響け!ユーフォニアム2 第二回「とまどいフルート」  シナリオ抜き書き

響け!ユーフォニアム2 第二回「とまどいフルート」


脚本 花田十輝 絵コンテ 武本康弘 演出 石立太一


〇(プロローグ)


フルート3年生「イエーイ」

滝「私たちは、今日たった今から代表です」

美知恵「まさか関西大会とは……」

麗奈「全国行こうね」

みぞれ「仲悪いの?その二人と」

希美「私、部活に戻りたいんです!」

 

◯OP


〇校門前道路


昼間の情景。「三日月の舞」の合奏が聞こえる。


〇学校内


下足室、階段、廊下、音楽室のプレート。


〇音楽室


滝の手が上がり、演奏を締めくくる。


滝「はい、 L から からのフォルテッシモ、音が濁らないようにしてください」

部員たち「はいっ」

橋本「スネアは、ロールだらしなくならないように」

田邊「はいっ」

滝「では、本日の練習はここまでにします。あすからはお盆休みに入りますが、その後すぐ合宿です。体調管理にはくれぐれも注意して、風邪などひかないようにしてください」

部員たち「はいっ」

橋本「(くしゃみ)ふあっくしっ……だぁ」

滝「注意してくださいね」

部員たち「(笑い)」

橋本「……はい」

晴香「では合宿の予定確認するから、パートリーダーはいつもの教室に集まってください」


水筒の水を飲む久美子、前を横切るあすかの表情を伺う。緑が久美子に話しかける。


久美子「(ん?)」

緑輝「久美子ちゃん」

久美子「ん?」

緑輝「久美子ちゃんは、お休みどこか行ったりするんですか?」

久美子「んーん、特にないけど」

緑輝「本当ですか?じゃあ、レッツプール!」

久美子「プール?」


京阪電車・車内


久美子と麗奈が並んで座っている。麗奈が久美子に尋ねる。


麗奈「プール……」

久美子「プール、麗奈も一緒にどうかなって」

麗奈「行く」

久美子「え?」

麗奈「……何?」

久美子「いや意外だな、って」

麗奈「去年買った水着、結構キツくなってきたから。今年くらいは着ておきたいし」

久美子「(ぐ、キツくってまさか……)」


麗奈の胸元を見やる久美子、ぷいっと横を向く麗奈。


久美子「(っ、高校に入ったら胸が大きくなるって、やっぱり本当だったんだ!)」


京阪電車・線路


夕景の中走る電車。 


〇タイトル 第二回「とまどいフルート」


〇太陽公園・体育館前


並び立つ四人の背中(葉月、緑、久美子と麗奈)。


葉月「おぉ、賑わってるねぇ」

久美子「お盆だしねぇ」

葉月「よーし、泳ぐぞ!」


〇ファミリープール内


プールの情景。家族連れ、はしゃぐ子供たち。泳ぐ葉月が久美子たちに手を振る。


葉月「ぷあっ、おーい」

緑輝「ふふっ(手を振り返す)」

久美子「葉月ちゃん泳ぎ上手だねぇ」

麗奈「お待たせ」

久美子「ん?うわぁ」

緑輝「おぉ!」


ビキニ姿の麗奈に、驚く久美子と緑。


麗奈「思い切って去年買ってみたんだけど、ちょっと大人っぽくって」

久美子「うぅん、すごい似合ってる」

緑輝「すごく似合ってます」

麗奈「そうかな?」

緑輝「あ、緑ジュース買ってきますね。向こうに場所取ってあるので」

麗奈「ありがと」


久美子が麗奈の胸元の谷間をまじまじと見て誓う。


久美子「(私も来年は成長して、このくらいの水着を……)」


気合を入れる久美子の背後から、白ビキニの香織が声をかける。


香織「あら」

久美子「あ、香織先輩」

香織「あなたたちも来てたのね?二人?」

久美子「葉月ちゃんとみどりちゃんも一緒です。先輩……わぁぁぁ!?」


久美子の背後から、黒いビキニを着た美女が抱きつく。


久美子「うっ、えっ?あ、あの、……ど、どなたですか?」 

美女「えぇ⁉薄情だねぇ、いつも一緒なのにぃ(指で輪を作り、両目にあてる)」

久美子「え?あすか先輩?どうしたんです?こんなところで」

あすか「わたしだってプールくらい来るわよ」

香織「今日くらいしか、休みないからね。他にもたくさん来てるよ」

優子「やばいやばいやばいやばいやばいやばい♡」

加部「ちょっ、優子……」


優子が香織に気付いて、駆け寄ってくる。


優子「香織先輩、まじやばい!地上に舞い降りたエンジェル!」

夏紀「何?そのダサいTシャツ」


夏紀(CEMENT ADDICTIONのTシャツ)が横から優子(MY STAPLE FOOD IS LOVEのTシャツ)に声をかける。


優子「なんか文句ある?“セメント中毒”、なんて書いてある人に言われたくないんですけど」

夏紀「プププッ、それを言うならアンタのは“私の主食は愛です”、だけど?」

優子「いちいち英語とか気にしなくていいの!ここ日本なんだし」

夏紀「さきに突っ込んだのはアンタでしょ?」

 

言い争う2人を、呆れて見ている久美子や香織たち。


〇自販機前


ジュースを買っている緑の背後から、久美子が声をかける。


久美子「緑ちゃーん」

緑輝「あ、どうしました?」

麗奈「アイス買いに来たの」

久美子「ていうのは建前で、ほんとは先輩たちから逃げて来ちゃった」

緑輝「えっ、先輩たち来てるんですか?」

久美子「うん。夏紀先輩と優子先輩が相変わらずで、もう。ははは」

緑輝「えへへへ」

麗奈「久美子、アイスは?」

久美子「あ、うん。……あ」


久美子が離れた場所を歩く希美に気付く。


麗奈「どうしたの、久美子?」

久美子「ごめん、ちょっと用事(と駆け出す)」

麗奈「アイスは?」

久美子「いるー」


〇プール脇・通路。


歩く希美の背中。久美子が背後から声をかける。


久美子「希美先輩!」

希美「あ、あなた。確かユーフォの、……黄前久美子ちゃん!」

久美子「はい……」

希美「夏紀もいるよ。一緒に来てるから」

久美子「あぁ、さっき会いました。あと、あすか先輩も」

希美「噓⁉あ……、今日はやめとこうかな」

久美子「あー……」

希美「そういえば、久美子ちゃんってコンクールメンバーなんだよね」

久美子「はい……」

希美「2年の夏紀がサポートで、1年の久美子ちゃんがコンクールメンバーなんだよね」

久美子「っ……」

希美「それってどうなの?」

久美子「ぁ……」


希美の視線に、目を伏せてしまう久美子。オーディション前後の出来事がよぎる。


(インサート)練習する夏紀、楽譜に書き込まれた夏紀のメッセージ、再オーディション前の麗奈と久美子、振り向き笑う麗奈。


グッと唇をかみしめたあと、希美に反論する久美子。


久美子「し、仕方ないことだと思います。」

希美「(ハッとする)」

久美子「北宇治が全国を目指している以上、学年に関係なく上手い人が吹くのが当然だと思います!」

希美「(フッと笑って)うん、私もそう思うよ」

久美子「え?」

希美「北宇治、変わったなぁ……」

久美子「……」

希美「じゃぁね」


立ち去ろうとする希美に、久美子が問いかける。


久美子「あの、どうしてあすか先輩なんですか?」

希美「え?」

久美子「部活、復帰したいなら部長とか先生のトコとか……」

希美「あすか先輩は特別だからね」

久美子「特別……」

希美「もしかして気になる?」

久美子「気になります」

希美「……そっか」


〇プール脇・東屋


東屋のベンチ、ジュースを飲みながら希美が久美子に話をしている。


希美「あすか先輩はさ、止めてくれたんだよ……」


〇(回想)教室


フルートを手に、3年生に掛け合う希美やほかの一年生たち。


希美「(OFF)私が去年、3年生と衝突して、ほかの子たちと一緒に辞めた時……」


〇(回想)職員室


机に置かれた退部届。


〇(回想)廊下


職員室からでてきた希美に、あすかが声をかける。


希美「失礼します」

あすか「本当に辞めるんだ。馬っ鹿みたい」

希美「(ムッとして)真面目にやってる人が、くだらない人のせいで嫌な思いをする部なんて、いても意味がないですから」

あすか「それが馬鹿だって言ってるの」

希美「ぁ……」

あすか「そのくだらない3年生は、放っとけば卒業して来年は私らだけになるんだけど?それまで待てない?」

希美「待てません」

あすか「そ?」


あすかを置いて、歩き去る希美。


希美「(OFF)いま考えてみると……」


〇プール脇の東屋


話す希美と久美子。シャワーで遊ぶ子供たち。


希美「あの時あすか先輩は引き留めようとしてくれてたんだなって」

久美子「それで……」

希美「あすか先輩、今年最後でしょ。だから何か手伝いたいなって。一緒に演奏できなくてもいい、役に立ちたいなって」

久美子「あすか先輩は知ってるんですか?そのこと」

希美「うん」

久美子「じゃぁ、どうしてなんでしょう?」

希美「それが分からないからキツイの……」

久美子「ぁ……」


〇プール脇の木陰


木陰に座ってスマホをいじる夏紀の横で、寝転びながら話しかける優子。


優子「香織先輩、水着姿マジエンジェルだったぁ」

夏紀「あっそ。 友達来るんだけど、邪魔」

優子「友達?そんなのいたんだ」

夏紀「あんたと違ってね」

優子「誰?そんな優しい人」

夏紀「うるさいなあ、希美だよ。傘木希美」

優子「……希美」


〇プール脇の東屋


話をしている希美と久美子。


希美「優子とみぞれ?」

久美子「はい、お二人とも先輩と同じ南中の吹部ですよね?」

希美「うん」

久美子「二人はどうして辞めなかったのかなぁ、って」

希美「優子は、声かけてみたんだけど、もう少しやってみるって」

久美子「鎧塚先輩は?」

希美「みぞれは」


(インサート)南中の制服、桜並木で手を引かれるみぞれ。


希美「声、かけなかったから」

久美子「どうしてですか?」

希美「オーボエ、一人だけだったし。あの子にはうるさく言う先輩もいなかったし、それに……最初からコンクールメンバーだったし」


ジュースを持つ希美の手に力が入る。希美の様子を見ていた久美子、目をそらす。


久美子「そうですか……」

希美「(笑って)なんでそんなこと聞くの?」

久美子「あすか先輩が、どうして復帰を認めないのか、何かヒントがあるかなぁ、って」

希美「あった?」

久美子「ない……です」

希美「だよね」


希美が立ち上がって日向へ歩み出る。


久美子「あの」

希美「ん?」

久美子「希美先輩はどうして部に戻ろうと思ったんですか?」

希美「ぁ……、変かな?」

久美子「あ、いえ……、 変ではないです……」

希美「私、吹奏楽好きなんだよ……」


〇教室(フルートパート)


(回想) 教室の入り口に来る希美。練習せずにおしゃべりをしていた部員たちが希美に気づいて出て行く。


希美「(OFF)ちゃんと練習して、強豪校に負けない強い部になりたかった。でもみんな、先輩たちのことを怖がっちゃって……」


一人で練習する希美が、楽器を下してうつむく。


希美「(OFF)何とかしようとしたんだよ。結果、無視されちゃって。もうこれ以上どうしようもないって思ったから、仕方なく辞めたんだ……」

 

〇プール脇の東屋


話す希美の背中。それを見つめる久美子。


希美「それが今年、関西大会だって。正直悔しいよ、私が馬鹿だったみたいじゃん。そう思わない?」

久美子「そんなこと、ないです」

希美「あすか先輩にね、私が戻ってもプラスにならないって言われたんだ。悪いトコがあるなら直すって言ったのになぁ。(涙を拭きながら)何が……、私何がダメなんだろう?もうわかんないよ」

久美子「すみません」

希美「(笑顔を作って)大丈夫、気にしてないよ。じゃあね。ありがと」

久美子「あ……」


〇廊下(低音パート前)


(回想)上級生達の会話を盗み聞きする久美子たち。


あすか「(OFF)だからもう来ないでほしい」


〇プール脇の東屋


立ち去ろうとした希美に、久美子が声をかける。


久美子「先輩っ、私が聞いてみます!」

希美「ぁ……」

久美子「あすか先輩に。戻っちゃダメな理由。私が、聞いてみます!」

希美「ありがとう。でも、大丈夫。気持ちだけ受け取っておくよ」

久美子「あ、いえ」

希美「それより行かなくていいの?友達待ってない?」

久美子「あっ!」


〇プール脇の芝生


久美子を待つ麗奈と緑。その横で葉月と加部がじゃんけんをしている。


緑輝「遅いですねぇ、久美子ちゃん」

麗奈「うん」

葉月「ぽんっ!(チョキ出して負ける)」


〇CM(コンバスと緑)


京滋バイパス


トンネルの中を走る京阪バス


〇バス車内


トンネルを抜けるバスの車内。久美子と麗奈が並んで座っている。


久美子「(ナレ)お盆休みはあっという間に過ぎ……」


〇アクトパル宇治・エントランス前


バスから降りる部員たち。


久美子「(ナレ)2泊3日の合宿が始まった」


〇研修室


久美子たちが部屋を見渡す。練習のための準備をしているチームもなか。


久美子「わぁ、広いねぇ」

緑輝「いい感じに練習できそうですね」


〇廊下


滝がやってきて、久美子たちに声をかける。


滝「お早うございます」

久美子たち「お早うございます」

麗奈「もういらしてたんですか?」

滝「はい。美知恵先生一人に監督をお願いするのも、どうかなと思いまして」

久美子「でも、練習の時もいつも朝から来てるのに……」

滝「それに見合う、やりがいのある仕事ですから」

麗奈「はいっ」

滝「それに……、私には妻も子供もいませんからね。仕事くらいしかやることがないんです」


言い淀んだ滝の様子を、久美子が少し訝る。


〇建物外観


強い日差しのもと、セミの声が響く。


〇研修室


ポジションに付き、練習の開始を待つ部員たち。考え事をしている久美子の顔がユーフォに映りこむ。


久美子「(私が、聞いてみます!)」


ため息をついて、あすかの方を見やる久美子。


久美子「はぁ……」

あすか「ん?何?」

久美子「あ、いえ……。(なんであんなコト言っちゃったんだろぉ。)ん?」


ドアの音に振り向く久美子。滝が入って来て指揮台で部員たちに告げる。


滝「ではまず、練習を始める前に、皆さんに紹介したい方がいます。どうぞ」


振り向く部員たち。女性が一人入ってくる。


部員たち「おお(ざわめき)」


ざわつく部員たちの声の中、滝のもとへと進み、並び立つ。


滝「今日から木管楽器を指導してくださる、新山聡美先生です」

新山「新山聡美といいます。よろしく(一礼して、笑顔を見せる)ぅふっ」

島「木管⁉」

植田「やったぁ」

鈴鹿「超、美人じゃん」

萩原「さすが滝先生」

田中「えっ、そうなの?」

滝「午後は、木管は第二ホール。パーカッションと金管はこちらで練習します。新山先生は若いですが、優秀です。指示にはきちんと従うように」

新山「優秀だなんて。褒めてもなにも出ませんよ?」

滝「いえいえ、本当のことを言っているだけです」

新山「まぁ。滝先生にそう言っていただけると嬉しいです」

岡「なになに?」

喜多村「マジなやつ?マジなやつ?」

部員たち「(ざわざわ)」

みぞれ「……」

久美子「はぁー……、あっ⁉」


久美子が麗奈の方を振り返る。うつろな目の麗奈。


麗奈「……」


久美子「(OFF)そこにいたのは、完全に死んだ魚の目をした麗奈だった」


〇屋外


木の幹でカブトムシとクワガタの喧嘩。


〇食堂


カレーライスを前にはしゃぐ緑。


緑輝「わぁい。緑、カレー大好き!」

梨子「セクション練習、ご苦労様」

緑輝「コンバスだけ木管と一緒なんて、仲間はずれですよね」

葉月「それでどうなの、新山先生は?」

緑輝「それがですね」

葉月「うん」

緑輝「滝先生並みにすごい人でした!」


〇第二ホール


(回想)木管パートの練習風景。タクトを持つ新山、演奏を聴いて。


新山「うーん。(笑顔で)もう一回、やってみようか?」


〇食堂


緑の話が続く。


緑輝「それが何十回も……」

久美子「それはそれで辛いねぇ」

卓也「まあ、滝先生っぽくもあるけどなぁ」

梨子「葉月ちゃんたちはどうなの?」

葉月「キツイっすよ」


(インサート)指導する美知恵のイメージ。


葉月「(OFF)お前ら、分かってるだろうな?ですもん」

久美子たち「(笑い)」


(時間経過)食器を下げる久美子。


久美子「ごちそうさまでしたぁ」


トランペットパートのテーブルで、心ここにあらずの様子でカレーを口に運ぶ麗奈。久美子がその様子を見ながら通り過ぎる。


久美子「うぁ(下手な言葉はかえって逆効果だ……)」


〇屋外


木の幹でカブトムシがクワガタをうっちゃる。


〇ロビー


食堂から出てくる久美子。スマホでだれかと話している夏紀が、手招きする。


夏紀「うん、……そう、……うん、……どうかな?……うん」

久美子「(手招きされて)ん?」

夏紀「……うん、じゃあね」


近づく久美子に、夏紀が話しかける。


夏紀「希美とプールで話したんだって?」

久美子「はい」

夏紀「ありがとうって言ってたよ。あと無理して色々してくれなくていいから、って」

久美子「でも」

夏紀「去年のこともあるから、下級生に迷惑かけたくないんだよ」

久美子「希美先輩のこと、好きなんですね」

夏紀「好きって言うか……」


〇南中学校・中庭


(回想) 下校する夏紀。渡り廊下でフルートを吹く希美。部員たちと笑顔で話す希美

を、夏紀が見上げる。


夏紀「憧れかな。希美は南中の吹奏楽部の部長で、私みたいに面倒なことが嫌いな奴とは真逆の子だったんだ……」


〇北宇治高校正門


(回想)桜の咲く風景。


〇音楽室


(回想)プレートを見上げる夏紀。 ユーフォを吹く夏紀と、それを笑って見ているあすか。


〇ロビー


話を続ける夏紀の横顔。


夏紀「でも希美は馬鹿正直だから、去年の3年生とぶつかって……」


〇教室(フルートパート)


(回想)外を通りかかった低音パートの1年生(夏紀、卓也、梨子)、希美の声に足を止める。


希美「(OFF)だから、コンクール目指して練習したいんです」


3年生の前で頭を下げる希美。


希美「お願いします!」


夏紀「(OFF)なのに私は、助けるどころか余計なこと言っちゃって」


夏紀のユーフォを抱える手に力が入り、上級生に言い放つ。


夏紀「(OFF)言ってもムダだよ!」

上級生たち「んん?」

夏紀「そいつら、性格ブスだから!」


〇ロビー


夏紀の告白にビックリする久美子。


久美子「言ったんですか⁉3年生に向かって?」

夏紀「つい、勢いでさ。……だから罪滅ぼしかな、希美を部活に戻すのは」

久美子「……」

夏紀「あの子が本当に苦しんでるときに、なにもしてあげられなかったからね」


夏紀が立ち上がり、久美子の肩に手を置く。


夏紀「気ぃ使わせちゃってごめんね。でも、黄前ちゃんは関西大会に集中。希美のことは私が何とかするから」


久美子「(ナレ)はい、と答えるのは簡単だったけど……。その言葉は、のどに引っかかって出てこなかった」


〇屋外の休憩所


星空のもと、みぞれがベンチでリズムゲームをしている。扉が開き、久美子が出てくる。


みぞれ「……?」


久美子、下のベンチに座るみぞれに気付かぬまま、イヤホンで『ダッタン人の踊り』を聴きはじめる。


久美子「ハーっ(溜息)」

みぞれ「(漏れ聞こえる曲にハッとする)……」


〇プール脇の東屋


(回想)希美が久美子に話す。


希美「あすか先輩にね、わたしが戻ってもプラスにならないって言われたんだ……」


〇ロビー


(回想)夏紀が久美子に話す。


「だから、罪滅ぼしかな?希美を部活に戻すのは……」


〇屋外の休憩所


考え込む久美子。


久美子「(あすか先輩が……、どうして希美先輩を……)」


〇喜撰橋


(回想)花火大会の会場。麗奈が久美子に話す。


麗奈「いま復帰を許して、引っかき回されたら、関西大会に影響が出る。私はあすか先輩の判断は正しいと思う……」


〇屋外の休憩所

 

考え込む久美子。リズムゲームを続けるみぞれ。


久美子「(確かにそうだけど……)」


〇倉庫


(回想)腕を組んで久美子の問いに答えるあすか。


あすか「正直言って、心の底からどうでもいいよ。誰がソロとか、そんなくだらないこと……」


京都コンサートホール・舞台


(回想)演奏前に久美子に話しかけるあすか。


あすか「ずっとこのまま、夏が続けばいいのに」


〇屋外の休憩所


音楽を聴きながら、考え込む久美子。イヤホンから漏れる音楽。みぞれのリズムゲームにミスが増える。


久美子「(どっちが本心なんだろう?)」

みぞれ「……」


みぞれが、不快そうに息を吐いて、久美子の足首を突く。


久美子「ひっ⁉(下を見て)鎧塚先輩?」

みぞれ「その曲やめて、嫌い」

久美子「あ、すみません。……先輩、どうしてここに?」

みぞれ「リズムゲーム、……眠れないから。(横に座るよう促す仕草を見せ)どうぞ」

久美子「はぁ……」


(時間経過)みぞれの横に座り、話しかける久美子。


久美子「リズムゲーム、音なしでもできるんですかぁ?」

みぞれ「……」

久美子「(うーん……)」

みぞれ「ねえ、コンクールって好き?」

久美子「え?」

みぞれ「私は嫌い。結局審査員の好みで結果決まるでしょ?」

久美子「……でも、そういうのって何となく仕方ないかな、って思っちゃってます……」

みぞれ「(ゲームを止めて)仕方ない?」

久美子「っ……」

みぞれ「たくさんの人が悲しむのに」

久美子「……すみません」

みぞれ「私は苦しい。コンクールなんて無ければいいのに」

久美子「え?ぁ……じゃぁその、鎧塚先輩はどうして続けてるんですか?」


〇桜並木


(回想)南中の制服姿の希美が手を引っ張る。


京都コンサートホール


(回想)銀・南中学校吹奏楽部の文字。


〇バス車内


(回想)前を向き決意を吐露する希美、窓の外を見るみぞれ。


希美「高校に入ったら、金、獲ろうね」

みぞれ「……」


〇屋外の休憩所


久美子とみぞれの会話。


みそれ「分からない」

久美子「え?……先輩?」


みぞれのスマホの画面「一時停止、ゲームを…続ける、やめる」の文字。


〇音楽室


(回想)ぽつぽつと目立つ空席。楽譜越しに窓を見ているみぞれ。話しかけてくる優子。


京都コンサートホール


(回想)金・北宇治高等学校吹奏楽部の文字。


〇屋外の休憩所


白いおしろい花が滲む。目を伏せているみぞれ。久美子も下を向く。


みぞれ「もうなにも、分からない……」

久美子「……」


ベンチの2人。背ごしの星空。


〇和室


周りを起こさないように静かに布団に入る久美子。麗奈が声をかける。


久美子「……ふ、……ん」

麗奈「どこ行ってたの?」

久美子「ん、ちょっと眠れなくて」

麗奈「そう……(久美子に近づき、小さく手まねき)」

久美子「ん?(顔を近づけて)なに?」

麗奈「滝先生、新山先生と付き合ってると思う?年が近い方がいいよね、きっと」

久美子「それは分かんないよ。本人に聞いてみないと」

麗奈「……そうかな」

久美子「うん。ふふん、大丈夫だよ、麗奈大人っぽいし」

麗奈「なにそれ?」

久美子「ホントだよ。(上を見て)同い年なのに全然違う気がする。見た目も中身も」

 

麗奈が目を閉じた久美子の肩を叩き、手のひらを向ける。


久美子「ん?」


麗奈の手に気付き、久美子も手のひらを差し出す。タッチする二人。


久美子「ん」

麗奈「(笑う)」

久美子「ふふ」


布団の中で見つめ合う久美子と麗奈。


〇研修室


久美子が扉を開けて入ってくる。窓際ではあすかがストレッチをしている。


あすか「ふっ、んっ、ん-(と背伸び)」

久美子「あすか先輩」

あすか「ん?」

久美子「あとで時間もらえませんか?話したいことがあるんです」

あすか「……」


あすかを見据える久美子。椅子の上で銀色に光るあすかのユーフォ。


久美子「(ナレ)そして、次の曲がはじまるのです」


つづく

ED