響け!ユーフォニアム2 第十二回「さいごのコンクール」シナリオ抜き書き

響け!ユーフォニアム2 第十二回「さいごのコンクール」


脚本 花田十輝 絵コンテ 三好一郎・山田尚子 演出 三好一郎


◯(プロローグ)


麗奈「わたしさ、自分の弱さにびっくりした……」

久美子「滝先生の奥さんになんて言ったの?」

麗奈「金賞獲りたい。滝先生の夢を叶えてあげたい」


◯OP


◯リビング(回想)


トロンボーンを磨く中学の制服姿の麻美子。まじまじと見ている幼い久美子に、麻美子が笑いかける。


麻美子「ふっ(笑顔を向ける)」

久美子「んふ……はぁっ(マウスピースで音階を吹く)」

麻美子「上手くなってきたじゃん」


◯タイトル 第十二回「さいごのコンクール」


新名神高速道路


走る京阪バス


◯バス車内


窓側に座るみぞれ。窓の外に向けていた視線を、隣に座る希美に向ける。微笑む希美。


みぞれ「……(希美を見やる)」

希美「ふっ」

みぞれ「(ハッとしてはにかむ)」


みぞれのローファーがコツンと音を立てて合わさる。


新名神高速道路


亀山ジャンクションに差し掛かるバス。青空へパン。


◯コンサートホール


リハーサルの準備をする部員たち(橋と宮、植田と松崎、鳥塚にあいさつする小田、田邊の手元)。


部員たち「(ざわめき)」


楽器に息を吹き込む久美子。あすかが通り過ぎながら久美子の髪を持ち上げる。


久美子「んんっ(咳ばらい)、フッ……(髪を触られて)どわぁっ……ぁ」

あすか「(久美子の横に座る)ふぅ」

久美子「んー……」

あすか「最後の練習かぁ……」

久美子「……あの、お父さんには連絡したんですか?」

あすか「……まさか」

久美子「そうですか……」


滝が部員たちに声をかける。


滝「では、始めましょうか」

部員たち「よろしくお願いしますっ」

滝「いよいよ明日が本番になりますが、焦らず落ち着いて、いつも通り音を重ねていきましょう」

部員たち「はいっ」

滝「小笠原さん」

晴香「はいっ。じゃあ、チューニングB♭で……」


鳥塚のクラリネット。部員たちがチューニングを始める。


◯夜空


星空の情景。


◯旅館


すみれの間の表札。


◯すみれの間


トランプ(大富豪)をしている久美子たち。手前では3年生の加瀬が高久とお手玉で遊んでいる。


緑輝「革命返しです!」

葉月「なんと!?」

久美子「サファイアちゃん、えげつないよ……」

緑輝「勝負に慈悲などいりません。どんな手を使ってでも勝つ!ひたすら勝つ!!」

葉月「怖いよぉ……」

久美子「わたし結局、ずっと平民だったよ……」

堺「みんな、そろそろ消灯だよ」

葉月「ぉ……」

緑輝「ぁ……」

久美子「あ、はーい」


電灯が消され、めいめい布団に入る音。並ぶカバン、スマホや化粧水。並び寝ている加瀬と高久。緑や葉月の寝顔。久美子がもぞもぞと動き出す。


久美子「ん……」


◯廊下


そっと出てくる久美子の足元。お腹をさすりながらロビーに歩く久美子。背後から声をかけられる。


久美子「お腹減ったなぁ……」

秀一「変な動き」

久美子「だっ、いや、あの違うんです、ぇへへへ……(振り返り)ぁぁ、なんだ秀一か」

秀一「……ひでぇ」 


◯自販機コーナー


ジュースを買う2人の背。


久美子「(ココアを手に)ん……熱っう」


ベンチに座ってジュースを飲む2人。秀一が話し出す。


秀一「明日だなぁ」

久美子「だねぇ。(ココアを飲み)熱っ……」


久美子が秀一のTシャツを見やる。


久美子「ねぇその格好、寒くないの?」

秀一「いや、別に」

久美子「ふうん……」

秀一「…………なんかさ、ちょっと不安なんだよな」

久美子「本番?」

秀一「うん。なんか寝付けなかった」

久美子「わたしもだ……。コンクールが終わるのが怖いのかも……」

秀一「なんか分かる。あっ……」


秀一がポケットの財布を取り出して、ペリペリと開ける。


秀一「そういやぁ渡すの忘れてた」

久美子「ん?なに?」

秀一「誕生日プレゼント(しわくちゃの袋を手渡す)」

久美子「え?」

秀一「タイミング無くてさ」

久美子「なに、ずっと持ってたの?」

秀一「ぉう。(久美子の手が触れ)ぉっ」

久美子「ぁごめん(袋を開けようとする)」

秀一「えっ、今開けんの?」

久美子「うん……。おおっ、可愛いね」


イタリアンホワイトのヘアピンを見る久美子。


久美子「これ秀一が選んだの?すっごく可愛いんだけど」

秀一「どういう意味だよ?……なんかその花、好きなんだろ」

久美子「えー、そんなこと言ったっけ?」

秀一「川島が、超絶ハイテンションで教えてくれた」

久美子「あー……」

秀一「麻美子さんのこと、大丈夫なの?」

久美子「なにが?」

秀一「いや、なんか落ち込んでそうだったから。もともと仲良かったし……」

久美子「……うん、ありがとう」


名古屋国際会議場


広場の情景。騎馬像の前に立つ久美子たち。


緑輝「わあー、大きいですねぇ」

久美子「本当……」


緑が他校の学生たちに気づいて、興奮気味に目を輝かせる。


緑輝「あっ、見てください!」

久美子「ぉ?」

緑輝「坂江高校です」


顧問の話を真剣な表情で聞く学生たちの姿が見える。


緑輝「(OFF)関東の雄!」

葉月「(OFF)有名なの?」

緑輝「ええ!あぁっ、コタキ先生。初めて見ました!」

久美子「ん?あ、あそこも見たことある」

葉月「ぉ……」


髪の毛を上にまとめ上げたお揃いのヘアスタイルの女子学生たち。


緑輝「(OFF)西条女子ですね。ここ3年連続で全国大会に出ています」

葉月「へぇー」

緑輝「あっ、清良女子です!!」

葉月「ん?」


◯イベントホール


待機する各校の学生たち。晴香が大きな声で部員たちに指示を出す。


晴香「はーい、みんなー、ちゃんとリボン付けてる?」

田中「あれ、どこやったっけ?」

鳥塚「付いてる、付いてる」

田中「?(肩を見て)、あ……」


◯通路


待機するチームもなか。森田が葉月に指示を出す。


森田「パーカスの順路違うから、気をつけてね」

葉月「はいっ」


日比野駅・出口


階段を登ってくる葵の姿。


◯第1リハーサル室


案内板。部員たちが音出しをしている(ホルン加橋と沢田、クラ高久のチューニングを手伝う大口、コンバスの緑の手元)。滝が合図をしてそれを止める。


滝「はい。これからいよいよ本番です。わたしたちは春に全国大会出場という目標を掲げ、此処までやって来ました。結果を気にするなとは言いません。ですが、ここまで来たらまず大切なのは、悔いのない演奏をすることです。特に3年生」

3年生「はいっ」


滝の話を聞く香織、晴香、あすかの表情。


滝「(OFF)今日が最後の本番です。この晴れ舞台で悔いのない演奏をしてください」

3年生「はいっ」


晴香が手を上げて滝に言う。


晴香「先生、一言いいですか?」

滝「もちろんです。どうぞ」

晴香「(立ち上がり)ついに本番だよ。わたし、今日だけはネガティブなこと絶対言わない。わたしね、いま心の底からワクワクしてる。いい演奏して、金獲って帰ろう!」

部員たち「はいっ!」

晴香「じゃぁ、副部長のあすか」


あすかがユーフォを置いて立ち上がる。


あすか「えーと、全国に関してみんなに色々迷惑を掛けてしまいました。こうやってこの場にいられるのは、本当にみんなのおかげだね。ありがとう」


話を聞く香織、チームもなか(目を合わせる夏紀と葉月、笑みを浮かべている希美)


あすか「(OFF)今日はここにいるみんな北宇治全員で、最高の音楽を作ろう。それで笑って終われるようにしよう」

部員たち「はいっ」

あすか「フッ(笑って)、ご静聴ありがとうございました。晴香!」

晴香「よーし、では皆さんご唱和願います。北宇治ファイトォー」

部員たち「オーッ!!」


センチュリーホール・舞台袖


出番を待つ部員たち。おまじないをして緊張をほぐす久美子の横にみぞれが近づく。


久美子「(おまじない)はむっ……、鎧塚先輩」

みぞれ「……今日、最高のリード」

久美子「へえー、そうなんですか」

みぞれ「うん」


みぞれが左手のこぶしを差し出す。


久美子「え?」

みぞれ「……(こぶしを近づける)」

久美子「えっと……ん」


グータッチをする2人。みぞれが嬉しそうに微笑んで立ち去る。


みぞれ「(嬉しそうな鼻息)ふふっ」


あすかが久美子の横に立ち、話しかける。


あすか「葵、来てるんだって」

久美子「あすか先輩……」

あすか「わざわざチケット取ったんだって。凄いねー倍率高いだろうに」

久美子「すごいですね。……実は今日、うちのお姉ちゃんも来てるんです」

あすか「へえ。……それは頑張らないとだね、黄前ちゃんも」

久美子「ですね」

晴香「北宇治!」

久美子「ん?」


晴香が小声で短く指示を出す。


晴香「行くよっ!」

あすか「ん、行くよ」

久美子「はい」


楽譜を拾い上げ歩き出す久美子。舞台に進む部員たちの背中。


◯客席


審査員の男性の手元。客席に座る葵が胸の前で手を合わせる。客席の麻美子、組んだ手に力が入る。


アナウンス「プログラム3番、関西代表・北宇治高等学校。指揮は滝昇です……」


◯舞台


久美子の譜面の前に置かれたイタリアンホワイトのヘアピン。演奏開始前の久美子、あすかの表情。指揮台の滝の手が振り下ろされる。


◯CM(トロンボーンを吹く秀一)


◯白鳥公園


青空を飛ぶ鳥。麗奈が1人で芝生に座り、空を見ている。


麗奈「はぁ……(ため息をつく)」


ローファーのつま先を合わせ、足を抱えて顔をうずめる。


◯ロビー


スマホをいじっていた希美がみぞれに気づく。


希美「ん?ぁ、みぞれ、今……」


みぞれが笑顔でこぶしを差し出す。


希美「ぉ、……ふっ」


グータッチをする2人。

 

希美「お疲れ様!」


物販コーナーでは緑の買い物に葉月が付き合っている。


葉月「ぅえっ、そんなに買うの!?」

緑輝「もちろんです!」

葉月「でも、どうして2枚ずつ?」

緑輝「1つは保管用です」

葉月「ほ、保管用かぁ……。緑の強豪校オタク舐めてたわ」


ソファーに座る晴香たちが相談している。


晴香「ねぇ、これからどうする?結果発表まで時間あるけど」

あすか「喫茶店あったから行ってくるわ」

晴香「ぉ、いいね。わたしも行く」

香織「えっ、演奏聴きに行かないの?部長と副部長なのに」

晴香「いいの」

あすか「もう部長も副部長も終わりでしよ?」

香織「ぁ……、そっか。(立ち上がり)じゃあ、わたしも行こうかな?喫茶店

晴香「うん、行こ!」


あすかが晴香と香織の肩に手を回して言う。


あすか「よっしゃあ!そうと決まれば3人で、チョコバナナパフェ食べに行こ?」

香織「ぁ」

晴香「ぉ」

あすか「スペシャルチョコバナナジャンボパフェー」

晴香「そんなの有るの?」

あすか「無かったら作ってもらうー」

晴香「っふふ」


◯アトリウム


久美子がエントランスホールの中央で周りを見回す。


久美子「お姉ちゃん……」


センチュリーホール・内部


拍手が響くホール。客席に座る出場校の部員たち。表彰式の開始が告げられる。


アナウンス「お待たせ致しました。それでは只今より高等学校後半の部の表彰式を行います」

葉月「いよいよだね」

緑輝「はい」

久美子「……」


久美子が麗奈を見やる。こぶしを握りしめ、緊張の表情の麗奈。


アナウンス「では初めに、本日のコンクールに出場された指揮者の方々に指揮者賞を贈呈します……」

牧「指揮者賞?」

緑輝「ぁ、各校の指揮者に贈られる賞です。結果発表はその後に」

アナウンス「敬称は略させて頂きます。……ヤマオカヒロユキ」

他校生徒「せーの、ヤマちゃん大好き!!」

瀧川「ぅぉっ?」

牧「わっ」

久美子「ん、なに?」


他校の生徒たちの声を聞き、焦りだす北宇治の部員たち。


鳥塚「しまった!コレがあった……」

鈴鹿「どうする?なにも決めてないよぉ」

アナウンス「スズキテッペイ」

他校生徒「せーの、テッペイ先生マジイケメン!!」

加瀬「次だよ……」

高久「間に合いませんね……」

沢田「(OFF)こんな時にあの2人は……」


ステージで拍手している晴香とあすか。

 

加橋「ステージの上だし」


滝が一礼して、記念品を受け取る。


久美子「ぅ……」

アナウンス「滝昇」

鳥塚「誰か、なにか……」


久美子の横、麗奈がすっくと立ち上がる。


久美子「ん?麗……」

麗奈「先生っ……」

久美子「……(目をみはる)」


ホールに響く麗奈の告白。


麗奈「好きですっ!!」

久美子「っ……!!」


驚く久美子。キョトンとする香織と加部の間で頬をおさえる優子。拍手する晴香と香織。壇上の滝が微笑む。


アナウンス「ヨシザキシュウスケ」

他校生徒「せーの、ヨシザキ先生ありがとー!!」


立ち尽くす麗奈のスカートを引っ張る久美子。


久美子「麗奈」

麗奈「(座り込み)どうしよう、告白しちゃった……。こんなところで」

久美子「(微笑んでおかしそうに)大丈夫。みんな告白だと思ってないから」

麗奈「は……」

優子「(サムズアップ)高坂!マジファインプレー!」

香織「(手を合わせて)ありがと。助かった」

麗奈「ぁっ……」

久美子「ふふっ、ねっ?」


(時間経過)拍手が響くホール内。男がマイクの前に立ち一礼する。


男「お待たせ致しました。高等学校・後半の部の成績を発表します」


舞台では他校の生徒が前方に歩み出る。客席で祈る緑、葉月、久美子、麗奈。


緑輝「いよいよです……」


祈る部員たち。男が結果発表を読み上げ、表彰式が始まる。


男「1番、義雁商業高等学校、銀賞」

役員「表彰状。銀賞・高等学校の部、義雁商業高等学校殿……」

葉月「っ……」

緑輝「葉月ちゃん」

葉月「ん?」

緑輝「(嬉しそうに)麗奈ちゃんって、先生のこと好きなんですかねえ?」

葉月「発表に集中して!!」

男「2番、片敷高等学校、ゴールド金賞」

他校生徒「(歓声)」


喜ぶ片敷高校の吹奏楽部員。北宇治の部員たちの緊張が高まる。


男「3番、北宇治高等学校…………」


ステージ上の晴香とあすか。客席の麗奈、久美子の祈る手元。客席引きから天井へパン。


◯会議場前広場


さえない表情で集合写真の撮影にのぞむ久美子たち。美知恵の喝が飛ぶ。


美知恵「なんだそのショボくれた顔は?ちゃんと笑え!」

野口「って言われてもなぁ……」


晴香が持つ賞状のアップ。銅賞の文字。集合写真の全景。


(時間経過)


夕方の空。集合したトランペットパートの中で、麗奈が香織に謝る。


麗奈「すみませんでした、先輩」

香織「高坂さんが謝ることじゃない。これがわたしたちの実力だったんだよ」

優子「高坂。来年、金賞獲るよ」

麗奈「……はいっ」


滝が麗奈のもとに歩み寄り言う。

 

香織「先生……」
滝「高坂さん」

麗奈「ぁ、はいっ」

滝「先ほどの声かけ、ありがとうございました」

麗奈「えっ、あ、いえ。えっと、あれは……」

滝「実を言うと、少し自信が無かったので嬉しかったです。自分のやりたい事を押し付けてばかりで、皆さんには好かれていないと思っていたので……」

麗奈「そんな事ありません。みんな滝先生の事、尊敬しています!」


うなずくトランペットパートの部員たち。滝が微笑む。


滝「そうであれば嬉しいのですが」

麗奈「先生。わたしが北宇治に来たのは、先生がいらしたからです。それから……(意を決して)わたし、ほんとに滝先生の事が好きなんです!!」

優子「ぉ……」

笠野「わっ……」

香織「はっ……」


本気の告白に驚く優子たち。滝が微笑んで言う。


滝「そう言っていただけると、教師冥利に尽きます。ありがとうございます、高坂さん」


立ち去る滝の後ろ姿。ため息をつく麗奈の肩に優子が手を置いて慰める。


麗奈「っ……、くはぁ……」

優子「高坂、頑張ろ……」


(時間経過)騎馬像前の情景。橋本と新山が部員たちをねぎらう。


橋本「(パーカスに)いやぁ、いい演奏だったぁ、泣いちゃったよ!」

新山「(木管に)とても良かったわ」


美知恵が泣きながら、晴香に抱きついている。


美知恵「小笠原ぁ、頑張ったなぁ……(泣き声)」

晴香「先生、苦しい……」


あすかが夏紀に話しかける。


あすか「夏紀」

夏紀「はい」

あすか「来年、頼むよ」

夏紀「はいっ」


緑が落ち込んでいる葉月に尋ねる。


緑輝「葉月ちゃん、どうしたんですか?」

葉月「だって、みんなあんなに頑張ったのに……」

緑輝「葉月ちゃん、なにを言ってるんですか?」

葉月「えっ?」

緑輝「人はなんでも変えられることが出来るんですよ!」

葉月「ぉ……、はっ!?」

緑輝「今回の結果だって、来年は違うものにできるのです!」

葉月「緑ぃ……」

緑輝「葉月ちゃんは誰よりも高く飛びたいのですか?」

葉月「えっ、うっ、うん……?」

緑輝「ならば、誰よりも低く身構えるのです(しゃがんで地べたに手をつく)」

葉月「(慌てて緑の手を取る)えっ、うぅ分かったぁ!わたし誰よりもたくさん練習するからぁ!!」


久美子が人の流れの中に麻美子の姿を探す。


久美子「(それらしき影に)ぁ、お姉……ぁ……」


人違いだと気づいて落胆する久美子に、あすかが話しかける。


あすか「どうかした?」

久美子「あ、いえ。なにも……」


滝がやって来て2人に話しかける。


滝「田中さん、黄前さん、ちょうど良かった。お2人に伝えなければいけないことがありまして」

あすか「……?」

久美子「……」

滝「お二人は進藤正和さんを知っていますか?」

あすか「……(目が揺れる)」

滝「今日の審査員をなさっていました」

あすか「はい、ユーフォ奏者の方ですよね」

滝「先ほど廊下でお会いして。それでユーフォの子に伝えてほしいと伝言を頼まれました」

あすか「伝言、ですか?」

滝「はい。『よくここまで続けてきたね。美しい音色だったよ』、と」

あすか「……はぁっ(息が漏れる)」

久美子「ぁ……」

滝「どちらかお知り合いですか?」

あすか「ぁ、はい、少し。ふっ(笑って)、やったぁ!!(久美子に抱きつく)」

久美子「うわっ、うぁ……」

あすか「ユーフォ、褒められちゃったぁ」

久美子「良かったですね、先輩」

あすか「うん。うふふ」

久美子「ふふふ」

あすか「……ふぅ(吐息が漏れる)」


(時間経過)日が落ちた空の情景。晴香が部員たちに話しをする。


晴香「わたしたち3年はこれで引退です。最後になりますが、今日までこんな不甲斐ない部長に付いてきてくれてありがとう。(涙声になり)この1年は、嫌な事もいっぱい有ったけど……、不安な事ばっかりで辛かったけど……(泣き出す)。それ以上に……みんなとの演奏が楽しくてえぇぇぇ……。うえぇぇぇ……」

部員たち「(拍手)」

あすか「では、泣き虫部長に代わって一言。正直、今日の演奏で言いたいことはなにもありません。北宇治の音は全国に響いた。わたしたちは全力を出し切った。ほんとにみんなお疲れ様。そして3年生はこれで引退、あとは2年生の天下です。もう不安しかありません」

部員たち「(笑い声)」

あすか「えー、わたしはみなさんが知ってのとおり、回りくどい話はできないのではっきり言います。今回の結果、わたしはめちゃくちゃ悔しい。でも、3年に雪辱の機会はもうない。こんな思いはわたしたちだけでたくさん。だから来年は必ず、金賞を獲って。これは最後の副部長命令です。分かった?」

部員たち「はいっ」

あすか「よーし、その返事忘れないよ?卒業しても毎日見に来るからね」

夏紀「先輩、それ最悪です……」

あすか「えー、ちょ、なんでよぉ?」

部員たち「(笑い声)」


久美子、人通りの中に麻美子の姿を見つけ思わず駆け出す。


久美子「はっ……、お姉ちゃん(駆け出す)」

葉月「えっ、あ、ちょっと」

麗奈「久美子ぉ」

秀一「(微笑んで久美子を目で追う)」


走る久美子。扉を開けてアトリウムに駆け込む。


久美子「っはぁ、はっはっ……、ぁ(人の流れに逆らって)……んっ(扉を開ける)」


エレベーターで登る麻美子の姿を見つけて、久美子が後を追う。


久美子「(息を切らしながら見回して)ぁ……、はっ……っ」


◯歩道橋


歩く麻美子が久美子の声に立ち止まり、振り返る。


久美子「お姉ちゃん!!」

麻美子「……はっ、……久美子」

久美子「お姉ちゃん、わたし……ユーフォ好きだよ!」

麻美子「ぁ……」

久美子「お姉ちゃんがいたから、わたしユーフォ、好きになれたよ!」

麻美子「……(息が漏れる)」

久美子「お姉ちゃんがいたから、吹奏楽、好きになれたよ!」


微笑む麻美子に久美子が叫ぶ。


久美子「お姉ちゃん、大好き!」

麻美子「わたしも、大好きだよ!!」

久美子「……(涙を流しながら笑う)」


向かい合う2人。


久美子「(ナレ)そして、次の曲が始まるのです」


つづく


◯ED