響け!ユーフォニアム2 第三回「なやめるノクターン」  シナリオ抜き書き

響け!ユーフォニアム2 第三回「なやめるノクターン

 

脚本 花田十輝 絵コンテ・演出 山村卓也

 

◯(プロローグ)

 

久美子「先輩!私が聞いてみます。あすか先輩に戻っちゃダメな理由」

鈴鹿「超、美人じゃん」

萩原「さすが滝先生」

麗奈「……(死んだ魚のような目)」

久美子「あすか先輩、話したいことがあるんです」

 

◯OP

 

◯研修室

 

晴香の指揮のもと、基礎練習の部員たち。

 

晴香「じゃあ呼吸から」

部員たち「ふー」

晴香「深く吸って、遠くを意識して吐いて」

 

久美子「(ナレ)朝のミーティングは全員で呼吸、発声練習を行う」

 

部員たち「あー」

 

久美子「(ナレ)その後、パート練習に移り、午後からはひたすら合奏が続く」

 

(時間経過)滝が部員たちに指示を出す。

 

滝「では、10回通しに移ります」

部員たち「はいっ!」

 

合奏練習の部員たち。橋本や新山が見守る。ビデオを回す夏紀と葉月。

 

久美子「(ナレ)10回通しというは、課題曲と自由曲を続けて10回、通しで演奏するというものだ。2曲合わせておよそ12分、1回ごと2分の休憩を入れて160分以上はかかる。最後の方は全員……」

 

部員たち「(ぐったりして)はぁはぁ……」

 

久美子「(ナレ)こうなる」

 

滝「では、20分休憩にします」

久美子「ふぇー」

あすか「20分か。ちょっと吹いてくるかなぁ(と立ち上がる)」

 

立ち去るあすかを見る久美子と秀一。

 

秀一「すげぇな……」

久美子「うん……」

 

◯研修室(回想)

 

朝、ストレッチをしていたあすかに久美子が尋ねる。

 

久美子「後で、時間もらえませんか?」

あすか「なになに?もしかして恋の相談?」

久美子「真面目な話しなんで、そういうのいいです」

あすか「真面目は演奏だけでいいんだけどなぁ……。ま、いいや。いつにする?」

久美子「……じゃあ、夕食のあとに」

 

久美子が、部屋から出ていくあすかを目で追う。

 

久美子「(ナレ)その時は迫っていた……」

 

タイトル「なやめるノクターン

 

◯研修室

 

『三日月の舞』の演奏が終わり、滝らが指示を出す。

 

滝「今の感じでよいですが、この曲は単純なB♭メジャーが随所にある曲です。そこをきれいに合わせるよう、意識しましょう」

部員たち「はいっ」

橋本「あと、スネアがちょっと後ろに感じるよ。もっと前に」

田邊「はいっ」

橋本「それと、ティンパニー」

大野「はいっ」

橋本「今のところ、ワンテンポ早かったろ」

大野「……はいっ」

橋本「今そんなことやっててどうするの?罰金ものだよ」

大野「はいっ」

滝「ではもう一度、頭から。チューバ、Gesの音、広く取りすぎています。指はまわってますが、口が間に合ってません。テンポを速めたらこの有り様ですか?」

 

指揮台の前に座る植田や小田が、滝の厳しい注文に焦りの表情を見せる。

 

(時間経過)真剣な表情で合奏する部員たち。演奏途中で滝がストップをかける。

 

滝「はい、そこまで。ここは、今の演奏を心がけてください。ユーフォ……」

あすか「(同時に)はいっ」

久美子「(同時に)はいっ」

滝「関西大会は、今のところを二人で吹いてください」

久美子「ぁ……」

あすか「はいっ」

滝「黄前さん?」

久美子「ぁはいっ」

滝「返事は」

久美子「……はいっ」

 

嬉しそうな表情の低音パートの面々(緑、卓也、梨子。夏紀と葉月。あすか)。久美子もグッと手を握りしめる。それを見やる麗奈。おもむろに橋本が滝に疑問を投げかける。

 

橋本「なあ滝くん、オーボエのソロ、あれでいいの?」

みぞれ「……」

 

滝と新山が顔を見合わせる(痛いところを突かれた、の表情)。

 

橋本「いやぁ、音も綺麗だしピッチも安定してる。けどねぇ……、一言でいうとぶっちゃけツマラン!」

みぞれ「……」

橋本「(OFF)ロボットが吹いてるみたいなんだよ」

みぞれ「……ロボット?」

橋本「楽譜通りに吹くだけだったら機械でいい。鎧塚さん」

みぞれ「はい……」

橋本「君はこのソロをどう吹きたいと思ってる?何を感じながら演奏してる?」

みぞれ「……三日月」

部員たち「(ざわざわ)」

橋本「じゃあもっと三日月感出さないと!」

みぞれ「……善処します」

橋本「善処って言い方している時点で駄目なんじゃない?もっと感情出せない?」

みぞれ「すみません……」

橋本「謝る必要はない。クールな女の子って魅力的だと思うし。でも、このソロはクールでは困る!世界で一番上手いワタシの音を聴いて!くらいじゃないと。ほら!トランペットのソロの子みたいに」

麗奈「え……」

橋本「正直、君たちの演奏はドンドン上手くなってる。強豪校にもひけをとらないくらいにね。でも表現力が足りない。それが彼らとの決定的な差だ。北宇治はどんな音楽を作りたいか、この合宿ではそこに取り組んでほしい」

部員たち「はいっ」

滝「橋本先生もたまにはいい事を言いますね」

橋本「いや、『たまには』は余計だろ?僕は歩く名言集だよ」

 

滝と橋本の掛け合いに笑う部員たち。暗い表情のみぞれ。

 

滝「はい。では、今のところをもう一度」

 

◯アクトパル宇治・外観

 

ひぐらしが鳴いている夕景。

 

◯宿泊棟・廊下

 

談笑したり、浴場へ向かう部員たちの情景。

 

◯和室

 

座布団を枕代わりに倒れ込む久美子。

 

久美子「うぁぁ、おなか空いたぁぁぁ」

麗奈「お風呂遅れるよ」

久美子「嘘ぉ、もうそんな時間?」

 

◯浴場前

 

入浴タイムスケジュールの貼り紙。

 

久美子「うわ、あと10分しかない」

 

◯脱衣場

 

シャツを脱ごうとする久美子。奥から優子の声が聞こえてくる。鏡の前で優子がみぞれの髪をバスタオルで拭いている。

 

優子「気にしすぎだって」

みぞれ「でも……」

優子「大丈夫。あれはみぞれが上手だから。さらに上を目指してほしいってことでしょう?」

 

覗き見る久美子。背後から麗奈が声をかける。

 

久美子「(鎧塚先輩……)」

麗奈「久美子」

久美子「うぇ!?」

麗奈「わたし、花火の時に滝先生に聞こうと思う。新山先生と、付き合ってるんですかって」

久美子「そっか……」

 

◯食堂

 

夕食の風景。緑がメニューに喜びの反応。

 

緑輝「うわぁ。緑、麻婆豆腐も大好きですよぉ」

葉月「いただきまーす。んー麻婆うまぁ」

久美子「(麗奈、結構思い詰めてたんだな……)」

あすか「黄前ちゃん」

久美子「でぇ!」

あすか「残ってればいい?」

久美子「あ……、はい」

 

(時間経過)部員たちが去り、灯りの落とされた食堂。あすかが湯呑みを久美子の前に置く。

 

久美子「すみません」

あすか「いいってことよ。(お茶を注ぎながら)で、話しって何?」

久美子「あの、どうして許可しないんですか?希美先輩が戻って来るの」

あすか「なんで黄前ちゃんがそんなこと知りたがるの?」

久美子「駄目ですか?」

あすか「駄目じゃないけど。あ、もしかして意外とゴシップ好き?」

久美子「そんなんじゃないです。わたし希美先輩と約束したんです。ちゃんと真相を聞いてくるって」

あすか「そんなこと言っちゃったのぉ?駄目だよぉ、そんな約束しちゃ」

久美子「駄目でした?」

あすか「ま、いいけどね。後で困るよ」

久美子「どうしてです?」

あすか「黄前ちゃんは、どうして私が許可しないと思ってるの?」

久美子「聞いてるのは私ですけど」

あすか「まあまあ、いいじゃん」

久美子「たぶん、希美先輩が上手だから、戻ってきたら部が混乱すると思ってるのかなぁって」

あすか「なるほど〜」

久美子「っ……」

あすか「残念、全然違いますぅ」

久美子「じゃあなんなんですか?」

あすか「聞いたら黄前ちゃんが辛くなるよ?それでもいい?」

久美子「え?……」

あすか「それでもいいなら教えるけど」

久美子「教えてください」

あすか「黄前ちゃんは頭いいのに愚かだねぇ。ちゃんと警告したからね。……オーボエの鎧塚みぞれちゃん、いるでしょ?」

久美子「はい……」

あすか「あの子、希美ちゃんのこと駄目なのよ。顔見ただけで気持ち悪くなる位の、トラウマがあるらしくて」

 

◯2年生の部屋

 

ドライヤーで髪を乾かすみぞれ。優子が話しかけている。

 

あすか「(OFF)でも希美ちゃんは、自分がそう思われていることに全く気づいていない。未だに仲良しの幼なじみだと思ってるみたいでね」

 

◯食堂

 

テーブルに並ぶ湯呑み。話を続けるあすか。

 

あすか「なのに、アンタがいるとみぞれちゃんがオーボエ吹けなくなる、戻って来るな。とは、さすがに言えないでしょ?私もそこまで鬼じゃないよ。(お茶をすすって)うちの部にはオーボエ1人しかいないからねぇ」

 

◯希美の部屋

 

フルートを吹く希美。楽器を下ろした希美のどこかさみしげな横顔。

 

あすか「(OFF)今みぞれちゃんが潰れたら、関西どころじゃなくなる。二人を天秤にかけたら、どっちを優先すべきかくらい分かるでしょう?」

 

◯食堂

 

空になった湯呑み。あすかが久美子に問いかける。

 

あすか「というのが真相だけど、どうする?」

久美子「え?」

あすか「希美ちゃんに言う?今の話」

久美子「……(目を伏せる)」

あすか「だから言ったのに。まあ聞かなかったことにするんだね。どうしてもあすか先輩は教えてくれませんでしたって」

 

あすかが久美子の頭に手を置き、立ち去る。テーブルの湯呑み、お茶にうつむいた久美子の表情が映る。

 

キャンプファイヤー

 

花火を楽しむ部員たち。葉月の横で両手に花火を持ってはしゃぐ緑。

 

部員たち「(歓声)」

緑輝「わーい花火、花火ぃ。みてみて綺麗ですね(クルクル回る)」

葉月「うわぁぁ、危なっ!振り回しちゃ駄目だよぉ」

緑輝「えぇ、こんなに綺麗なのに……」

 

離れたところに座っている久美子。麗奈が線香花火を持って近づいて聞く。

 

麗奈「やる?」

久美子「うん」

 

二人で向かい合って線香花火をする久美子と麗奈。

 

麗奈「こういうの、なんか久しぶり」

久美子「私も……、ん?」

 

麗奈の視線が逸れたのに気づいて、久美子も広場の反対を見やる。談笑する滝と新山。新山が滝に手を振り、離れる。麗奈の線香花火が終わる。

 

久美子「捨てに行ったら?」

麗奈「え?」

久美子「花火」

麗奈「……まだ心の準備ができてない」

久美子「早くしないと新山先生戻って来ちゃうよ?今しかないと思う」

麗奈「でも、もし付き合ってるって言われたら」

 

久美子が麗奈の両頬を手で挟む。目を合わせる二人。

 

麗奈「……行ってくる」

久美子「いってらっしゃい」

橋本「……あの子、滝くんのこと好きなの?」

久美子「うぁ!?」

 

いつの間にか橋本が久美子の横に座っている。

 

橋本「滝くんも罪な男だねぇ」

久美子「聞いてたんですか?」

橋本「いやいや、ただ視線とかでね。一応ボクも大人だし」

久美子「そうですか」

 

花火をバケツに捨てる体で滝に話しかける麗奈。

 

橋本「(OFF)まあでも、滝くんがああやって笑ってるの見て、ホッとしたよ」

 

並んで会話を続ける久美子と橋本。

 

橋本「滝くん、奥さんがいなくなってズーッと元気がなかったから」

久美子「そうなんですか……って、えぇ!?」

橋本「あっ、しまった!」

久美子「滝先生、奥さんいたんですか?」

橋本「えぇ、ぇ(立ち上がり、去ろうとする)」

久美子「(橋本のシャツを掴んで)あっ、先生っ」

橋本「(ため息をついて座る)ぁあぁ、まあね。5年前にお亡くなりになったけど」

 

爆ぜる爆竹。晴香の司会で余興が続く。

 

晴香「では続きまして、トロンボーンによるモノマネ対決です!」

野口「(メガネをかけて滝のモノマネ)なんですか、これ?」

部員たち「(爆笑)」

 

盛り上がる部員たち。少し離れた場所で久美子が橋本の話しを聞いている。

 

橋本「滝くん、奥さん亡くなってから抜け殻みたいになって……」

 

久美子の視線の先、広場の向こうで話している麗奈と滝。

 

 

橋本「音楽からも離れてしまって……みんな心配してたんだ」

 

並び座る久美子と橋本。

 

橋本「だから、北宇治の顧問になったって聞いた時は、本当に嬉しかった。指導を手伝ってほしいと言われた時は、ちょっと泣きそうだったよ」

 

久美子が橋本から視線をそらす。その先で談笑する麗奈と滝。キャンプファイヤーの炎が揺らめく。

 

CM(フルートを吹く制服姿の希美)

 

◯洗面所

 

鏡の前で話す麗奈と久美子。

 

麗奈「滝先生、付き合ってないって」

久美子「そうなんだ」

麗奈「新山先生、結婚してるんだって」

久美子「よかったね」

麗奈「うん」

 

久美子が視線をそらす。

 

久美子「(ナレ)そんな麗奈に……」

 

◯和室

 

明かりの消えた天井を見上げる久美子。

 

久美子「(ナレ)滝先生の過去を話す気にはなれなかった」

 

午前1時25分の時計。寝付けないまま、麗奈を見やる久美子。静かに寝ている麗奈。久美子が起き上がり、周りを起こさないように静かに部屋を出る。

 

◯外廊下

 

歩く久美子。

 

◯外休憩所

 

ベンチに座る久美子、星空を見上げる。

 

◯藤棚(回想)

 

麗奈「わたし、滝先生のことが好きなの」

 

◯外休憩所

 

久美子がため息をつく。そこに、優子の声が聞こえてくる。

 

久美子「はぁ……、やっぱり言うべきかなぁ」

優子「(OFF)だから、なんでもないって言ってるでしょ?」

久美子「ん?」

 

久美子が振り向くと階段上の外廊下で優子と夏紀が話しをしている。

 

◯外廊下

 

夏紀が優子に尋ねる。

 

夏紀「嘘だね。はっきり言いなよ。どうして希美が部に戻っちゃ駄目なの?」

久美子「(様子を見上げて)はぁ……(こっそり近づく)」

優子「別に、駄目なんて言ってないでしょ?」

夏紀「理由があるんでしょ?何?」

優子「別に……。ただ、今戻って来たら部が混乱するかなって」

夏紀「だから希美は手伝うだけだって」

優子「(激昂して)っ、それでも駄目なのっ!」

夏紀「……やっぱり、それだけじゃ無いよね。なんか有る」

 

優子が視線を逸らすと、壁に隠れた久美子の姿が見える。

 

夏紀「なんなの?」

優子「はぁっ、だからアンタが関わるとこんがらがるから関わるなって言ってるの。それだけ!(歩み来る)」

久美子「(近づく気配に慌てて逃げる)はっ……」

夏紀「あ、ねぇ!……」

 

◯外階段

 

降りてくる優子、視線を横に向ける。隠れようとして、全然隠れてない久美子の背中。

 

久美子「(振り返り)えぁ……」

優子「ん(アゴで付いて来いのポーズ)」

 

◯自販機前

 

優子が小銭を入れて久美子に尋ねる。

 

優子「何がいい?」

久美子「え?」

優子「ジュース」

久美子「ぁあ、じゃあオレンジで……」

優子「オッケー。あんたさぁ、わたしのこと嫌い?」

久美子「ぁ嫌いというか、苦手とい、あっ(手で口を押さえる)……」

優子「もしかして、府大会のこと引きずってる?言っとくけど、あれに関してはわたし、絶対に間違ってないから。今でもソロは香織先輩が吹くべきだと思ってるから」

久美子「はぁ……」

優子「先輩はマジエンジェルだからね!かわいいし、優しいし、もうヤバい♡」

久美子「はぁ……」

優子「何、そのリアクション。今のは突っ込むところでしょ?」

久美子「ん、あぁ、冗談?」

優子「ふぅ……」

久美子「あ、いや、あははは……」

優子「わたしたち2年は、去年いろいろあってさ。わたしも吹部辞めようかって、結構悩んだんだけど、その時応援してくれたのが香織先輩だったわけ」

久美子「夏紀先輩にもちょっと聞いたことがあります、去年の話。先輩も悩んでたんですね」

優子「まあね。で、(顔を近づけて)どこまで立ち聞きしてたの?さっきの話」

久美子「ぇ、あぁー……」

 

◯研修室

 

ベンチに並び座る久美子と優子。

 

 

優子「あすか先輩も知ってるんだ、さすがだなぁ。あ、言っとくけど夏紀にはナイショだからね。」

久美子「え?なんでですか?夏紀先輩なら協力してくれるかもしれないのに」

優子「あんなのに協力されたら迷惑でしょ」

久美子「迷惑って……」

 

◯バルコニー

 

スマホをいじっている夏紀、電話をかける。

 

優子「(OFF)それに、夏紀は純粋に希美のためを思って部に戻そうとしてるんだから、みぞれのことを聞いたらどうしていいか分からなくなる……」

 

◯研修室

 

並んで会話する久美子と優子。

 

優子「あいつの性格的に……」

久美子「(意外な優子の話に少し微笑み)……」

 

立ち上がる久美子、譜面台の譜面をなぞる。

 

久美子「んっ(と、立ち上がり)。……先輩はコンクール、嫌いですか?」

優子「はぁ?いきなり何?」

久美子「あ、すみません。さっき香織先輩のソロの話も出たから。コンクールってなんだろうなぁって」

優子「まあ、納得行かないことが多いのは、確かなんじゃない?わたしだって……」

 

◯バス車内(回想)

 

バスの車内、泣いて落ち込む南中吹奏楽部の部員たち。窓外に視線を向けている優子(泣いていない)。

 

優子「(OFF)中学最後の大会は、今でも納得してないわけだし……」

 

京都コンサートホール(回想)

「銀 市立南中学校」の文字。

 

◯研修室

 

優子が立ち上がり、自分の椅子に座る。優子が久美子に答える。

 

優子「でもそれは、結果が悪かったから。結果が良かったら、納得していた気がする。今のわたしたちみたいにね」

久美子「ですよねぇ……」

 

◯研修室(回想)

 

晴香の指揮で基礎練習をする部員たち。

 

優子「OFF)フザケてやってるわけじゃない……」

 

(時間経過)部員ごし、指揮をする滝。

 

優子「(OFF)みんな夏休みを潰して練習している……」

 

 

京都コンサートホール・舞台

 

並ぶトロフィー。結果発表の男。審査員の評価シート。

 

優子「(OFF)けど、コンクールは優劣を付ける。金、銀、銅。この曲を自由曲に選んだ時点で難しいとか、演奏以前の話を評価シートに平気で書かれたりすることさえある」

 

◯研修室

 

椅子に座り、話しを続ける優子。

 

優子「努力が足りなかった、劣ってたということにされちゃう。ちょー理不尽でしょ?」

久美子「じゃあ、先輩はコンクールがないほうがいいって思ってるんですか?」

優子「思ったこともあるよ、そりゃ。ただ、去年みたいにみんなでノンビリ楽しく演奏しましょうっ、ていう空気がいいかと言うと、そんなことはなかった」

 

◯教室(トランペットパート・回想)

 

椅子に楽器を置いて、トランプに興じる3年生たち。それを見ている1年生の優子。

 

優子「(OFF)上を目指して頑張っている1年よりも、サボってる3年がコンクールに出る、みたいなのは、やっぱり引っかかった」

 

◯研修室

 

優子の話しが続く。

 

優子「まぁ、今年は実力主義になって、イロイロあったけど。本気で全国行こうと思うんだったら、上手い人が吹くべきだと思う」

久美子「ぇっ……、先輩それってれ」

優子「(かぶせる様に)結局、好き嫌いじゃなく、コンクールに出る以上は金がいいってことなんじゃない?フンっ!」

久美子「(嬉しそうな表情)……」

優子「げ、もうこんな時間、部屋帰るわよ!」

久美子「(笑顔になって)はぁい」

 

◯建物外

 

星空の情景。

 

◯和室

 

午前4時2分を指す目覚まし時計。久美子がそろそろと布団に戻る。

 

久美子「ん、(大あくびして)完全に寝そびれてしまった」

麗奈「どこいったの?」

久美子「起きてたんだ」

麗奈「昨日も抜け出してなかった?」

久美子「うーん、ちょっとね」

麗奈「塚本?」

久美子「は、なんでそうなるの?全然関係ないじゃん」

 

襖の注意書き。天井を見上げて久美子が尋ねる。

 

久美子「麗奈はさぁ」

麗奈「ん?」

久美子「コンクールってどう思う?」

麗奈」どうして?」

久美子」んー、なんか考え込んじゃって」

麗奈「……よく、音楽は金、銀、銅とかそんな簡単に評価できないって言う人がいるけど、アレを言っていいのは勝者だけだと思う。下手な人が言っても、負け惜しみでしかないと思うし」

久美子「うん……」

久美子「だから結局、上手くなるしかないと思ってる。それに、たくさんの人に聞いてもらえる機会って、そんなにないから」

 

日の出の時間、スズメの鳴き声。障子越しに陽の光が届き始める。

 

 

麗奈「わたしは好き(笑顔を見せる)。ポジティブに捉えたいって思ってる」

久美子「(感動して)はぁ……そっかぁ……」

 

天井を見上げている久美子、麗奈の寝息に気づく。

 

麗奈「(かすかな寝息)」

久美子「ん……(と微笑む)」

 

◯アクトパル宇治・外

 

早朝の情景。ユーフォを抱えた久美子が高台の広場へ向かって歩いている。

 

久美子「結局、全然眠れなかった」

 

朝日が田園の風景を照らす。

 

久美子「綺麗……。ん?」

 

坂の上から楽器の音が聞こえてくる。

 

久美子「ユーフォ?」

 

◯桜の広場

 

階段を登ってくる久美子。あすかが、1人ユーフォを演奏している。

 

久美子「ん……、(ユーフォを吹くあすかを見つけて)はっ……」

 

広場の真ん中であすかの演奏が続く。

 

久美子「あすか先輩……」

 

久美子「(ナレ)その曲はどこか不思議で暖かくて、寂しくて。幾重にも重なった感情が込められているようだった……」

 

あすかの演奏。ユーフォを持つ久美子の手に力が入る。

 

久美子「(ナレ)そして次の曲が始まるのです」

 

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