響け!ユーフォニアム2 第五回「きせきのハーモニー」  シナリオ抜き書き

響け!ユーフォニアム2  第五回「きせきのハーモニー」

脚本 花田十輝 絵コンテ 三好一郎・石原立也 演出 三好一郎

 

◯(プロローグ)


希美「待って!?みぞれ!」

優子「ホントに希美のためだけに、吹奏楽続けてきたの?あんだけ練習して、コンクール目指して、なにもなかった!?」

あすか「黄前ちゃん」

久美子「はい」

あすか「全国、行こうね」


◯OP


〇校舎外観〜廊下


夏空に響く『三日月の舞』の合奏練習の音。


〇音楽室


滝が演奏を止める。


滝「ホルン、Lの全音符もう少しください」

ホルンパート「はいっ」

(時間経過)

滝「トロンボーン、バッキングの縦、注意してください」

トロンボーンパート「はいっ」

(時間経過)

滝「ユーフォ、前も言ったようにFの音は高めに取ってください」

あすか「はい」

久美子「(あすかと同時に)はい」

滝「あとは(楽譜をめくり)……、黄前さん」

久美子「はいっ」

滝「今の演奏を忘れないように」

久美子「はいっ」

滝「では、今の点に注意して、もう1度最初から行きます。本番を意識してください。もう一度言います、本番です」


久美子のアップ。京都大会前の情景がよみがえる。


〇北宇治高校エントランス前(回想)


夜の校舎前で、滝が久美子に語りかける。


滝「吹けなかった所、練習しておいてください。次の関西大会に向けて。あなたの出来ますという言葉を、わたしは忘れていませんよ」


〇音楽室


ユーフォを吹く久美子のアップ。入り口の窓越し、練習する部員たちの様子。


久美子「(ナレ)あれから1ヶ月、明日はいよいよその……」


〇グラウンド


ランニングする運動部の部員たち越しの校舎。


久美子「(ナレ)関西大会を迎える」


タイトル 第五回 「きせきのハーモニー」


〇校舎外観


祝 関西大会出場〜の垂れ幕。


滝「(OFF)いいですか?……」


〇音楽室


滝が部員たちに向けて話をしている。


滝「皆さん、あすの本番をあまり難しく考えないでください。我々が明日するのは、練習でやってきたことをそのまま出す。それだけです」

部員たち「はいっ」

滝「(咳ばらい)それから、夏休みのあいだコーチをお願いしていた橋本先生と新山先生は、本日が最後になります」

部員たち「ええ〜!?」

滝「最後に一言お願いします」

橋本「うん」


指揮台の上で新山が部員たちに、挨拶。


新山「約3週間。短い間でしたが、確実に皆さんの演奏は良くなったと思います。その真面目な姿勢は、私自身見習うべきものがたくさんありました。明日の関西大会、胸を張って楽しんできてください」

鳥塚「……(泣いて目をこする)」


(時間経過)橋本の挨拶。


橋本「ええっと……、僕はこんな性格なので正直に言います。今の北宇治の演奏は、関西のどの高校にも劣っていません。自信を持っていい!この3週間で表現が実に豊かになりました。特に(みぞれを指して)鎧塚さん」

みぞれ「はい……」

橋本「見違えるほど良くなった。ふふん、何がいい事あったの?」

みぞれ「(はっ、として笑顔で)はいっ」

橋本「おおっ、いいねえ。今の彼女の様に、明日は素直に自分たちの演奏をやりきって下さい!期待してるよぉ!」


手を振りながら指揮台から降りる橋本に部員たちが拍手。


田邊「……(拍手しながら泣く)」

加山「なに泣いてんのよ」


久美子の膝の上でユーフォが光る。晴香が部員たちに号令。


晴香「起立!」


〇校舎外観


夏空と校舎。部員たちの声が響く。


晴香「(OFF)ありがとうございました!」

部員たち「(OFF)ありがとうございました!」


宇治市


遠景。夏空と宇治の街並み。


京阪電車六地蔵駅


改札情景〜ホームで見送る緑。


緑輝「では、また明日(敬礼のポーズ)」

葉月「じゃあねっ」


京阪電車・車内


緑に敬礼の葉月。手を振る久美子。


久美子「うふ。……何これ?(と葉月の敬礼を真似して見せる)」

葉月「ん、これ?なんとなく。気合い入るでしょ?」


吊り革に掴まり、葉月が背伸び。


葉月「わたしさ、チューバもっと頑張る。もちろん、明日のサポートも」

久美子「うん……」

葉月「それでさ、全国へ連れてって!(窓外を見る葉月)来年は一緒に吹こうって、夏紀先輩とも話したんだ」


車窓に流れる景色。


葉月「(OFF)だから今年、久美子たちが全国へ行って、全国すごいっ!てトコ見せてよ」


久美子を振り向いて葉月が続ける。


葉月「わたしたちも、そこで吹きたいって思える様に」

久美子「葉月ちゃん……」


京阪電車黄檗駅ホーム


ドアが開いて、葉月が降りてくる。


葉月「じゃあね!ふんっ(と、敬礼のポーズ)」

久美子「ふんっ(と、敬礼を返す)」

 

京阪電車・車内


走り出す電車から葉月に敬礼する久美子と、手を振る麗奈。麗奈が正面を向き直して言う。


麗奈「全国か……」

久美子「うん。ちゃんと言葉にしなくちゃね、葉月ちゃんみたいに……」

麗奈「全国へ、行く」

久美子「うん、行く。全国に」


パガニーニの主題による狂詩曲』が流れる。


〇マンション・外観


赤信号越しのマンション。


〇リビング


テレビで大阪東照の吹奏楽部の紹介が流れる(部員数85人、大会出場52回目のテロップ)。


アナウンサー「みんなの思いを1つに。この大阪東照が出場する関西吹奏楽コンクールは明日、行われます」

久美子「ん……」


テレビを消して、ローテーブルにもたれかかる久美子。


久美子「ふぅ……。やば、怖くなってきた」


スマホのバイブが鳴り出す。


久美子「あっ……。もしもし、梓ちゃん?」

梓「(OFF)久しぶり。今、大丈夫?」


電話する久美子の後方、明子が帰ってくる。


明子「ただいま。すぐ夕食の準備するからね」


久美子が電話を続けながら立ち上がり、ベランダに出る。


久美子「うん。テレビ観てただけだから」

梓「(OFF)あ、東照のニュースでしょ?わたしも観てた。うまいよねぇ、相変わらず」

久美子「うん、悔しいけどね。ねぇ立華、午前だっけ?」

梓「(OFF)うん7番。久美子のトコは?」

久美子「午後の16番」

梓「(OFF)そっか。じゃあわたしの方が先に終わるね」

久美子「だね……」


足の指をイジる久美子。梓が電話越しに頼みごと。


梓「(OFF)あのね」

久美子「うん?」

梓「(OFF)明日、もしわたしのコト見かけても、話しかけないでほしい」

久美子「えっ?」

梓「(OFF)多分、冷静じゃないと思うから」

久美子「……分かった」


電話が切れて、久美子がベランダから対岸の山並みを見つめる。入道雲と飛行機雲。


久美子「(ナレ)吹奏楽コンクールは年に1度……」


団地の


同じ雲の下、夏紀と優子がなにか言い争いながら歩いて来る。


久美子「(ナレ)その1度の大会を目指してわたしたちは……」


〇公園


藤棚の下のみぞれと希美。


久美子「(ナレ)朝も、放課後も、夏休みも……」


〇北宇治高校・正門


晴香と香織が出てきて、校舎に向けて一礼する。


久美子「(ナレ)汗と涙を涸れるほど流して、休むことなく練習した……」


〇麗奈の家・防音室


トランペットを吹く麗奈の背。


久美子「(ナレ)たった12分間の……」


宇治川沿い・堤防


秀一がトロンボーンを吹いている。


久美子「(ナレ)本番のために……」


〇あすかの部屋


ノートPCを見るあすか。画面にはコンクールの日程と審査員の紹介が見える。


久美子「(ナレ)おそらく今……」


〇梓の部屋


物憂げな表情の梓(手首にはミサンガ)。


久美子「(ナレ)本当に冷静で……」


〇久美子の家


久美子がベランダから空に視線を向ける。雲ごしに沈む太陽。


久美子「(ナレ)いられるヒトなんて、1人だっていやしない」


CM(トランペットを吹く優子の背)


尼崎市総合文化センター・外観


会場に入る観客たち。


〇控え室


瞳がホルンパートの先輩たちの元へ駆け寄る。久美子たちもそちらを見やる。


瞳「先輩、見てきました!」

沢田「どうだった?」

瞳「東照を含めた3校が金でした。それから……、立華高校は銀だったみたいです」

森本「えぇ!?」

加橋「うそ!?」

岸部「あぁ、もう吐きそう……」


結果を耳にした久美子の複雑な表情。晴香が部員たちに釘をさす。


久美子「……っ」

晴香「ほらほら、わたしたちに他の学校を気にしてる余裕なんて無いよ!今は演奏のコトに集中して」


〇ホール前・通路


並ぶバスの前、駆け寄る梓に手を振る上級生。


上級生「おーい、こっちこっち」

梓「すいません」

上級生「遅いよ。もう、梓らしくないなぁ。いつもの元気はどうしたの?」

梓「はぁ……」

上級生「早く切り替えてね」

梓「はいっ」


〇リハーサル室


入口に並ぶ靴。音出ししている部員たちを止めて、滝が話をする。


滝「はいっ、止めて。……では、1回だけ深呼吸しましょうか?大きく息を吸って……」

部員たち「はぁ……」

滝「吐いて……、吐いて……、吐いて」

部員たち「ふぅ…………」

滝「気持ちを楽にして……、笑顔で(にっこり笑う)」

部員たち「(笑顔になる)」

滝「わたしからは以上です」

沢田「ですよねぇ」

加橋「まぁ、らしいけど……」

滝「部長、なにかありますか?」

晴香「へっ!?」

あすか「(手を上げて)先生」

滝「はい、田中さん」


あすかがユーフォを置いて立ち上がる。晴香があすかを見やる。


あすか「部長の前に少しだけ……。去年の今ごろ、わたしたちが今日、この場にいることを想像できたヒトは1人も居ないと思う。2年と3年は色々あったから特にね。それが半年足らずでここまで来ることができた。これは紛れもなく滝先生の指導のおかげです」

香織「……(小さくうなずく)」

あすか「その先生への感謝の気持ちを込めて、今日の演奏は精いっぱい全員で楽しもう!」

部員たち「はいっ」

あすか「……それから、今のわたしの気持ちを正直に言うと、わたしはここで負けたくない」

晴香「っ(ハッとする)」

あすか「関西に来られてよかった、で終わりにしたくない。ここまで来た以上、なんとしてでも次に進んで北宇治の音を全国に響かせたい!」

久美子「はあっ……(と息をのむ)」

あすか「だからみんな、これまでの練習の成果を全部出しきって!」

部員たち「はいっ」

あすか「じゃあ部長、例のやつを」

晴香「えっ、あっ、はいっ。ではみなさん、ご唱和ください……」


〇廊下


楽器を運ぶチームもなかの所にも、晴香と部員たちの声が届く。


晴香「(OFF)北宇治ファイトぉー」

部長たち「(OFF)オーッ!!」

もなか「オーッ!!」


〇舞台袖


出番を待つ部員たち。明静工科の演奏『ダッタン人の踊り』が聞こえてくる。


姫神「明静、ダッタン人じゃん……」


並んで座るみぞれと希美。希美が話しかける。


希美「みぞれ」

みぞれ「……?」

希美「ソロ、頑張ってね」

みぞれ「っ……。(くわえていたリードを外して)わたし、希美のために吹く」

希美「……(笑ってみぞれの頭に手を置いて)うん。」


それを見ていた麗奈が久美子にささやく。


麗奈「わたしも久美子のために吹こうかな?」

久美子「滝先生の方がいいんじゃない?」

麗奈「いいの?熱くて息苦しいバラードになるけど?」

久美子「あぁー、それは困る。曲が変わっちゃう」

麗奈「でしょ?だから久美子のために吹く」

久美子「じゃ、楽しみにしてる」

麗奈「任せて。他のトコのソロとか、目じゃないやつ聴かせるから」

久美子「よろしくお願いしますよ」

麗奈「ふふふ……」

久美子「くっくっくっ………」


向かいあって笑う久美子たちの手前で、トロンボーンの野口たちがぼやく。


田浦「やっぱり上手いなぁ、明静……」

野口「あぁ。誰だよ、顧問変わって下手になってるとか言ってたやつ!?」


秀一も不安げな表情で舞台の方を見やる。トランペットパートでは香織が優子たちに話しかける。


香織「優子ちゃん」

優子「はいっ」

香織「これからも部のことをよろしくね」

優子「ぁ……」

香織「みんなも、今までこんなわたしについて来てくれて……」

優子「香織先輩、違います」

香織「え?」

優子「ここで終わりじゃありません。わたしたちが目指しているのは全国です。わたしたちは香織先輩と一緒に全国へ行くんです!」


人差し指を高々とあげる優子。滝野と笠野も続く。久美子、麗奈、低音パートも続く。


久美子「っ……」

笠野「香織」

香織「行きましょう!」

優子「(笑う)」

香織「みんなで全国へ!」


〇舞台


暗い舞台。楽器を搬入するチームもなか。

 

◯舞台袖

 

希美が舞台につながる幕を開ける。


アナウンス「プログラム16番。京都府代表、北宇治高等学校吹奏楽部」

 

◯舞台


照明が灯された舞台。部員たちが座る。滝が一礼して指揮台に上がり、深呼吸して構える。部員たちの真剣な表情。滝の手が振られる。


〇ホール外観


セミの声が響く、ホール前広場の情景。


〇ホール内部


出番を待つ他校の生徒。舞台を伺うチームもなか。演奏を見ている他校の生徒たち。観客席の女性。舞台袖、夏紀が葉月を振り返る。1人、舞台に背を向けている希美。『プロヴァンスの風』の演奏が終わる。


〇舞台


滝が楽譜をめくる。『三日月の舞』のタイトルが見える。滝の背ごし、構える部員たち。華やかなトランペットの音色。『三日月の舞』の演奏が始まる。


熱演の部員たち。他校の生徒やスタッフが北宇治の演奏に見入る。祈るチームもなか。麗奈のトランペットソロが始まる。支える低音パート。久美子の脳裏に花火や大吉山の情景が浮かぶ。


(インサート)花火の情景。大吉山の情景(白ワンピの麗奈、麗奈の指が久美子の額から唇までをなぞる。)


麗奈のソロが終わり、演奏が続く。伸びやかに響くみぞれのオーボエソロ。舞台袖で背中を向けたまま聴いている希美。終盤に向けての盛り上がり。滝の指揮に合わせて演奏する真剣な表情の部員たち。滝が演奏を締めくくる。


演奏が終わり、滝が観客席に深々と礼。立ち尽くして万雷の拍手を浴びる部員たち。


〇舞台袖


泣いているチームもなか。


〇舞台


肩で息をしながら、拍手を浴びている部員たち。


〇ホール外観


ホール前広場の情景。


ED


〇ホール内部


結果発表の情景。拍手が響く中、舞台で表彰が行われている。客席で祈る北宇治の部員たち。


男「プログラム14番。奈良県代表、花咲女子高等学校。銀賞」

男「プログラム15番。大阪府代表、明静工科高等学校。ゴールド金賞」

夏紀「次だよ」

葉月「はいっ」

男「プログラム16番。京都府代表、北宇治高等学校。ゴールド金賞」


目を閉じていた久美子が安堵の溜息をつく。


久美子「っ……、はぁ……」

部員たち「(歓声)」

久美子「はっ……(麗奈を見やる)」

麗奈「(笑顔でピースサイン)ふっ」

久美子「(笑顔になる)」


(時間経過)男たちの背ごしの観客席。全国大会進出の代表校の発表が行われている。


男「続きまして、全国大会に進む関西代表3校を発表します……」


祈る部員たち。


男「プログラム3番。大阪府代表、大阪東照高等学校」


余裕の表情で拍手して喜ぶ東照の学生たち。


男「OFF)プログラム15番。大阪府代表、明静工科高等学校」

学生たち「(歓声)」


緊張が解け、涙目で歓声をあげて喜ぶ明静工科の学生たち。


不安げな表情で、葉月が夏紀に話しかける。


葉月「夏紀先輩、残り1つだけです……」

夏紀「だ、大丈夫……」

優子「っ……(祈る)」


真剣な表情で、祈るように発表を待つ部員たち。後方には滝、美智恵と橋本、新山の姿。


男「最後に……、プログラム16番……」

久美子「はっ(息をのむ)」

男「京都府代表、北宇治高等学校

部員たち「(歓声)」


歓声を上げるチームもなか。ガッツポーズの滝野。泣いて顔を覆う優子の横で、笠野が香織に抱きつく。顔を上げる久美子。歓喜のパーカッションパート、ホルンパート。秀一の肩に手を回して野口が歓喜


野口「よっしゃー‼」


立ち上がる久美子の奥で、雄たけびの卓也。梨子に抱きつかれて緑も歓声。


緑輝「うふうふうふ……」


1人で拍手する希美。大粒の涙を流す久美子の横顔。


久美子「……ぁ」


舞台上でお互いの顔を見るあすかと晴香。


観客席後方、歓喜の新山、橋本。拍手する滝の横で美智恵が号泣している。


舞台に向かって、涙を流しながら拍手をしている麗奈。久美子が麗奈に話しかける。


久美子「やったよ、麗奈」

麗奈「うんっ」


久美子と麗奈ごし、無表情のみぞれ。久美子がみぞれに向かって問いかける。


久美子「先輩……」

みぞれ「……?(首をかしげる)」

久美子「コンクールはまだ嫌いですか?」

みぞれ「(ハッ、としてから笑う)ふっ」


満面の笑みを浮かべるみぞれ。


みぞれ「たった今、好きになった」


客席ごしの舞台。


つづく