(室内)

 

あすか「さささぁ、これがわが校の吹奏楽部です。君たちが見学者第1号。記念に飴をあげちゃおう」

葉月「ども、すみません……へっ?」

 

あすかの手から飴を受け取る葉月。と、飴ごとあすかの手首が取れてしまい、3人びっくりする!(手首から伸びた糸にWELCOMEの旗がはためいている。)

 

3人「うわあぁぁぁ!」

あすか「えへへへ、パぁ(と袖の中から本物の手を見せる)」

晴香「あすか」

あすか「はい?」

晴香「新入生が緊張するから、あまり話しかけないようにしようって決めたでしょ?」

あすか「えー」

晴香「さっそく怯えてるよ?」

 

部長の晴香、おびえる久美子たちに優しく声をかける

 

晴香「ごめんね。ゆっくり見ていってね」

あすか「よろしくー」

晴香「ほら、行くよ」

あすか「んあぁぁぁ」

 

壁に張られた集合写真(銅賞 府立北宇治高校 吹奏楽部 の文字)

 

緑輝「(写真を見て)銅賞……」

葉月「ぉおー。(何かを見つけて)お、ねぇ久美子、あの四角いの何?」

久美子「あぁ、チューナーだよ。あれで音を合わせるの」

葉月「へー」

あすか「(やり取りを聞いて)あれー、もしかして君、初心者?」

葉月「あっ、はい」

あすか「そっかそっか、じゃぁ吹奏楽の基本的な事から教えてあげる……」

晴香「(あすかにかぶせるように)あーすーか」

あすか「はいはい」

 

指揮台の晴香が合奏の指導を始める

 

晴香「じゃぁチューニングB♭(べー)で」

 

クラリネットの音に合わせてチューニングする部員たち。

と、何かに気付く久美子、目を輝かせる葉月、ハッとして久美子を見やる緑。

 

晴香「トロンボーン、ちゃんと狙って。ホルン、ずれてるよ。ちゃんと音、聞いて」

 

音が止まり、困り顔の晴香。

 

晴香「もっかいやろうか?チューナー使っていいから」

葉月「(何が起きたか分からず)何?」

久美子「ちょっと音が合ってなくて」

葉月「え?そうなの?」

久美子「うーん」

 

と、そこに扉を開けて高坂麗奈が入ってくる。久美子、気付いて驚く。

 

久美子「(高坂さん!?のえええええええ(口を押さえる))」

麗奈「すみません」

晴香「見学ですか?」

麗奈「いえ、入部したいんですけど」

久美子「(口を押さえたまま声を出せない)えぁ、嘘っ!?」

晴香「えっ、あぁホント?」

あすか「ようこそ!吹奏楽部へ。梨子、早く入部届」

梨子「うぇ、今ですかぁ」

あすか「当たり前でしょ。逃げちゃったらどうすんの?」

卓也「そんな、猫じゃあるまいし」

 

その様子を見ていた緑たち、帰ることにする。

 

緑輝「そろそろ行きましょうか?」

久美子「(無言のまま)こくこく(とうなずく)」

葉月「(けげんそうに)ん?」

 

〇廊下

 

挨拶をして立ち去る三人。音楽室内ではあすかが手品の花をみせている。

 

三人「失礼しました」

緑輝「さっきの子、綺麗でしたね。お知り合いですか?」

久美子「えっ、あー知り合いっていうか、中学のとき吹部で一緒だったんだけどぉ」

葉月「知り合いじゃん」

久美子「んー、すごくっていう訳じゃなくて」

葉月「えー、そんなもん?」

 

六地蔵駅

 

並んで立つ3人

葉月が飛んでくる花びらを息で吹き返そうと苦戦する。

 

葉月「うーっ、ぷーっっ」

久美子「はぁ、っふーーーーー」

 

楽々成功する久美子に、葉月感動。久美子をはさんで緑、少し浮かない表情。

 

葉月「うぉ、久美子すごっ」

緑輝「でも……この学校の吹部って、思った以上に、その……」

葉月「ぅん?」

久美子「うまくないよね」

葉月「えぇっ、そうなの?」

緑輝「うーん、そうですねぇ……、たぶん府大会では目指せ銀賞なんじゃないかな?」

葉月「銀賞だったらすごいんじゃないの?」

緑輝「関西とか、まぁ全国とかに行きたかったら、各大会で金賞を取らなくてはいけないんです。しかも金賞と言ってもダメ金ではいけません」

葉月「だめ……え、だめきんって何?」

久美子「吹奏楽のコンクールは金・銀・銅の3つの賞があって、金賞の中から代表が選ばれるんだけど、選ばれなかった金をダメ金っていうの。サファイアちゃんが言うみたいに、次の大会に進みたかったらダメ金じゃ駄目で」

葉月「うぅ……」

久美子「あ、難しかった?」

葉月「うん」

久美子「ごめん」

葉月「でもさ、3人が入部すれば救世主になれるんじゃない?」

久美子「そんな簡単じゃないよ」

葉月「そう?」

緑輝「緑はやりますよ。音楽が好きですから」

葉月「ほぇー」

緑輝「音楽はいつだって世界中の人々の心に訴えることができる、強力な言語の一つだって信じてるので」

葉月「へぇー」

久美子「信号、なかなか変わらないね」

緑輝「あぁっ!緑、ボタンを押し忘れていました」

葉月「うははぁ、たのむよサファイアちゃん」

久美子「はは……」

緑輝「緑ですぅ」

 

六地蔵駅改札内

 

改札を抜けて立ち話をする3人。

 

葉月「久美子は?」

久美子「ん?」  

葉月「どうする?吹部」

 

期待に満ちた目で久美子を見る葉月と緑。

 

久美子「私?私は……。ちょっと考える?」

葉月「えー」

緑輝「(電車の音に気付き)あ、電車が来ました。私こっちなので」

葉月「じゃあね」

久美子「また明日ね」

 

〇電車内

 

並んで座る久美子と葉月

 

葉月「あ、分かった」

久美子「ん?」

葉月「下手って言ってたの、吹部のことだ」

久美子「……」

 

CM(クラリネットパートの部員たち)

 

宇治川沿いベンチ

 

久美子がベンチに座っている。

 

久美子「はぁ、なんでだろぉ?……高坂さんがいたぁ」

 

 (インサート)音楽室に入ってくる麗奈に驚く久美子の回想。

 

久美子「上手いから洛秋とか立華に行ってると思ってた。抜かった……」

 

カフェオレを飲みながら目を閉じた久美子の顔に影が被る。幼馴染の秀一だ。

 

秀一「何が?」

久美子「(秀一に気付き)はっ!うわぁぁぁ」

秀一「ヨッ」

久美子「秀一かぁ……」

秀一「あれ?(ベンチを跨いで久美子の隣に座る)おい、幼馴染に挨拶なしですか?同じ学校だというのに」

久美子「(目もくれず)ふーん」

秀一「髪、しばってんの?」

久美子「だねー」

秀一「そういや、高坂麗奈いたな。全然知らなかった。……ていうか、反応……にぶくないか?」

久美子「話しかけてくんなっていうから、従ってるんですよ」

秀一「はぃ?」

久美子「喋ってくんなブースって言ったじゃん、中3のとき」

秀一「あー、あれはお前がみんなの前で「今日うちでご飯食べんの?」とか聞いてくるから……」

久美子「(急に何かを思い出して立ち上がり)違った!今それどころじゃなかったんだ」

秀一「おい」

久美子「ごめん、帰るわ」

秀一「あぁ。あっお前さ、部活どうすんの?」

久美子「まだ決めてないよ」

秀一「吹部じゃねーの?」

久美子「あんたは?」

秀一「俺?俺は、まぁ他にやりたいこともないし、吹部かな」

久美子「そっか」

 

(インサート)泣いている麗奈(中学時代、京都コンサートホール)。

 

久美子「私は……入らない」

秀一「えっ?」

久美子「入ろうと思ってたけど、やめることにした」

秀一「何で?」

久美子「何でも。じゃーね」

秀一「(走り去る久美子を見送り)なんだよ?」

 

〇久美子の家

 

マンションの外観。

 

久美子「(OFF)ただいま」

 

〇室内

 

久美子がお茶を吞んでいると、明子が声をかける。

 

明子「あら、お帰り。高校、どうだった?」

久美子「うーん、まぁまぁ」

明子「お姉ちゃん、帰ってきてるわよ」

久美子「そう」

明子「ご飯のしたく、手伝ってぇ」

久美子「はーい」

 

〇久美子の部屋

 

ドアを開けて、久美子ベッドに倒れこむ

 

久美子「はぁう。あぁ……吹部なぁ……」

 

 (インサート)泣いている麗奈(中学時代、京都コンサートホール)。

 

久美子「(OFF)本気で全国いけると思ってたの?」

 

久美子ベッドから起きてサボテンに話しかける。

 

久美子「悪気があったわけじゃないんです。ただ思ったことがウッカリ口に出てしまったというか。金取れたし、いいじゃん。みたいなところもあって。ダメ金でも立派な金……」

麻美子「(OFF)くすっ、なにやってんの?」

久美子「(ハッとする)」

 

ドアを開けて姉の麻美子が入って来る。

 

麻美子「ひゃー、ポニーテールなんてしちゃって、初日から気合入れすぎ」

久美子「うるさいなぁ、てか勝手に開けないでよ」

麻美子「はいはい、すまんすまん」

 

ドアを閉めるかと思いきや、再び開ける麻美子。

 

麻美子「そういえばさぁ」

久美子「だから勝手に開けないで」

麻美子「あんた、吹奏楽やめるの?」

久美子「なんで?」

麻美子「なんで?北宇治だから」

久美子「……(目を逸らす)」

 

姉が去って久美子独り言つ。

 

久美子「やめる……かぁ」

 

振りかえる久美子の視線の先に、参考書に混じって並ぶユーフォニアムの教本。

 

宇治神社

 

拝殿で手を合わせる滝の後ろで、カップルが楽しそうに会話をしている。

 

女「見せて見せて」

男「末吉と吉って、どっちがいいの?」

女「末吉なんじゃない?」

滝「あー……。上から大吉・中吉・小吉・吉・半吉・末吉・末小吉ですね。つまり、吉のほうが上です」

男「ど、どうも」

女「そうなんですね」

滝「私も、久しぶりにおみくじを引いてみたくなりました」

男「はぁ」

滝「あぁ、おっと」

 

滝、財布を取り出そうとして、スマホも落としてしまう。その拍子にイヤホンが外れ音楽が流れ出す(大吉山北中学校の府大会の演奏『地獄のオルフェ』)。

 

滝「あ、あぁ、しまった。失礼。すみません」

男「運動会だ」

女「天国と地獄、だっけ?」

滝「正しくは「地獄のオルフェ」です。とてもいい曲ですよ。では」

男女「あぁ」

 

〇神社の外

 

改めて『地獄のオルフェ』を再生する滝

 

〇久美子の部屋

 

久美子、机に座って楽譜を眺めている。楽譜には要所要所に書き込みがされている。

 

 (インサート)中学時代、演奏する久美子たち。終盤に向けて曲が盛り上がる。

 

何かを思い出して天井を見上げる久美子。

 

 (インサート)夕焼けの空。

 

 (インサート)中学時代、最終盤の演奏~立ち上がる久美子たちに降り注ぐ歓声・拍手

 

〇滝の車・車内

 

演奏を聞き終わった滝の横顔は微笑んでいる。

 

宇治市

 

奥へと走ってゆく滝のシトロエン

 

〇久美子の部屋

 

ベッドにあおむけに横たわる久美子。その手には楽譜ファイルが握られている。

 

久美子「はぁ……(息をつく)はぁ」

 

〇久美子の家

 

外観

 

〇室内

 

鏡の前で、はねる髪型を気にする久美子~キッチンで牛乳を飲む久美子

 

明子「(OFF)ご飯は?」

久美子「いい(と答えてコップを置く)」

 

〇通学風景

 

宇治駅改札~電車内の久美子

 

〇1-3教室内

 

授業を受ける久美子

 

〇1-3教室内(休憩時間)

 

何かを考えこんでいる久美子の横で、葉月がマウスピースを片手に苦戦している。

 

葉月「ふんっ、ふー……出ないよぉ」

緑輝「(葉月に合わせて)ふー、ふー」

久美子「(びっくりして)えっ!?どうしたの、それ?」

葉月「ん?買ったの」

久美子「買った!?買っちゃたの」

葉月「うん、これだけね。」

久美子「気が早すぎるよ、楽器もまだ決まってないのに」

葉月「(目をパチクリ)え?」

緑輝「どうやって鳴らすんです?緑はコンバスだったので……。教えてください」

久美子「ん、えっと唇を(人差し指と中指を唇に当てながら)……」

 

〇回想・小学生時代

 

中学生の麻美子がトロンボーンを片手に、久美子にマウスピースの鳴らし方を教えている。

 

麻美子「唇をこうやって震わせるんだよ。(人差し指と中指を唇に当てながら)ブーって。やってみな」

久美子「ぶー」

麻美子「で、それをマウスピースでやってみ?」

久美子「(息を吸いこんで)ブーブー」

麻美子「(嬉しそうに)うん、いいじゃん」

 

1-3教室内(休憩時間)

 

昔を思い出して微笑む久美子の前で、葉月のマウスピースから「ブー」と音が鳴る。

 

葉月「出た!出たよね!?今」

久美子「うん」

葉月「出た!音出たー」

久美子「(嬉しそうに)うん」

緑輝「どうやったんです?」

葉月「わかんない」

緑輝「えぇ~。……あ、そうそう久美子ちゃん」

久美子「ぁ……」

緑輝「吹部、一緒に入りませんか?」

葉月「(勢い良く立ち上がる)」

 

久美子に笑いかける葉月と緑、反応がない久美子に少し不安げに顔を見合わせる。

久美子、ゆっくり笑って2人に答える。

 

久美子「うん」

葉月「ほんと!?」

久美子「うん」

緑輝「やったぁ」

 

緑、喜びのあまり久美子に抱きつく。窓の外には桜の花びらが散っている。

 

久美子「(ナレ)こうしてわたしは北宇治高校吹奏楽部に入部した」

 

〇北宇治高校・廊下の手洗い場

 

手を洗う麗奈に恐る恐る近づく久美子。扉の影から葉月と緑が見守る

 

久美子「(ナレ)そして、次の曲が始まるのです」

 

緊張して唾を飲み込む久美子

 

久美子「(ゴクリ)」

 

つづく

 

ED