「響け!ユーフォニアム」のシナリオ抜き書きをしてみました。

 

2021年になって、初めて観た「響け!ユーフォニアム」にどハマりしたおっさんです。TVシリーズを繰り返し観て、原作小説も全巻買いそろえて、ふと気になったのが原作小説とアニメの細かな差異。

 

僕は小学生時代の久美子とその姉の麻美子の回想シーンの優しい雰囲気が好きなんだけど、原作小説にはその描写がない。というか第1期の原作にあたる「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ」に麻美子は登場してこない!(正確にはp204、久美子と麗奈の会話の中で、「小6までトロンボーンをやっていた、幼い久美子が憧れていたお姉ちゃん」として登場。本人の登場は第2巻p129お盆休みに帰省している描写が最初。)

 

ということは脚本の花田十輝さんや、石原立也監督は第2期を見越して、意識的に(久美子があすかに干渉してゆくきっかけとなる)麻美子の存在を第1期のうちから強化しているわけで、それに気づかされてから「シナリオって面白い、ほかのキャラクターや出来事も原作小説とアニメの差異を比較してみたい。」ってなって、シナリオの抜き書きをしてみようと思い立った次第。

 

実際に初めてみたら、これが大変。セリフを拾うのも大変だし、演者さんの息づかいや言い回しを完全に文字にできやしない(たとえば黒沢ともよさんは、その時々の久美子の心情にあわせたメチャ繊細な息の使い方をされていて、おいそれと文字に変換できるようなものではない)。各シーンの演出もどこまでが脚本によるもので、どこからが絵コンテ・演出によるものかが判別できないから、どこまでト書きに書き起こせばいいのやら。

 

とはいえ、形にはなったので、これをベースに少しずつ原作小説との比較をして、第1期のシナリオがどのように構成されているかを見ていこうと思っている。その前に8月の資格試験に向けてお勉強しなくちゃいけないんだけど……。

 

なお、シナリオ抜き書きにあたってはU-NEXTの配信版を、各キャラクターの名前に関しては北宇治高校吹奏楽部部員一覧

https://cdn.wikiwiki.jp/proxy-image?url=http%3A%2F%2Fi.imgur.com%2FMOV0Dip.png

を、また一部ト書きは武田綾乃著・宝島社刊「響け!ユーフォニアム北宇治高校吹奏楽部へようこそ」を参照しています。

響け!ユーフォニアム 第一回 「ようこそハイスクール」 シナリオ抜き書き

響け!ユーフォニアム 第一回 「ようこそハイスクール」

脚本 花田十輝 絵コンテ・演出 石原立也

 

〇回想(中学時代、京都コンサートホール

 

ホール外の人々~ホール内の学生たち、ホールの扉を開けようとする女生徒たち

女生徒「早く、早く」

 

観客席に座る梓の横に久美子がやってくる。

 

梓「やばい、緊張する。あっ」

 

三人の男たちが結果発表の紙をたらす

 

梓「(OFF)きたぁ」

 

息を飲む二人、ホール内に歓声が響きわたり、二人、目をみはる。

 

梓「金だ!(OFF)金だよ!私たち」

金 大吉山北中学校の文字が見える。

梓「私、アサミに報告してくる。あの子緊張でトイレに閉じこもってるから」

 

ステージでは男が関西大会出場校の発表を始める。

 

男「この中より、関西大会に出場する学……」

 

久美子は緊張から解き放たれ、安堵の溜息をつく

 

久美子「はぁ……金だ……」

 

歓喜する他校の学生たち、発表を終え一礼する男

 

久美子「ダメ金だけど、金。……うん」

 

笑いながら横を見ると、隣では麗奈が顔をうずめるように泣いている。

 

久美子「高坂さん、泣くほど嬉しかったんだ……。良かったね、金賞で」

麗奈「悔しい……」

久美子「えっ……」

麗奈「悔しくって死にそう。なんでみんなダメ金なんかで喜べるの?わたしら全国目指してたんじゃないの?」

久美子「ほ……本気で全国行けると思ってたの?あっ……」

麗奈「(息を飲んで)あんたは悔しくない訳?わたしは悔しい!めちゃくちゃ悔しい!」

 

泣きながら立ち去る麗奈に、久美子はかける言葉もなく見送る。

 

メインタイトル「Sound! Euphonium」

 

〇黄前家

 

久美子が部屋の姿見の前でスカートの丈を上げ、胸を気にして溜息をつく

 

久美子「(ナレ)高校に入ったら胸が大きくなるなんて噂、どうして信じちゃったんだろう……」

 

〇玄関・外

 

久美子「行ってきます」

明子「いってらっしゃい」

 

〇宇治の街(引き)~桜の通学路を歩く久美子

 

久美子「(ナレ)そんなことを思いつつ、私の高校生活は始まろうとしていた」

 

久美子、道端に吹きたまっている桜の花びらを手ですくい、息で飛ばす。~空に舞い散る花びら。

 

〇北宇治高校 正門~階段前

 

上級生たちが新入生を勧誘している。

 

久美子「(ナレ)わざわざ同じ中学の子が少ないこの学校を選んだのは、憧れのセーラー服の高校がここだけだったのと、いろんなことを一度リセットしたかったから」

 

あすか「新入生の皆さん、北宇治高校へようこそ!」

久美子「あっ、吹部だ」

 

階段に吹奏楽部のメンバーが立っている

 

あすか「輝かしい皆さんの入学を祝して」

 

あすかが指揮棒を振り上げ、演奏準備をする部員たち。

 

久美子は期待に満ちた顔でそれを見上げる。

振り下ろされる指揮棒にあわせて演奏する部員たち『暴れん坊将軍のテーマ』

ピッチもテンポもダメダメの演奏に久美子唾を飲み込む。

 

久美子「……駄目だこりゃ」

 

ブロンズ像に止まっていた鳩が逃げ出す。

 

OPテーマ曲

 

〇校舎内トイレ

 

鏡の前の久美子、手を拭きながら。

 

久美子「(下手すぎる!)」



〇1-3教室内

 

新入生たちがはしゃぐ中、久美子は机に座って物思いにふけっている。

 

久美子「(バラバラしてた。ピッチもあってないし、リズムも……でもまぁ、全国目指してる感じじゃぁないんだろうな……はっ(突然なにかが頭をよぎる))」

 

 (インサート)回想(中学時代、京都コンサートホール)泣いている麗奈アップ。

 

久美子「んー、でも、あれは下手だよなぁ」

葉月「何が?」

久美子「えっ!?」

 

久美子の机の傍らに、見知らぬ少女が立っている

 

葉月「今言ってたじゃん、下手だよなぁって」

久美子「声に出てた?……ていうか、あなたは?」

葉月「あたし?加藤葉月!後ろの席だから、よろしく」

久美子「私、黄前久美子。よろしく」

葉月「で、何が……」

 

扉の開く音がして、担任の松本美知恵が入ってくる

 

美知恵「席につけ!高校生にもなって教室でバカ騒ぎするというのは、あまり褒められたものではないな。……ん?」

 

美知恵の目が彼女の前に立っている女子に向けられる。

 

美知恵「何だそのスカート丈は?」

女子たち「あっ……」

美知恵「すぐ直せ」

女生徒「すみません」

 

机に座っている久美子も、こっそりとスカートの丈を戻す。

 

美知恵「えー、私はこの一年三組を担任する松本美知恵だ。まずは名前を確認する。……アサイユウダイ」

男子生徒「はい」

美知恵「イシカワユキ」

女子生徒「はい」

美知恵「ウチヤマダヒロコ」

女子生徒「はい」

美知恵「エグチヨウコ」

女子生徒「はい」

美知恵「オウマエクミコ」

久美子「はい」

美知恵「カトウハヅキ

葉月「はいっ!」

美知恵「カワシマ……あ、リョク……キ?」

 

言い淀む美知恵に、最前列の少女が恥ずかしげに手をあげて答える。

 

緑輝「すみませーん。あの」

美知恵「うん?」

緑輝「それサファイア……です。緑が輝くと書いてサファイアです」

美知恵「カワシマ サ・ファ・イ・ヤ。すまなかった、もう間違わない」

葉月「サファイアかぁ、カッコいいね」

久美子「うん」

 

最後列で話す久美子と葉月を背に、緑が顔を赤くして美知恵に答えている。

 

緑輝「あ、いえ……」

 

〇放課後の教室

 

葉月「久美子ぉー、一緒に帰ろ?」

久美子「えっ、久美子ぉ?」

葉月「えっ、あってるよね?名前」

久美子「あ、うん、それはあってる……」

葉月「よね。わたし葉月ね。カトーとかでもいいよ。適当に呼んで」

久美子「一緒に帰る子いないの?ぁ……(手で口を抑える)」

葉月「いや。私さ、高校で新しい友達作って、新しいこといっぱいするって決めてるんだ。だからよろしくね、久美子ちゃん」

 

タイトル 第一回 「ようこそハイスクール」

 

〇廊下

 

久美子と葉月が廊下にでてくる。緑が前の扉から出てきたのを見て葉月が声をかける。

 

葉月「で、何が下手だったの?」

久美子「それはもういいじゃん」

葉月「あ、オパールちゃーん」

緑輝「(何かを見つけて)ぁ……」

久美子「(小声で)違うよ!なんかもっと緑色っぽい」

葉月「へっ?」

緑輝「「(久美子たちの方に駆け寄って)あのー、あのあの、それってチューバ君ですよね?」

久美子「へっ?(キーホルダーを見やりながら)あ」

緑輝「かわいいなぁ、チューバ君。大好きなんです。触ってもいいですか?」

葉月「ねぇオパールちゃん」

緑輝「(肩を落としながら)サファイアです」

葉月「あぁ、ごめん!サファイアちゃん」

久美子「好きなんだ?」

緑輝「はい!カワイイなぁ」

葉月「何それ?」

久美子「チューバのゆるキャラだよ?」

葉月「あぁ……ちゅーばぁ?」

久美子「金管の楽器」

葉月「きんかんのがっき?」

緑輝「緑、吹部だったんですよ。コンバスやってました」

葉月「こんばす?」

久美子「緑?」

緑輝「緑というのは緑の名前です。(恥ずかしそうに)サファイアってなんか、あれですし……、緑って呼んでいただけると有難いなって思ってます……。(気を取り直して)そしてコンバスというのは楽器の名前です・こぉーんな大っきな、バイオリンのお化けみたいなやつです。知ってますか?」

葉月「それ見たことあるよ」

緑輝「ありますか!」

久美子「私も吹部だったよ」

緑輝「ホントですか?ぁ、えーと」

久美子「あぁ、お」

葉月「(久美子にかぶせるように)黄前久美子!久美子でいいよ。私は葉月ね。よろしく」

久美子「(えぇー……)」

緑輝「アイコピー。久美子ちゃんは……久美子ちゃんのパートは」

久美子「あぁ、低音。ユーフォをやってたよ」

緑輝「なるほど、ポイですね」

久美子「ぅ」

葉月「え……UFO?」

久美子「UFOじゃなくてユーフォ。ユーフォニアムっていう、あ、(キーホルダーを見せながら)これの小さいの」

葉月「へー、だいぶ小さいね」

久美子「ん?」

葉月「私ね、中学まではテニス部だったんだけど、高校からは吹奏楽やろうと思ってるんだ」

緑輝「えー嘘ぉ。緑、今から吹部の見学行くんです。もしよかったらみんなで一緒に行きませんか?」

 

〇音楽室(扉前)

 

音楽室の扉前で3人がガラス戸から中を覗き込んでいる。

 

葉月「うわぁ、すっごー。あれトランペットだよね。私、あれがいいんだぁ。カッコいいよねぇ」

久美子「見て見て葉月ちゃん、あれがユーフォ」

 

音楽室の中には、ユーフォニアムを持つあすかが座っている。

 

葉月「どれどれ、えっユーフォでかっ!もー、びっくりするじゃん。久美子がチューバ君よりちっちゃいって言うから」

久美子「あぁ。ごめーん」

葉月「サックスもいいなぁ……。ん?(と、何かに気付き)うわぁぁぁあ」

 

いつの間にかガラス戸越しにあすかの顔が迫っている。びっくりして尻もちをつく葉月。

 

緑輝「葉月ちゃん?」

葉月「痛い~」

久美子「大丈夫?」

 

扉が開き、あすかが話しかけてくる。

 

あすか「あれぇ、君たちもしかして見学しに来てくれたのかな?さぁ、入って入って。カモン、ジョイナス!」

葉月「(目を輝かせながら)ヤバっ、綺麗」

あすか「うふ」

 

〇音楽室(室内)

 

あすか「さささぁ、これがわが校の吹奏楽部です。君たちが見学者第1号。記念に飴をあげちゃおう」

葉月「ども、すみません……へっ?」

 

あすかの手から飴を受け取る葉月。と、飴ごとあすかの手首が取れてしまい、3人びっくりする!(手首から伸びた糸にWELCOMEの旗がはためいている。)

 

3人「うわあぁぁぁ!」

あすか「えへへへ、パぁ(と袖の中から本物の手を見せる)」

晴香「あすか」

あすか「はい?」

晴香「新入生が緊張するから、あまり話しかけないようにしようって決めたでしょ?」

あすか「えー」

晴香「さっそく怯えてるよ?」

 

部長の晴香、おびえる久美子たちに優しく声をかける

 

晴香「ごめんね。ゆっくり見ていってね」

あすか「よろしくー」

晴香「ほら、行くよ」

あすか「んあぁぁぁ」

 

壁に張られた集合写真(銅賞 府立北宇治高校 吹奏楽部 の文字)

 

緑輝「(写真を見て)銅賞……」

葉月「ぉおー。(何かを見つけて)お、ねぇ久美子、あの四角いの何?」

久美子「あぁ、チューナーだよ。あれで音を合わせるの」

葉月「へー」

あすか「(やり取りを聞いて)あれー、もしかして君、初心者?」

葉月「あっ、はい」

あすか「そっかそっか、じゃぁ吹奏楽の基本的な事から教えてあげる……」

晴香「(あすかにかぶせるように)あーすーか」

あすか「はいはい」

 

指揮台の晴香が合奏の指導を始める

 

晴香「じゃぁチューニングB♭(べー)で」

 

クラリネットの音に合わせてチューニングする部員たち。

と、何かに気付く久美子、目を輝かせる葉月、ハッとして久美子を見やる緑。

 

晴香「トロンボーン、ちゃんと狙って。ホルン、ずれてるよ。ちゃんと音、聞いて」

 

音が止まり、困り顔の晴香。

 

晴香「もっかいやろうか?チューナー使っていいから」

葉月「(何が起きたか分からず)何?」

久美子「ちょっと音が合ってなくて」

葉月「え?そうなの?」

久美子「うーん」

 

と、そこに扉を開けて高坂麗奈が入ってくる。久美子、気付いて驚く。

 

久美子「(高坂さん!?のえええええええ(口を押さえる))」

麗奈「すみません」

晴香「見学ですか?」

麗奈「いえ、入部したいんですけど」

久美子「(口を押さえたまま声を出せない)えぁ、嘘っ!?」

晴香「えっ、あぁホント?」

あすか「ようこそ!吹奏楽部へ。梨子、早く入部届」

梨子「うぇ、今ですかぁ」

あすか「当たり前でしょ。逃げちゃったらどうすんの?」

卓也「そんな、猫じゃあるまいし」

 

その様子を見ていた緑たち、帰ることにする。

 

緑輝「そろそろ行きましょうか?」

久美子「(無言のまま)こくこく(とうなずく)」

葉月「(けげんそうに)ん?」

 

〇廊下

 

挨拶をして立ち去る三人。音楽室内ではあすかが手品の花をみせている。

 

三人「失礼しました」

緑輝「さっきの子、綺麗でしたね。お知り合いですか?」

久美子「えっ、あー知り合いっていうか、中学のとき吹部で一緒だったんだけどぉ」

葉月「知り合いじゃん」

久美子「んー、すごくっていう訳じゃなくて」

葉月「えー、そんなもん?」

 

六地蔵駅

 

並んで立つ3人

葉月が飛んでくる花びらを息で吹き返そうと苦戦する。

 

葉月「うーっ、ぷーっっ」

久美子「はぁ、っふーーーーー」

 

楽々成功する久美子に、葉月感動。久美子をはさんで緑、少し浮かない表情。

 

葉月「うぉ、久美子すごっ」

緑輝「でも……この学校の吹部って、思った以上に、その……」

葉月「ぅん?」

久美子「うまくないよね」

葉月「えぇっ、そうなの?」

緑輝「うーん、そうですねぇ……、たぶん府大会では目指せ銀賞なんじゃないかな?」

葉月「銀賞だったらすごいんじゃないの?」

緑輝「関西とか、まぁ全国とかに行きたかったら、各大会で金賞を取らなくてはいけないんです。しかも金賞と言ってもダメ金ではいけません」

葉月「だめ……え、だめきんって何?」

久美子「吹奏楽のコンクールは金・銀・銅の3つの賞があって、金賞の中から代表が選ばれるんだけど、選ばれなかった金をダメ金っていうの。サファイアちゃんが言うみたいに、次の大会に進みたかったらダメ金じゃ駄目で」

葉月「うぅ……」

久美子「あ、難しかった?」

葉月「うん」

久美子「ごめん」

葉月「でもさ、3人が入部すれば救世主になれるんじゃない?」

久美子「そんな簡単じゃないよ」

葉月「そう?」

緑輝「緑はやりますよ。音楽が好きですから」

葉月「ほぇー」

緑輝「音楽はいつだって世界中の人々の心に訴えることができる、強力な言語の一つだって信じてるので」

葉月「へぇー」

久美子「信号、なかなか変わらないね」

緑輝「あぁっ!緑、ボタンを押し忘れていました」

葉月「うははぁ、たのむよサファイアちゃん」

久美子「はは……」

緑輝「緑ですぅ」

 

六地蔵駅改札内

 

改札を抜けて立ち話をする3人。

 

葉月「久美子は?」

久美子「ん?」  

葉月「どうする?吹部」

 

期待に満ちた目で久美子を見る葉月と緑。

 

久美子「私?私は……。ちょっと考える?」

葉月「えー」

緑輝「(電車の音に気付き)あ、電車が来ました。私こっちなので」

葉月「じゃあね」

久美子「また明日ね」

 

〇電車内

 

並んで座る久美子と葉月

 

葉月「あ、分かった」

久美子「ん?」

葉月「下手って言ってたの、吹部のことだ」

久美子「……」

 

CM(クラリネットパートの部員たち)

 

宇治川沿いベンチ

 

久美子がベンチに座っている。

 

久美子「はぁ、なんでだろぉ?……高坂さんがいたぁ」

 

 (インサート)音楽室に入ってくる麗奈に驚く久美子の回想。

 

久美子「上手いから洛秋とか立華に行ってると思ってた。抜かった……」

 

カフェオレを飲みながら目を閉じた久美子の顔に影が被る。幼馴染の秀一だ。

 

秀一「何が?」

久美子「(秀一に気付き)はっ!うわぁぁぁ」

秀一「ヨッ」

久美子「秀一かぁ……」

秀一「あれ?(ベンチを跨いで久美子の隣に座る)おい、幼馴染に挨拶なしですか?同じ学校だというのに」

久美子「(目もくれず)ふーん」

秀一「髪、しばってんの?」

久美子「だねー」

秀一「そういや、高坂麗奈いたな。全然知らなかった。……ていうか、反応……にぶくないか?」

久美子「話しかけてくんなっていうから、従ってるんですよ」

秀一「はぃ?」

久美子「喋ってくんなブースって言ったじゃん、中3のとき」

秀一「あー、あれはお前がみんなの前で「今日うちでご飯食べんの?」とか聞いてくるから……」

久美子「(急に何かを思い出して立ち上がり)違った!今それどころじゃなかったんだ」

秀一「おい」

久美子「ごめん、帰るわ」

秀一「あぁ。あっお前さ、部活どうすんの?」

久美子「まだ決めてないよ」

秀一「吹部じゃねーの?」

久美子「あんたは?」

秀一「俺?俺は、まぁ他にやりたいこともないし、吹部かな」

久美子「そっか」

 

(インサート)泣いている麗奈(中学時代、京都コンサートホール)。

 

久美子「私は……入らない」

秀一「えっ?」

久美子「入ろうと思ってたけど、やめることにした」

秀一「何で?」

久美子「何でも。じゃーね」

秀一「(走り去る久美子を見送り)なんだよ?」

 

〇久美子の家

 

マンションの外観。

 

久美子「(OFF)ただいま」

 

〇室内

 

久美子がお茶を吞んでいると、明子が声をかける。

 

明子「あら、お帰り。高校、どうだった?」

久美子「うーん、まぁまぁ」

明子「お姉ちゃん、帰ってきてるわよ」

久美子「そう」

明子「ご飯のしたく、手伝ってぇ」

久美子「はーい」

 

〇久美子の部屋

 

ドアを開けて、久美子ベッドに倒れこむ

 

久美子「はぁう。あぁ……吹部なぁ……」

 

 (インサート)泣いている麗奈(中学時代、京都コンサートホール)。

 

久美子「(OFF)本気で全国いけると思ってたの?」

 

久美子ベッドから起きてサボテンに話しかける。

 

久美子「悪気があったわけじゃないんです。ただ思ったことがウッカリ口に出てしまったというか。金取れたし、いいじゃん。みたいなところもあって。ダメ金でも立派な金……」

麻美子「(OFF)くすっ、なにやってんの?」

久美子「(ハッとする)」

 

ドアを開けて姉の麻美子が入って来る。

 

麻美子「ひゃー、ポニーテールなんてしちゃって、初日から気合入れすぎ」

久美子「うるさいなぁ、てか勝手に開けないでよ」

麻美子「はいはい、すまんすまん」

 

ドアを閉めるかと思いきや、再び開ける麻美子。

 

麻美子「そういえばさぁ」

久美子「だから勝手に開けないで」

麻美子「あんた、吹奏楽やめるの?」

久美子「なんで?」

麻美子「なんで?北宇治だから」

久美子「……(目を逸らす)」

 

姉が去って久美子独り言つ。

 

久美子「やめる……かぁ」

 

振りかえる久美子の視線の先に、参考書に混じって並ぶユーフォニアムの教本。

 

宇治神社

 

拝殿で手を合わせる滝の後ろで、カップルが楽しそうに会話をしている。

 

女「見せて見せて」

男「末吉と吉って、どっちがいいの?」

女「末吉なんじゃない?」

滝「あー……。上から大吉・中吉・小吉・吉・半吉・末吉・末小吉ですね。つまり、吉のほうが上です」

男「ど、どうも」

女「そうなんですね」

滝「私も、久しぶりにおみくじを引いてみたくなりました」

男「はぁ」

滝「あぁ、おっと」

 

滝、財布を取り出そうとして、スマホも落としてしまう。その拍子にイヤホンが外れ音楽が流れ出す(大吉山北中学校の府大会の演奏『地獄のオルフェ』)。

 

滝「あ、あぁ、しまった。失礼。すみません」

男「運動会だ」

女「天国と地獄、だっけ?」

滝「正しくは「地獄のオルフェ」です。とてもいい曲ですよ。では」

男女「あぁ」

 

〇神社の外

 

改めて『地獄のオルフェ』を再生する滝

 

〇久美子の部屋

 

久美子、机に座って楽譜を眺めている。楽譜には要所要所に書き込みがされている。

 

 (インサート)中学時代、演奏する久美子たち。終盤に向けて曲が盛り上がる。

 

何かを思い出して天井を見上げる久美子。

 

 (インサート)夕焼けの空。

 

 (インサート)中学時代、最終盤の演奏~立ち上がる久美子たちに降り注ぐ歓声・拍手

 

〇滝の車・車内

 

演奏を聞き終わった滝の横顔は微笑んでいる。

 

宇治市

 

奥へと走ってゆく滝のシトロエン

 

〇久美子の部屋

 

ベッドにあおむけに横たわる久美子。その手には楽譜ファイルが握られている。

 

久美子「はぁ……(息をつく)はぁ」

 

〇久美子の家

 

外観

 

〇室内

 

鏡の前で、はねる髪型を気にする久美子~キッチンで牛乳を飲む久美子

 

明子「(OFF)ご飯は?」

久美子「いい(と答えてコップを置く)」

 

〇通学風景

 

宇治駅改札~電車内の久美子

 

〇1-3教室内

 

授業を受ける久美子

 

〇1-3教室内(休憩時間)

 

何かを考えこんでいる久美子の横で、葉月がマウスピースを片手に苦戦している。

 

葉月「ふんっ、ふー……出ないよぉ」

緑輝「(葉月に合わせて)ふー、ふー」

久美子「(びっくりして)えっ!?どうしたの、それ?」

葉月「ん?買ったの」

久美子「買った!?買っちゃたの」

葉月「うん、これだけね。」

久美子「気が早すぎるよ、楽器もまだ決まってないのに」

葉月「(目をパチクリ)え?」

緑輝「どうやって鳴らすんです?緑はコンバスだったので……。教えてください」

久美子「ん、えっと唇を(人差し指と中指を唇に当てながら)……」

 

〇回想・小学生時代

 

中学生の麻美子がトロンボーンを片手に、久美子にマウスピースの鳴らし方を教えている。

 

麻美子「唇をこうやって震わせるんだよ。(人差し指と中指を唇に当てながら)ブーって。やってみな」

久美子「ぶー」

麻美子「で、それをマウスピースでやってみ?」

久美子「(息を吸いこんで)ブーブー」

麻美子「(嬉しそうに)うん、いいじゃん」

 

1-3教室内(休憩時間)

 

昔を思い出して微笑む久美子の前で、葉月のマウスピースから「ブー」と音が鳴る。

 

葉月「出た!出たよね!?今」

久美子「うん」

葉月「出た!音出たー」

久美子「(嬉しそうに)うん」

緑輝「どうやったんです?」

葉月「わかんない」

緑輝「えぇ~。……あ、そうそう久美子ちゃん」

久美子「ぁ……」

緑輝「吹部、一緒に入りませんか?」

葉月「(勢い良く立ち上がる)」

 

久美子に笑いかける葉月と緑、反応がない久美子に少し不安げに顔を見合わせる。

久美子、ゆっくり笑って2人に答える。

 

久美子「うん」

葉月「ほんと!?」

久美子「うん」

緑輝「やったぁ」

 

緑、喜びのあまり久美子に抱きつく。窓の外には桜の花びらが散っている。

 

久美子「(ナレ)こうしてわたしは北宇治高校吹奏楽部に入部した」

 

〇北宇治高校・廊下の手洗い場

 

手を洗う麗奈に恐る恐る近づく久美子。扉の影から葉月と緑が見守る

 

久美子「(ナレ)そして、次の曲が始まるのです」

 

緊張して唾を飲み込む久美子

 

久美子「(ゴクリ)」

 

つづく

 

ED

響け!ユーフォニアム 第二回 「よろしくユーフォニアム」 シナリオ抜き書き

響け!ユーフォニアム 第二回 「よろしくユーフォニアム

脚本 花田十輝 絵コンテ・演出 石原立也

 

(プロローグ)

 

麗奈「悔しい……」

久美子「えっ?」

麗奈「悔しくって死にそう」

あすか「輝かしいみなさんの入学を祝して」

久美子「駄目だこりゃ」

緑輝「吹部、一緒に入りませんか?」

 

OP

 

〇北宇治高校・廊下の手洗い場

 

手を洗う麗奈に恐る恐る近づく久美子。扉の影から葉月と緑が見守る。

 

~久美子の妄想~

 

久美子「やぁ、麗奈ちゃん!中学のときは色々あったけど、高校ではよろしくねぇ」

麗奈「そうね、仲良くやりましょう」

 

握手&ハグする2人

 

久美子「ハグっ」

麗奈「ハグぅ」

 

(妄想おわり)

 

緊張のあまり、鼻息を荒くする久美子。

 

緑輝「不自然です。完全に変質者です」

葉月「(こちらを振りかえる久美子に)なにやってんの?行け行けっ!」

緑輝「久美子ちゃん、ファイトですぅ!」

久美子「(覚悟を決めて)あの、高坂さん……あぁ」

 

気付かず歩み去る麗奈。ホッとする久美子に、葉月ら駆け寄る。

 

久美子「ホッ……」

葉月「なにホッとしてんのさ」

緑輝「今日こそ高坂さんと話すって言ってたじゃないですか」

久美子「うーん、分かってるよぉ。今日の部活の時、話しかけてみるよ」

葉月「昨日もそう、言ってたでしょ!」

 

そう言うと葉月、久美子の背中をグイグイと押す。

 

久美子「え、ちょっと、葉月ちゃん!?」

葉月「行け!久美子!とぅ」

久美子「(ズザーとこけながら)うわぁー」

麗奈「どうしたの?大丈夫?」

久美子「(立ち上がって)アハハハ、ダイジョウブダヨー」

麗奈「ホントに?」

久美子「全然、大丈夫ー」

麗奈「そう」

 

いぶかしげな麗奈の背後で手を合わせて謝る葉月。立ち去る麗奈を見送る久美子たち。

 

久美子「(ナレ)入学式から2週間、わたしはまだ高坂さんと話せずにいた」

 

タイトル 「第二回 よろしくユーフォニアム

 

〇1-3教室内

 

窓際の久美子たち。先程の反省会を開いている。

 

久美子「(落ち込んで)あー、絶対変だって思われてる」

葉月「(あきれて)ちゃんと話さないからでしょ?」

久美子「葉月ちゃんのせいじゃんか」

葉月「わたしと緑が間に入ろうか?久美子が昔のこと謝りたいって、高坂さんに話せば」

久美子「わたしが謝るのかぁ……」

緑輝「違うんですか?」

久美子「うーん、確かに言わなくてもいい一言だったのかもしれないけど、あの時ホンキで全国に行けるって思ってた子は少なかったと思うんだよね。泣いて悔しがる方が珍しいっていうか……」

葉月「じゃあ、むしろ気にすることじゃないじゃん」

久美子「あ、うん。そっか(笑顔になって)そうだよね」

緑輝「なんとかなりそうですね」

久美子「(ふたたび落ち込み)でもなぁぁぁ」

葉月「めんどくさ!」

 

〇廊下

 

話しながら並んで歩いてくる葉月・緑・久美子

 

久美子「そういえば、楽器決めるのって今日だっけ?緑ちゃんはコンバス続けるの?」

緑「もちろんです!」

久美子「そんなに好きなんだ、コンバス

緑輝そうですね。……強いて言うなら、命、かけてます!」

葉月「言い切った!」

 

〇階段

 

踊り場まで上ってくる三人

 

緑輝「久美子ちゃんは、やっぱりユーフォですか?」

久美子「え、なんで?」

緑輝「なんで?って」

久美子「あ、そうか。わたしだって別の楽器、希望してもいいんだよね」

葉月「そりゃ、そうじゃない?」

緑輝「変えるんですか?」

久美子「うん、それもいいかなぁ。わたし、もともとはトロンボーンやってみたかったし」

 

〇回想(小学校時代の金管バンドクラブ)

 

教室内の久美子たち。久美子だけ手に楽器を持っていない。

 

教師「ユーフォニアムがいません。希望する人、いませんか?」

久美子「……ぇ?」

 

〇階段

 

踊り場で立ち話を続ける久美子たち。

 

久美子「……それで、ユーフォニアムになって。それ以来、ユーフォって希望者が少ないから、なんとなく中学もそのまま続けてきちゃったんだよねぇ」

緑輝「じゃぁ、トロンボーンですか?」

久美子「それか、サックスもいいかも」

葉月「トランペットは駄目だよ!わたしがやるから。マウスピースも買ったし」

久美子「あっ、それ……」

葉月「さっ、行くよ!(と階段を駆け上がる)だっはっはぁ」

久美子「緑ちゃん、教えてなかったの?」

緑輝「久美子ちゃんだって」

 

〇音楽室

 

部員たちの前で、副顧問の美知恵先生が話している。

 

美知恵「新しく顧問になる滝先生が明日からいらっしゃるので、詳しいことはその時に聞くように。では高校生らしい態度と、高校生らしい服装で(前方の岡本をにらみながら)、今後も部活に励むように。以上だ」

 

スカート丈を戻す岡本。美知恵が音楽室から出て行き、室内の空気が緩む。

 

葉月「美知恵先生が副顧問だったとは……」

緑輝「びっくりしましたね」

久美子「滝先生って、どんな人なんだろうね」

 

部長の晴香が手をたたきながら中央に歩み出る

 

晴香「はーい、じゃぁ、楽器の振り分けに移ります。わたしは部長の小笠原晴香です。担当はバリサクなんで、サックスパートの人は、関わることも多いと思います。じゃぁ……」

あすか「はいっ、はーい。低音やりたいひとっ?」

晴香「まだ早い。(咳ばらいをして)じゃぁ、初心者もいると思うのでまずは楽器の説明をしていきます。そのあと各自、希望の楽器の所へ集まってください。ただし、希望が多い楽器は選抜テストになります」

葉月・緑輝「(気合いが入る)」

晴香「じゃぁ、まずトランペット」

 

紹介を受けて、トランペットパートリーダーの香織が歩みでる。

 

香織「トランペットパートリーダー中世古香織です」

部員たち「(拍手)」

優子「きゃぁぁぁ!香織先輩、今日も超美人っ!」

加部「(からかうように)ライバル増えるよー。絶対、1年にも人気でるもん」

香織「トランペットは金管の中でも花形です。ソロやメロディーが多いし、きっと楽しいと思います。いまこのパートは5人いて仲も良いので、是非みなさん希望してくださいね」

部員たち「(拍手)」

晴香「では次……」

野口「トロンボーンはぁ……」

鳥塚「木管楽器のなかでも……」

姫神「その音色の美しさは……」

田邊「結構ストレス発散にもなったりしてぇ……」

晴香「よくテレビで見る人も多いと思います……(時間経過)では次」

あすか「はいっ、はい!低音パートリーダー兼副部長の田中あすかです。楽器はユーフォです」

中野「UFO?」

高野「楽器の名前かなぁ?」

葉月「(自慢げに)ぅんっ!ユニフォームのことだよ」

久美子「ユーフォニアム

葉月「あっ、ぅう」

久美子「ていうか、わたしがユーフォニアムやっていたことは秘密ね」

葉月「え?なんでなんで?」

久美子「その方が他の楽器に移りやすいでしょ?」

 

前方ではあすかの楽器紹介が続いている。

 

あすか「ユーフォニアムっていうのは、ピストンバルブが装備された変ロ調チューバのことを指します。この楽器の起源ははっきりしませんが、ゾンメロフォンという楽器を基に改良が加えられ一般に使われるようになった説や、サクソルン属の中のピストン式バスの管を拡げてイギリスで……」

晴香「(たまりかねて)ストーップ!その話、どれくらい続くの?」

あすか「ふふん(と、ビッチリ印刷されたA4の紙の束を晴香に見せる)」

晴香「(あきれて)はい、次」

あすか「えー、まだおさわりだよお。3行目だよ!?」

晴香「次、チューバ……」

卓也「チューバ担当の後藤です。チューバは低音で、メロディーがあんまりなくて、あと重いです(ぺこりと頭をさげる)」

晴香「えぇ?終わり!?」

卓也「はい」

あすか「ちょっと後藤、それじゃぁチューバの魅力が全然伝わってないよ!代わりにこの田中あすかが……」

晴香「はいはい、あすかは黙っとく」

葉月「(それを見て)チューバは無しだな」

久美子「うん」

晴香「……それから、低音パートにはコントラバスという楽器があるんですが、残念ながら今は演奏者がいない状況です。この中に誰か……」

 

晴香とあすか、挙げられた手に気付く。緑がまっすぐ手を伸ばしている。

 

あすか「おぉ、もしかしてコンバス経験者?」

緑輝「はい。聖女でやってました」

部員たち「(ざわめき)」

晴香「聖女って、あの聖女?」

あすか「やった!」

葉月「(一連のやり取りを聞いて、久美子に)聖女ってすごいの?」

久美子「うん。お嬢様学校で、吹奏楽の強豪だよ」

あすか「(緑の手をとり)やってくれる?」

緑輝「その言葉を待ってました」

あすか「気に入った!(晴香に)ということで、この子はわたしがもらったから」

晴香「本当は希望を取ってからだけど、まぁいいわよね」

あすか「やったぁ。(緑を麗しく見つめ)カモナ・ベイビー、コンバスちゃん。今日から君は僕のものだよ」

緑輝「よろしくお願いします」

晴香「(手を叩いて)じゃぁみんな、それぞれ希望の楽器のところに並んでください」

葉月「じゃぁわたし、トランペット行ってくるね」

 

各パートで楽器紹介が始まっている。

 

サックスパート

 

晴香「指の運びはリコーダーに……」

 

フルートパート

 

高橋「どう持つんですか?」

渡辺「それはね……」

雑賀「ドからレに移る時って……」

 

低音パート

 

久美子「じゃぁ、わたしトロンボーンに行ってくるね」

緑輝「はい」

あすか「(久美子の背後に近づき)うちのパート、サファイアちゃん以外、まだ一人も希望者来てないんだけど……」

久美子「うっ(びっくりしつつ)、あぁ、どうも」

あすか「うちのパート、サファイアちゃん以外、まだ一人も希望者来てないんだけど……」

久美子「(楽器をチラリとみて心の中で)(低音パート……)」

あすか「うちのパート、サファイアちゃん以外……」

久美子「(引きつつ)あ、あの、なんで3回も言うんですか?」

あすか「(あきれたように)君、にぶいのかにゃぁ?わたしは勧誘しているのだよ、君のこと」

久美子「わたしですか?」

あすか「そう、君。絶対ユーフォニアムが似合う!そんな顔してる!」

久美子「どんな顔ですか!?」

あすか「一言で言うと地味!もちろん良い意味で」

久美子「(目をうるませて)意味わかりません!」

あすか「やってみない?ユーフォ。ねぇ、サファイアちゃん」

緑輝「緑は低音に知っている人がいると、嬉しいですけど」

あすか「ほら、ね?」

久美子「いや、わたしトロンボーン希望だし。ユーフォとかやったこと……」

緑輝「えっ?」

久美子「っ、っ!(と緑に目くばせ)」

緑輝「あぁ。(察して)そうですね。やっぱり希望する楽器になるのが一番かと思います」

あすか「えぇー、しょうがないなぁ」

久美子「そ、それじゃぁ」

 

立ち去ろうとした久美子の後ろで、トランペットの音が響き渡る。

ハッとする久美子。その力強い音色に上級生たちも驚きの表情を浮かべる。

久美子が振りかえると、トランペットパートで麗奈が試奏をしている。

 

クラリネットパート

 

越川「(気を取り直して)で、そのリードっていうのは消耗品だから、個人で買ってもらわないとかな……」

田中「(同じく、我に返って)でね、その細い金属の部分は強く握らないようにして……」

 

トランペットパート

 

麗奈「これでいいですか?」

香織「(ハっとして)うん(と微笑む)」

晴香「高坂さん上手ねぇ、中学は?」

麗奈「北中です。あと、部活のほかに教室にも通っているので」

晴香「それでかぁ。ちょっとびっくり」

麗奈「褒めてくださってありがとうございます。嬉しいです」

 

低音パート

 

あすか「(久美子に)ちょっと」

久美子「ぁはい」

あすか「あのチューバのマウスピースを持ってる子は何?(と葉月を指さす)」

 

トランペットパート

 

葉月、手持ちのマウスピースがトランペットに挿さらず困惑している。

 

葉月「なんか小さい?」

吉沢「持っててあげる」

葉月「あ、お願い……」

 

低音パート

 

久美子「あぁ。あれ、トランペットのと間違って買っちゃったんです」

あすか「なんと」

緑輝「中学の時はテニス、やっていたそうです」

あすか「ほーん」

 

トランペットパート

 

音が出ず顔を真っ赤にして苦戦する葉月に、香織がやさしく声をかける

 

香織「頑張って!唇をふるわせるの」

葉月「プハッ!そんなこと……、言ったって……」

 

低音パート

 

あすか「よしよし、肺活量はバッチしだな。川島サファイア!」

緑輝「緑です……」

あすか「あの子連れてきて。トランペットはもういいでしょ」

緑輝「はい!」

久美子「どうするつもりですか?」

あすか「あの子がチューバやってくれたら、君もユーフォやりたくなるかなぁって」

久美子「んん~……」

緑輝「連れてきました!」

葉月「何なに?わたしもう少しで音、出そうだったんだけど」

あすか「待った!君はまだ知らないかもしれないけど、人と楽器は男と女のように赤い糸で結ばれているのだよ」

葉月「そうなんですか!?」

久美子「そんなこと、初めて聞きまし……」

あすか「シャラーップ!君の運命の相手は、君自身が買ったそのマウスピースが決めてくれる。それって素敵じゃない?」

葉月「これが……。(パぁっと顔が輝き)本当ですか?」

あすか「もちろん!さぁ、ここにある楽器たちにそれを挿してみて」

葉月「色々な楽器にマウスピースを挿そうとして)うーん、少しきつい。うーん、これもダメ。……おっ!?(チューバにマウスピースが挿さり)おぉぉ」

 

 (インサート)ガラスの靴をはくシンデレラ葉月。

 

葉月「こ、これはっ!?」

あすか「そう、それが君の運命の相手だよ!その名はチューバ君!!」

葉月「チューバ君!」

緑輝「チューバ君!」

久美子「(うひゃー、駄目だここにいると強引に巻き込まれる。)じゃぁわたし、あっち見てきまーす」

あすか「あぁ、ちょっとー」

 

トロンボーンパート

 

トロンボーンパート希望の新入生の列に並ぶ久美子。

 

久美子「(トロンボーンだ)」

秀一「なんだ、やっぱり吹部にしたんだな。」

久美子「(横に立つ秀一を見て)げっ、秀一。なんでここにいるの?あんたホルンじゃないの?」

秀一「高校になったし、変えようかなーと思って」

久美子「わたしは別に……」

葵「久美子ちゃんと、秀一くん?」

久美子「はい?」

葵「久しぶりー」

 

 (インサート)回想・小学校時代、久美子とブランコで遊ぶおさげの女の子

 

久美子「葵ちゃん……」

葵「やっぱりだー。何だ、2人ともこの高校だったんだ」

秀一「ごぶさたです」

あすか「何なに?葵、知ってるの?」

葵「黄前久美子ちゃんと、塚本秀一くん。近所に住んでて、小学校の頃よく遊んでいたの」

あすか「ふーん」

葵「ああ、低音に欲しいよね。小学校の頃からユーフォだもんね、久美子ちゃん」

久美子「ふぁっ……」

あすか「えっ!?はっはーん。(あすか、久美子の肩にがっちり手をまわし)お姉さんとちょーっとあっちで話そうか?」

久美子「……はぃ」

 

何が起きたかよくわかっていない葵に、久美子が恨み言。

 

久美子「(OFF)もぅ、葵ちゃんのせいだよぉ」

 

宇治橋

 

橋を渡り帰路につく久美子と葵

 

久美子「結局、ユーフォによろしくだよぉ」

葵「ふふ、知らないよ。そんなの」

久美子「葵ちゃん、北高だったんだね。全然知らなかった」

葵「本当は堀山高校に行きたかったんだけど、滑っちゃってね……」

久美子「そう……なんだ。って、先輩なのにわたしタメ口でいいのかなぁ?」

葵「わたしはいいけど、学校では敬語の方がいいかな」

久美子「うん、分かった。……葵ちゃん、高校でもテナーサックスなんだね」

葵「うん。でも特にこだわりがあるわけじゃないよ(と、下を向く)」

久美子「下を向く葵をいぶかしんで)ぁ……」

葵「わたし、塾があるからここで。じゃあね」

久美子「うん……、また明日」

 

横断歩道を走って渡る葵。その背中を見送る久美子。

 

CM(ダブルリードパートの部員たち)

 

〇音楽室~廊下

 

合奏練習のため、机の運び出しを行う久美子たち

 

久美子「部活前の机の運び出しは1年生の役割なの。終わったらまた元に戻す。吹奏楽部の基本だよ。ね、緑ちゃん」

緑輝「聖女は専用のホールがあったので、やったことないですぅ」

葉月「さっすがお嬢様学校だねぇ」

久美子「わたしは毎日だった……っあ(麗奈とぶつかりそうになる)。あぁ」

葵「(机を重そうに持ったまま)ちょっと、どいてくれない?」

久美子「あっ。ご、ごめん!」

葉月「(それを見て)もう、ねぇ高坂さん」

久美子「葉ー月ちゃん!(葉月の口を押さえて)しーっしーっ!」

葉月「何なに?」

 

と、準備室の扉が開いて滝先生が出てくる。

 

滝「おや、準備できましたか?(うずくまる久美子たちを見て)大丈夫ですか?」

久美子「あ……、すいません」

葉月「大丈夫です」

滝「初めまして、顧問の滝です。よろしく(と優しげに笑う)」

久美子&葉月「よろしくお願いします!」

 

〇音楽室内

 

部員たちの前に滝。挨拶をしている。

 

葉月「(ひそひそと)結構イケメンだよね」

久美子「(ひそひそと)そう?」

滝「新入部員が22名ですか。これで欠けていた楽器も埋まりますね」

晴香「はい。コントラバスは聖女でやっていた子が入部してくれました」

滝「それは良かった。(生徒を見渡して)では、部活を始めるにあたって、最初にわたしから話があります。(黒板に向かって何か書き始める)わたしは生徒の自主性を重んじるというのをモットーにしています。ですので今年1年指導して行くにあたって、(黒板とチョークがこすれる)おっと失礼。まず皆さんで今年の目標を決めて欲しいのです」

 

黒板には「全国大会出場」の文字

 

滝「これが、昨年度の皆さんの目標でしたよね?」

 

麗奈の方を見やる久美子。手前では上級生が軽口を叩いている

 

岡「頑張ってはいるんだけどねー」

 

反応の鈍い生徒を見回す滝に、晴香が遠慮がちに声をかける。

 

晴香「あの先生、それは目標というかスローガンみたいなもので」

滝「なるほど。では、これはなかったことにしましょう(と、×印を書く)」

 

それを見て、久美子の表情が陰る。

 

滝「では、決めてください。わたしはそれに従います」

晴香「決めるっていうのは?」

滝「そのままの意味ですよ。皆さんが全国を目指したいと決めたら、練習も厳しくなります。反対に楽しい思い出を作るだけで十分というなら、ハードな練習は必要ありません。わたし自身はどちらでも良いと考えていますので、自分たちの意思で決めてください」

晴香「わたしたちで決めるんですか?」

滝「そう言ったつもりですが?」

晴香「あ、ぅ……(と、あすかを見やる)」

あすか「わかった。わたし書記をやるから、多数決で決めよ」

晴香「多数決?」

あすか「こんだけ人数いて、他に決めようないじゃない?いいですよね、先生」

滝「どうぞ。みなさんの納得のいく様にしていただければ」

あすか「ほら」

晴香「(部員たちを見て)それでは多数決で決めたいと思います」

久美子「(……まずい、どうしよう)」

晴香「えーっと、まず全国大会出場を今年の目標にしたいという人」

 

続々と周りが手を挙げる中、決断できずあせる久美子、周囲を伺う。

 

 (インサート)中学時代の泣き顔麗奈・回想

 

久美子「(どう……しよう)」

 

横を見ると麗奈は真っすぐ手を挙げている。

数えるあすかと、見渡す晴香の2人。

 

晴香「では次に、全国まで目指さなくてもいいと思う人」

 

うつむいていた久美子、周囲のざわめきに顔を上げる。と、葵が手を挙げている。

 

久美子「(葵ちゃん……)」

晴香「(ハッとするも持ち直して)はい。多数決の結果、全国大会を目標に活動して行くことになります」

滝「ご苦労様。(中央に歩み出て)反対の人もいましたが、いま決めた目標は皆さん自身が決めたものです。私はその目標に向かって力を尽くしますが、努力するのは皆さん自身。そのことを忘れないでください。分かりましたか?」

生徒達「(1人だけ)はい」

滝「なにをぼぉっとしているのです?返事は?」

生徒たち「(まばらに)はいっ」

 

滝がおもむろに手を叩き、はっとする生徒たち。

 

滝「(少し大きな声で)もう一度言います。皆さん、わかりましたか?」

生徒「はいっ!」

 

〇通学路

 

お茶畑のわきを久美子・葉月・緑の3人が歩いてくる。

 

緑輝「久美子ちゃん、さっきどっちにも手を挙げませんでしたね?」

久美子「うーん」

葉月「そうだったの?」

緑輝「どうしてです?」

久美子「だって、嫌じゃない?ああいうのって」

緑輝「ああいうのって?」

久美子「全国大会か?楽しければいいか?なんて選択肢」

緑輝「それで手を挙げなかったんですか?」

 

〇電車、車内

 

窓際に1人立つ久美子。

 

緑輝「(OFF)わたし、久美子ちゃんが手を挙げなかったの、高坂さんのことがあったからだと思いました」

 

(インサート)先ほどの通学路での会話

 

緑輝「どっちに手を挙げても、高坂さんにどう思われるのか、気にしているのかなぁ?って」

 

宇治川沿いのベンチ

 

ベンチに座っている久美子、頭を抱える。

 

久美子「あぁー、わたしの馬鹿!なに質問のせいにしてんのよぉ。緑ちゃんの言う通りだよぉ。高坂さんが怖かっただけじゃん」

 

 (インサート)中学時代の泣き顔麗奈(モノクロ)

 

久美子「引きずってるなぁ……」

葵「久美子ちゃん?」

 

声がして振りかえると、葵が立っている。

 

葵「そっか、そんなことがあったんだね」

久美子「わたし、きっとどこかで自分は悪くないって思ってるんだよ。だから謝るのも嫌で、だったら気にしなきゃいいのにそれも嫌で……」

葵「高坂さんに、わたし悪くないって言いたいんだ」

久美子「えっ?」

葵「違う?」

久美子「うーん……、そうかも」

 

カラスノエンドウで草笛を吹く久美子。「プー」と音が鳴る。

 

葵「鳴るねぇ」

久美子「一応。吹奏楽部なので。って、吹奏楽関係ないけどね」

 

葵もベンチから立ち上がり、久美子の傍らで草笛を吹き始める。

 

葵「気持ちはわかるよ。うちの部だって去年も一昨年も、目標は全国大会って書いてあったけど、本気で目指してるひとなんていなかったんじゃないかな」

久美子「だよねぇ……。でも今日みたいに聞かれたら、全国大会目指すっていう方に手を挙げるでしょ?」

葵「そりゃあ、ねぇ」

久美子「だからややこしくなるんだよ。大人はずるいよ」

葵「それ言ったら、どっちにも手を挙げなかった誰かさんが一番ずるいんじゃない?」

久美子「それは……、そうだけど」

葵「きっと、そうするしかないんだよ。みんな、なんとなく本音を見せないようにしながら、一番問題の無い方向を探ってまとまって行く。学校も吹部も、先生も生徒も」

久美子「どうして?」

葵「そうしないと、ぶつかっちゃうからだよ。ぶつかって、みんな傷ついちゃう」

久美子「葵ちゃん」

葵「ん?」

久美子「じゃぁ、なんで葵ちゃんは手を挙げたの?全国行くか聞かれた時に」

葵「そうねぇ……、アリバイ作りかな?」

久美子「アリバイ?」

葵「わたし、そろそろ行くね」

 

草笛を捨てて、カバンを手に取った葵、久美子の方を振り向く。

 

葵「久美子ちゃんも気を付けた方がいいよ」

久美子「?」

葵「3年なんて、あっという間だから」

 

葵を見送る久美子

 

久美子「(ナレ)わたしはその言葉が何を意味しているのか、葵ちゃんがその時どんな思いでいたのか、全く知らなくて。きっと、わたしの背中を押そうとしてくれているんだと思って」

 

〇北宇治高校・廊下の手洗い場

 

手洗い場でマウスピースを洗う麗奈。その背後で久美子たちが様子を伺う。

 

緑輝「久美子ちゃん、やるしかないんですよ」

久美子「ん」

葉月「おぉ」

 

麗奈に近づく久美子、振り向く麗奈に緊張しつつ……。

 

久美子「あっ、えへへへヘ……」

麗奈「(いぶかしげに)ん?……高校もユーフォだね」

久美子「そう……だよ」

麗奈「そっか」

 

それだけ言って立ち去る麗奈。見送る久美子。

 

久美子「(ナレ)交わした言葉はそれだけで、でも何故かわたしはホッとした」

 

〇音楽室

 

吹奏楽部員たちが座っている。扉が開き、部員たちが振りかえると滝が入ってくる。

 

久美子「(ナレ)そして……」

滝「練習を始めましょうか(と微笑む)」

 

久美子「(ナレ)次の曲が始まるのです」

 

つづく

ED




響け!ユーフォニアム 第三回 「はじめてアンサンブル」 シナリオ抜き書き

響け!ユーフォニアム 第三回 「はじめてアンサンブル」

脚本 花田十輝 絵コンテ・演出 山村卓也

 

(プロローグ)

 

久美子「結局ユーフォによろしくだよぉ」

晴香「はい、多数決の結果、全国大会を目標に活動していくことになります」

葵「久美子ちゃんも気をつけた方がいいよ。3年なんてあっという間だから」

 

OP

 

〇北宇治高校 正門〜校内 状景

 

〇音楽室前廊下

 

机を運ぶ1年生たち。

 

久美子「(運んでいた机を置いて)ぅん……、ふう」

葉月「つかれたぁ」

久美子「あはは」

 

〇音楽室内

 

机を運ぶ1年生たち。麗奈が久美子に声をかける。

 

久美子「よっ」

麗奈「そっちの机、よろしくね」

久美子「えっ。あっ……、うん……。(机を運ぶ麗奈を見送り)あ……(嬉しそうにはにかむ)」

1年生たち「(音楽室に入ってくる香織たちに)こんにちは」

香織「こんにちはー」

優子「あっ、おい!そこ、イス置くところ違うよ!」

葉月「っす、すみません」

 

(時間経過)机が運び出されてイスだけになった音楽室。部員達が座っている前で、晴香が指示を出す。

 

久美子「(ナレ)部活の始まりはミーティングから。ここでその日の練習内容が伝えられる」

 

晴香「(手をたたきながら)はーい、みんな聞いてください。1年生の希望者は腹式呼吸の練習をしますので、中庭に集合してください。上級生は新入生をきちんと指導してあげてください」

部員たち「はいっ」

 

タイトル 第三回 「はじめてアンサンブル」

 

〇学校内

 

それぞれの場所で練習を行っている部員達の状景。

 

久美子「(ナレ)パート練習というのは、楽器ごとにグループで分かれて行う練習のことだ。お互いの音が邪魔にならないよう、それぞれのパートが別の場所で練習する。移動が大変な打楽器は音楽室、日光や水に弱い木管楽器は近くの空き教室。外でも平気な金管楽器は残った場所。という感じになる。うちの学校の低音パートは人数が少ない事もあり、楽器単体ではなくパート練習は低音部としてまとまって行う」

 

〇3−3教室内

 

あすかが手を広げて、パートメンバーに説明をしている。

 

あすか「わが低音パートの練習はここで行ってます。パート練習って言われたら、ここに集合すること。別名3年3組」

緑輝「はぁ」

卓也「別名の意味、ないですよね」

あすか「後藤ぉ、そこはテンションあげていくところでしょぉ?」

夏紀「(緑に)あれ、ほかの1年生は?たしか3人いたよね」

緑輝「あぁ、腹式呼吸の練習ですぅ」

 

〇中庭

 

香織の指導のもと、腹式呼吸に取り組む久美子、葉月ら新入生たち。

 

香織「吸って……、はいっ吐いて……ゆっくり、ゆっくり。お腹から強く、長ーく」

一年生達「すうっ、フーーーーー」

葉月「(顔を赤くして)うぶぶぶ、はぁはぁ」

香織「最初は難しいけど、だんだんできるようになるから。大事なのは強く、長く吹くこと」

葉月「ぁ……(アドバイスを実践)。ふーーー(顔を赤くしながら)ぅぅぅぅっぶっはぁっつ(ぜいぜいと荒く息をする)」

香織「加藤さん、これを見て(と吹き戻しを手に取る)。腹式呼吸の練習にはこれがいいんだよ。この吹き戻しをずぅっと伸ばしたままにするように意識してみて。こういうふうに(ピィーーーーーと、吹き戻しを吹いてみせる)」

葉月「す、すごい……」

緑輝「菜月ちゃん、久美子ちゃん」

あすか「そろそろ、もらってっていい?」

香織「物みたいにいわないの。なにかあるの?」

あすか「大事なことがあるでしょ?まだ決まっていないのよ、この子達のお相手がね」

久美子&葉月&緑「(きょとんとして)お相手?」

 

〇楽器室

 

楽器を選ぶために楽器室にきた久美子たち。

 

あすか「さぁ者ども、遠慮はいらねえ。全部頂こうじゃねぇか」

卓也「声、大きいですよ」

葉月「はぁ、楽器ってこんなにいっぱいあるんですね!」

あすか「一応、誰かが使っている楽器は下におろしてあるから、棚に入っているのならどれでもいいよ。あっ、カトーちゃんチューバはそこね」

葉月「あっ、はい。よいしょ(棚にある楽器ケースを持ち上げ)うわ、でかっ。重っ」

梨子「大丈夫?開け方わかる?」

葉月「(フックを外しながら)ここ外せばいいんですよね。(チューバを目にして感動)うぉぁぁ」

梨子「それにする?」

葉月「えっ、あぁ、えーとぉ……(棚のチューバケースを見る)」

梨子「(笑いながら)よくばりだねぇ。いろいろ見ていいよ」

葉月「(照れて)はい」

緑輝「(楽器ケースを開けて)うわぁ。緑はこれにします」

あすか「お、早いねぇ」

緑輝「はい。目が合ったので!」

葉月「えっ!目があるの?」

緑輝「はい。開けたときにこっちを見てました」

葉月「(チューバをみて)目?」

緑輝「名前は……ジョージ君、でしょうか?」

梨子「ジョージ?」

緑輝「はい!」

葉月「楽器って名前つけるものなの?」

久美子「まあ、そういう子は結構いるよ」

葉月「そっか、なるほどね。(先ほどのチューバを見やり)じゃぁ私もつける!」

久美子「ぇ」

葉月「えーっと、チューバ、チューバ、チューバかぶ……あっ、そうだ!チュパカブラにしよう」

チュパカブラ「チュパーッ!」

緑輝「なんですか、それ?」

葉月「知らないの?チュパカブラだよ!?」

あすか「黄前久美子ちゃん、ユーフォはここね」

久美子「あ、はい。えっと2つあるんですね」

あすか「選び放題でしょ」

久美子「ぅーん」

 

久美子が棚の上に残ったままの楽器ケースを見やる。

 

久美子「(ほかの楽器もいっぱい残ってるんだなぁ……)」

あすか「おすすめはこれかなぁ。4番ピストンが下のほうにあって使いやすいし、まぁ年期は入ってるんだけど。はい(と手渡す)」

久美子「(楽器を抱え嬉しそうに)うんっ、いいですね」

あすか「去年1年だれも吹いてなかったから、きっとすごい吹かれたがってるよ。久美子はーん、ワイを、ワイを吹いてけろ」

久美子「なんで訛ってるんです?」

あすか「イメージだよ、イメージ。で、どぉ?」

久美子「ん……(楽器をみつめ笑顔)、これにします」

 

〇3−3教室

 

パート練習の教室座っている低音パートの前であすか

 

あすか「さて、じゃあ一度みんなで鳴らしてみようか」

梨子「夏紀がいませんけど……」

卓也「帰ったんだろ、もう5時だし。ていうか、楽器室に行かないって時点でそのつもりだろ」

梨子「わからないでしょ」

卓也「わかる」

あすか「(ユーフォニアムを吹いて)まぁまぁまぁ。とりあえず1年生もいるんだし、音合わせからやってみようか」

緑輝「昨日のミーティングで合奏するって言ってましたよね」

梨子「そうなんだけどね……」

 

〇音楽室(回想)

 

部員達を前に滝が話す。

 

滝「では、合奏できるクオリティーになったら呼んでください(と立ち去ろうとする)」

部員たち「ざわざわ。えっ、曲は……」

晴香「えっ、でも、あの曲とかは……」

滝「なんでもいいですよ。みなさんの得意なもので」

部員たち「ざわざわ。えぇー」

滝「そうですね、じゃぁ海兵隊でどうでしょう?」

晴香「海兵隊?」

 

〇3−3教室

 

合奏の話を続ける低音パートの面々。

 

葉月「その曲って大変なの?」

久美子「大変っていうか、むしろ簡単て言うか」

梨子「吹奏楽の曲としては初級だね」

卓也「サンフェス、海兵隊でいくんですか?」

あすか「うーん、そうとは言われてないみたいなんだけどねぇ」

葉月「(こそっと緑に)サンフェスってなに?」

緑輝「あとで教えてあげます」

梨子「違うとしたら、早く曲決めないと間に合わないと思うんだけどなぁ……」

葉月「滝先生ってイケメンですよねぇ」

梨子「そう?(久美子の方を見て)久美子ちゃんはどう思う?」

久美子「えっ!?ど、どうでしょう?あははははは……(夏紀の席をみやる)」

卓也「そんなの、どうだっていいだろ」

あすか「ていうか、音合わせるよ」

梨子「あ、すみませーん」

 

〇コンビニ前

 

コンビニ前で話す久美子たち(緑はガチャガチャを回している)

 

葉月「サンライズ・フェスティバル?」

久美子「そう。略してサンフェス」

緑輝「ここら辺じゃぁ恒例ですねぇ」

久美子「5月の初めに各校の吹奏楽部が行進して演奏するの」

葉月「えぇー、できるかなぁ」

緑輝「菜月ちゃんはステップ係かもです。まだ始めたてですので。(ガチャをまわし、カプセルを開ける)……サックスくん」

久美子「また出なかったの?」

葉月「ピーー(と吹き戻しを吹く)」

 

〇通学路

 

茶畑の脇を3人が歩いてくる。

緑輝「はぁぁぁあ(と大きなため息)」

葉月「ダブってるから一個あげるって子が、クラスにいたよ」

緑輝「駄目です!自らの手で巡り会わなければ、意味がありません!」

葉月「案外頑固だよね。ねぇ久美子(と振り返り)ぉ?」

緑輝「ぉ?」

久美子「(楽器ケースを重そうに抱え歩いてくる)ぁー、ひぇー」

 

六地蔵駅・ホーム

 

ベンチに座って電車を待つ3人

 

久美子「(楽器を置いてベンチに座り)あぁー、疲れたぁーー」

葉月「(吹き戻しの練習)ぴーーー……くくく、ぶはぁっ」

久美子「お腹から息を出せって言われてたでしょ?貸してみて?(と手に取り、吹き始める)っピーーーーーーーーーーーー」

葉月「わ、やっぱり久美子もできるんだ。わたし向いてないのかなぁ」

緑輝「まだ始めたばかりじゃないですか」

久美子「そうだよ」

み「緑もコンバス始めた頃は指が痛くて痛くて、絶対無理だっていつも思っていました。でも今はもう(と葉月の頬を指で突く)」

葉月「うわっ、固っ!」

久美子「わたしたちだってそうだよ。1週間もしたら唇痛くって、嫌ぁってなるよ。きっと」

葉月「えぇぇ、そうなの?」

緑輝「運動部くらい大変っていってる人もいるくらいですしね」

葉月「そっか、だから2年生少ないのかな」

久美子「えっ!?」

緑輝「(勢いよく)やっぱりそうですよね!緑もなんか2年生だけ少ないなって」

久美子「だよね、楽器もたくさん余ってたし、きっと元はたくさんいたのかも……」

葉月「なんかあったのかな?」

久美子「(同時に)うーん」

緑輝「(同時に)うーん」

緑輝「(電車が近づき)あっ、来ましたよ(と立ち上がる)」

 

〇黄前家(夜)

 

久美子、家に帰ると玄関で麻美子と鉢合わせ。

 

久美子「ただいまぁ、っと。(ドアが開き麻美子でてくる)ぁ……、お姉ちゃん帰ってたの?」

麻美子「吹部、入ったんだってね」

久美子「別にいいでしょ……」

麻美子「またユーフォじゃん」

久美子「……」

麻美子「吹かないでよ、うるさいから」

久美子「吹かないよ。使うの1年ぶりだっていうから、ちょっときれいにするだけ……」

麻美子「(かすかに鼻をならす)ふ……」

久美子「(声にならない程度に)もうっ……」

 

〇3ー3教室

 

パート練習を行う低音パートのメンバー。梨子が葉月にアドバイスをしている。

 

梨子「ほら、スタンドがあると楽でしょ?」

葉月「お、ほんとだ」

梨子「で、ロータリーをスムーズにするために、オイルをさすんだよ(とやってみせる)」

葉月「へー」

梨子「これでよしっ。ちょっと吹いてみて」

葉月「ぶーーー。おっ、音でた!」

梨子「そしてこれが、チューナー。これで音を合わせるの」

葉月「どうやるんですか?」

梨子「ちょっと見ててね」

あすか「(その様子を見て)おぉ!小さな芽がすくすく育ってるねぇ。結構けっこう」

卓也「ユーフォは大丈夫なんですか?」

あすか「まったく問題ないよ。久美子ちゃんがいるしね?(と、久美子にウィンク)」

久美子「いやっ、私は……」

卓也「そっちじゃなくて(と、窓際でさぼる夏紀を見る)」

あすか&久美子「(夏紀の方を振り向き)あ……」

あすか「まぁまぁ、大丈夫だいじょうぶ。いざとなればちゃんと吹いてくれるから」

卓也「(ため息)ふぅ」

緑輝「あの……この部って2年生が少ないですよね」

あすか「(ぴりっとした微妙な空気が漂う中)えぇっと……」

卓也「1年が気にすることない。気にしなくていい」

梨子「ちょっと、そういう言い方はよくないよ」

久美子「(雰囲気にとまどい)……え、えっと」

卓也「(立ち上がり)ちょっと出てくる」

梨子「(緑に)ごめんね。気にしなくていいから」

緑輝「あの、わたしの方こそ……」

 

(時間経過)あすかが久美子に頼み事をする。

 

あすか「あ、久美子ちゃん。合奏するからホルン隊呼んできて。下の教室にいると思うから」

久美子「はい」

 

〇ホルンパート練習

 

階段を下りてきた久美子、教室内でホルンパートのメンバーが楽器を置いてさぼっている。

 

森本「いっせーので3」

瞳「いっせのーで4」

沢田「いっせーのーで0」

加橋「いっせーのーで2。いえーい……」

 

笑いながらさぼる、その様子を見て久美子の表情がくもる。

 

〇音楽室

 

合奏練習を始めようとする部員たち。

晴香「では、合奏を始めます。準備して……(香織に耳打ちされて)、えっ今から?」

香織「毎日『海兵隊』練習してもしょうがないって、サンフェスもコンクールもあるんだから、早く来てもらったほうがいいって」

晴香「(不満げな顔の笠野や優子らの方を見て)ぁぁ……、いや、でも」

 

〇職員室

 

滝の横に立つ晴香

 

滝「わかりました。すぐに行きます(と笑顔)」

 

CM(フルート&ピッコロパートの面々)

 

〇音楽室

 

合奏に向けてチューニングを行う部員たち。傍らに滝が待っている。

 

晴香「……いい?先生、よろしくお願いします」

滝「ぅん。(指揮台に上がり)ではみなさん、よろしいですか?今日が初めてになりますね。よろしくお願いします。では、最初から1度通してやってみましょうか」

 

緊張感が走り、滝の手が振られる。

 

滝「……3、4」

 

演奏が始まる、が、お世辞にも上手とは言えない。譜面を追うのにいっぱいいっぱいな部員、リードミスしても笑ってごまかす部員、テンポがあわない演奏が気持ち悪い久美子。楽譜がぐにゃぐにゃ歪むイメージ。

 

滝「はいっ、そこまで」

 

滝がおもむろに演奏を打ち切り、気まずそうな部員を見回して笑顔で言い放つ。

 

滝「なんですか、これ?部長、わたし言いましたよね、合奏できるクオリティーになったら集まってください、って」

晴香「ぁ、はい……」

滝「その結果がこれですか?」

晴香「(息をのみ)すみません……」

滝「みなさん、合奏ってなんだと思います?……塚本君、どう思います?」

秀一「ぁあ、はい、えぇっと、それはその……。みんなで音を合わせて演奏する……」

滝「そうですね。しかし各パートあまりに欠陥が多すぎて、これでは合奏になりません。みなさんパート練習やってたんですか?」

野口「やってました!」

滝「ん?」

野口「みんなやってました。毎日パート練習やって、最後に合奏もして……」

田浦「ていうか、どこが悪かったか具体的に言ってもらえないと分かりません」

女子「(OFF)ただ駄目だ、駄目だって……」

滝「そうですか。(メトロノームを動かして)トロンボーンの皆さんはこのメトロノームに合わせて最初から吹いてください。いいですか?1、2、3、4」

 

トロンボーンの演奏。テンポ合わず、音もヘロヘロしている。

 

滝「はい、そこまで。みなさんこの演奏を聴いてどう思いました?良いと思った人?(手が挙がらず)良くないと思った人?(ぱらぱらと手が挙がり)わたしはトロンボーンだけじゃなく、他のパートも同じだと思いました。パート単体でも聞くに堪えないものばかりだと。でも、それでは困るのです」

 

(インサート)回想・多数決で目標を決める部員たち

 

滝「あなたたちは全国に行くと決めたんです。だったら最低基準の演奏は、パート練習の間にクリアしておいてもらいたい。この演奏では指導以前の問題です。わたしの時間を無駄にしないで戴きたい。(晴香に向かい)部長」

晴香「はい……」

滝「今日はこれまでにして、来週の水曜に再度合奏の時間を取ります。以上です」

 

扉を開けて出て行こうとする滝に香織があわてて尋ねる。

 

香織「あ、あのっ」

滝「なんですか?」

香織「サンライズ・フェスティバルの曲は……」

滝「あなたたちは、そういう事を気にするレベルにはありません。来週まともなレベルになってなかったら参加しなくていいと、わたしは思っています。失礼(と立ち去る)」

 

取り残される部員たち、口々に不平不満を表す。下を向いている零奈。

 

田浦「なんなの、あいつ」

沢田「いきなり来て、サンフェス出ないとか有り得ないんだけど」

野口「ていうか、また1週間この曲練習しろっていうのかよ」

岡「(晴香に)部長、ちゃんと言ってきた方がいいよ」

晴香「あっ……」

岡本「サンフェス、毎年出てるんだしさ」

晴香「えっ、でも……」

あすか「(手を叩きながら)はいはいはーい。聖徳太子じゃないんだからいっぺんに言っても分からないよ。いま晴香が言いに行ったって、あの先生が言うこと聞くわけないと思わない?」

沢田「じゃぁ、あいつの言う事聞けって?」

あすか「そういうわけじゃないよん。とりあえず、いきなりこの人数で話しても収拾つかないから、各パートで意見まとめて、パートリーダー会議で話したら良いんじゃない?」

香織「そうだね。それが良いと思う」

あすか「よしゃっ!じゃぁ、そういうことで(と晴香にウィンク)」

晴香「(安堵してうなずく)……」

 

あすかを見上げる久美子の奥で、秀一が浮かない顔をしている。

 

〇コンビニ前

 

部活終わりの久美子たちが立ち話(緑は相変わらずガチャガチャを回している)。

 

緑輝「(カプセルを開け涙目で)ぁあ、ホルンちゃん……」

葉月「もぉ、いいかげん諦めなよ」

緑輝「(きりっ、と)月に手を伸ばすのが、緑の信条です。たとえ届かなくても」

 

緑、振り向くと久美子と葉月が遠くに立っている。

 

葉月「はいっ、行くよー」

緑輝「あぁっ、待ってくださーい」

 

六地蔵駅前の歩道

 

葉月「でも、今日の合奏ってそんなに酷かったの?」

久美子「まぁねぇ」

緑輝「出だしがバラバラでしたし、拍が取れていない人もいました」

葉月「そうなんだ」

久美子「パート練習少しやってれば、できるはずなんだけど……、ぁ、秀一」

秀一「(駅で久美子を待っていた秀一)久美子……」

久美子「何?」

秀一「あぁ、いや……」

久美子「ん?」

緑輝「はっ、(察して小声で)帰りましょうか?」

久美子「へ?」

秀一「あぁ、違う。そーいうんじゃない。ちょっと話しておきたい事があるんだ」

 

ハンバーガー店

 

席でポテトをつつきながら話す久美子たち

 

久美子「退部?」

秀一「そ、30人くらいいた今の2年生の、半分くらいが辞めたんだって」

葉月「なんで?」

秀一「その2年生達は、すげーやる気あったらしいんだけど、そのせいで当時の3年生と衝突したらしくてさ」

緑輝「それでやる気があった人たちが辞めてしまった訳ですね」

秀一「そっ、だからなんとなくだらぁっとした2年生が多いだろ?」

 

(インサート)窓際でさぼるユーフォの中川夏紀の姿。

 

緑輝「でも、後藤先輩や梨子先輩はとても真面目だと思いますけど」

秀一「そりゃ、そういう先輩もいるけどさ。今日の練習後のみんなの文句の言い方見たら分かるだろ。ホルンとかまともに練習してるとこ、見たことないもん」

葉月「えっ、ぅ、そうなんだ……」

秀一「こんな学校に全国なんて、無理だろうな……」

 

顔を見合わせる久美子たち

 

〇夜の公園

 

ベンチで香織が晴香をなぐさめている。

 

晴香「はぁ……」

香織「とりあえず、トランペットはわたしがまとめるから、晴香とあすかの所も大丈夫だから。パーリー会議で主導権を握るのは難しくないと思う」

晴香「うん……。でもこの先もまたこんなことがあったら……」

香織「それは、その時考えるしかないかもね」

晴香「だよね……。はぁ。去年みたいなのは、今年はないって思ってたんだけどなぁ」

 

自転車のブレーキ音がして、あすかが2人に話しかける。

 

あすか「あれえ?2人とも、何してるの?」

晴香「あすか。まだ居たの?」

あすか「うーん、なーんかむしゃくしゃしたから、ずっと1人で吹いてた。で、2人は何?(冷やかすように)秘密の相談してるのかい?」

香織「ちがうよぉ」

晴香「だったら良いけどね。明日頼むね、パーリー会議」

あすか「お任せください。(大げさに)わたくしめは部長の忠実な部下でありますので!では、これにて失礼いたしまする。アディオス、アミーゴ!」

香織「相変わらずだなぁ」

晴香「だねぇ」

 

晴香が不安げに下を向く。

 

〇黄前家・久美子の部屋

 

窓から夜空を流れる雲を見ている久美子。

 

久美子「(ナレ)それでも部長が、パートリーダー会議で文句を言っている人たちをなだめ、また普段通り練習が始まるんだろう。どこかでそんな風に楽観していたわたしの予想は翌日見事に裏切られた」

 

〇音楽室

 

晴香と香織の前で立ち尽くす久美子たち

 

久美子「えっ……」

緑輝「休み?」

香織「各自、自由練習で良いんじゃないかって話もあったんだけど」

晴香「それじゃぁ意味がないって言う人もいてね。パートリーダー会議が終わるまでは練習は休みにする事になって……。本当にごめん(と、手を合わせる)」

久美子「はぁ」

 

曖昧な笑顔を浮かべる久美子の後ろで、麗奈がきびすを返して足早に立ち去る。

 

久美子「(ナレ)部長の話では、一部の生徒が先生の方針に対してどうするべきかを決めるまでは練習しないと言いだしたらしい」

 

〇校内の階段

 

久美子たちがまんじりともせず座って、グラウンドを眺めている。

 

久美子「(ナレ)1年生のわたしたちは、なすすべなく従うしかなかった」

 

葉月「このままで大丈夫なのかなぁ?」

緑輝「分かりませんけど、部長たち頑張ってるみたいですし」

葉月「わたしは、やるなら一生懸命やりたい。せっかく放課後遊ばないで頑張るんだもん」

緑輝「それは緑も同じです!……ですけどそれぞれの心の持ち方じゃないでしょうか?」

葉月「でも吹奏楽って、個人競技じゃないよね。(グラウンドのサッカー部を見ながら)みんなが同じ方向向いて、みんなで頑張らなきゃ意味がなくて……」

緑輝「はい……」

葉月「今みたいにやる気のない人たちにイライラしながら頑張るのって、わたしは……、なんか……」

緑輝「(だまって下を向いてる久美子を見て)久美子ちゃんは?」

 

黙り込む3人の耳にトランペットの音色が聞こえてくる。

 

久美子「ぁ……」

葉月「誰?」

久美子「高坂さんだよ……」

葉月「え?」

久美子「(顔をあげて)高坂さんだよ(と、音の鳴る方を見やる)」

 

〇高台の藤棚

 

麗奈が1人、トランペットを吹いている。

 

〇音楽室内

 

窓際の晴香と香織、後ろ姿。

 

〇職員室内

 

窓際でトランペットの音に気づく滝。

 

〇校内の階段

 

トランペットの音を聞いて、久美子たち。

 

葉月「これ……」

久美子「『新世界より』。ドヴォルザークアメリカにいるときに、故郷のボヘミアを想って作った曲なんだって(立ち上がって、目をうるませる)。まだなにもない新しい世界で」

 

〇高台の藤棚

 

トランペットを吹き終わった麗奈、しばらく何か考え込んで叫ぶ。

 

麗奈「ぅあぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!はぁはぁっ……(顔を上げて、前を見据える)」

 

久美子「(ナレ)その日、私たちはそれ以上何も話さずに帰り……」

 

〇音楽室前の廊下

 

久美子が机の運び出しをしている。

 

久美子「(ナレ)あくる日、何も言わずに3人で練習に向かっていた。そして……」

 

足音に気づき振り返る久美子、嬉しそうに頭を下げる。

 

久美子「こんにちは!」

 

手をふるあすかと梨子が、笑いながら立っている。

 

久美子「次の曲が始まるのです」

 

つづく

ED

響け!ユーフォニアム 第四回 「うたうよソルフェージュ」 シナリオ抜き書き

響け!ユーフォニアム 第四回 「うたうよソルフェージュ

脚本 花田十輝 絵コンテ 石原立也山田尚子 演出 雪村愛

 

(プロローグ)

 

葉月「わっ、楽器って、こんなにいっぱいあるんですね!」

緑輝「緑はこれにしますぅ!」

あすか「ユーフォはここね」

滝「(合奏を止め)なんですか?これ」

 

OP

 

〇教室(パートリーダー会議)

 

パートリーダーが集まって、滝先生への対応方針を話し合っている。

 

晴香「そこを話し合うためのパーリー会議なんだし……」

久美子「(ナレ)パーリー会議とは、パートリーダー会議のことだ。学校によってパーミーだとかパーリー会議などと略されている」

鳥塚(クラ)「サンフェス人質に取るなんて、酷いと思う」

姫神(フルート)「……」

沢田(ホルン)「今までのうちらの伝統、全無視じゃん!」

香織「でも、ここで滝先生に逆らって練習拒否したら、本当に出場できなくなるよ?いいの?」

田邊(パーカス)「それに、サンフェス出ないのはあくまで一週間後の合奏の内容によっては、ということだし」

野口(トロンボーン)「はぁぁ(と、あくび)」

 

教室の外で盗み聞きをしている部員たち。

 

晴香「(OFF)野口君、真面目にやろぅ?」

野口「(OFF)はーい」

 

〇音楽室

 

息せき切って橋が教室に入ってくる。それを振り向く不満顔の田浦たち。

 

橋「今、香織が発言したところ!」

田浦「ぅん?なんて言ってた?」

橋「先生に逆らったら、サンフェスに出場できなくなるかもって」

田浦「(あきれて)はぁ、ここは一発がつんとがんばってよ!」

優子「(田浦に抗議)香織先輩はやさしいんです」

岡「(聞き取れず)〜」

岸部「(ふてぶてしく)どうするんですかぁ?このままじゃ吹部、潰されちゃいますよぉ」

 

久美子「(ナレ)北宇治高校吹奏楽部は、現在60名を超える部員を有する。その部員の意見をまとめ、部の方針や問題点を話し合うのがパーリー会議で、格好よく言うと我が部における最高意思決定機関なのである」

 

〇教室(パートリーダー会議)

 

パートリーダー会議が続いている。

 

晴香「低音パートは、どう?」

あすか「そうだよねぇ、どっちの言ってることも分かるけどね、わたしは」

晴香「ぁ、……そう」

 

と、屋外からトランペットの音が聞こえる。窓外を見やる晴香と香織。

 

〇屋外の渡り廊下

 

麗奈がトランペットを吹いている。

 

久美子「(ナレ)そんな下らないことどうでもいい、とでも言うように高坂さんのトランペットは空に響いていた」

 

タイトル 第四回 「うたうよソルフェージュ

 

〇音楽室

 

晴香が部員達に会議の結果を報告している。

 

晴香「というわけで、来週の合奏まで練習して、その結果サンフェスに出場しないと先生がおっしゃるようであれば、その時はきちんと抗議しようということでまとまりました。何か意見のある人、いますか?(扉を開けて滝が入ってきたのを見て)……あっ、先生」

滝「(教室に入ってきて)こんな時間に集まって、合奏ですか?」

晴香「ぁ……あ、いえ、パートリーダー会議があって……」

滝「(あきれたように)そんなことは別に時間を取ればいいでしょう。せっかく今週は三者面談で授業が短いというのに……。1週間後の合奏で改善が見られなければ、サンフェスには出られないのですよ?」

晴香「はい、それ……」

滝「(話を遮るように)言っておきますが、わたしは本気ですよ」

田浦「(プイっと)……」

滝「(手を叩いて)さぁ、練習をしますよ。皆さん、体操着に着替えてください」

晴香「はっ、体操着?」

滝「はい。着替えたら、楽器を持ってグラウンドに集合です(と、にっこり)」

 

〇グラウンド

 

ジャージ姿の部員たちがグラウンドに集合している。

 

晴香「走るんですか!?」

滝「はい。全速力で1周走ってきてください。タイムは90秒です。それ以上かかった人はもう1周追加で」

優子「えぇーっ」

鳥塚「待ってください、それに何の意味が?……」

滝「よーい、スタート」

葉月「嘘っ!?(と走り出す)」

緑輝「あぁ、待ってください!」

滝「(走り出す部員たちをみて)はいっ、走る走る」

久美子「やばい、やばい。走るの遅いのに……。(麗奈に追い抜かれて)高坂さん、速っ!」

緑輝「(ひとり遅れる緑)くぅ…、みこ……、ちゃぁ……」

久美子「緑ちゃん、遅っ!」

あすか「(秀一を追い越しながら)ほらほら、だらしないぞ!」

秀一「(息があがって)くっそー」

 

楽器を置いたテントで待つ滝、ゴールした部員達に指示を出す。

 

滝「はい、ゴールしたらすぐ吹く!」

橋「えぇ!?」

岡本「まじ?」

滝「なんのために楽器を持ってきたと思っているんですか?さ、早く」

 

サッカー部員たち、息も絶え絶えにサックスを吹く橋と岡本を見て。

 

サッカー部員A「なにやってるんだ、あれ?」

サッカー部員B「さぁ?」

 

〇教室(クラリネットパート)

 

滝が窓際に並ぶ部員たちに指導をしている。

 

滝「はい、口の前に手をかざして。自分の息を感じるようにして。窓の外にある、あの遠い雲を動かすつもりで吹いてください」

部員たち「ふーーーー」

滝「ただ強く吹くのではなく、遠くあの雲の奥の奥にある地平線の彼方まで、1本の強くて長い息の橋を架けるのです」

部員たち「ふーーーー」

滝「それでは届きませんよ。もういちど。3、4」

部員たち「ふーーーーーーーー」

 

〇教室(ホルンパート)

 

部員たちが滝の指導のもと、ティッシュペーパーを息で飛ばしている。

 

岸部「ふーっ、ふー」

滝「10分間、一度も落とさなかったら楽器持っていいですよ」

加橋「うぅっ、なんで、こっちにぃ」

沢田「ゴメーン」

瞳「もう息続かない……」

 

〇教室(トロンボーンパート)

 

滝が演奏の指導をしているが、音のタイミングがなかなか揃わない。

 

滝「では、行きますよ。3、4……(演奏を聞いて)はいっ、ではもう一度」

田浦「(あきれて)あの、これいつまで……」

滝「最初に言ったはずですよ。10回連続で全員のタイミングがぴったり合えば、次の練習に移ります」

 

〇教室(トランペットパート)

 

メトロノームに合わせて手を振り下ろす滝。順番に全員の音程チェック。

 

滝「(加部のトランペットを聴いて)ちょっと高いです。よく聴いてください」

 

〇教室(低音パート)

 

メトロノームに合わせてロングトーンの葉月など、それぞれ練習している部員たち。

 

葉月「(マウスピースから唇を離してためいき)はぁ」

久美子「(葉月の楽譜を見て)わぁー、ロングトーンばっかりこんなに……」

葉月「うん。あなたは初心者だからこれをできるようになりなさい、って滝先生が」

卓也「ロングトーンはすべての基礎だから」

葉月「でも、ちょっとつまんないです」

梨子「まぁ、退屈だよね」

緑輝「大事なことですよ、菜月ちゃん」

葉月「ふにゃぁ」

久美子「でも、次に進むとまた気になるところが出てくるというか、なんどやっても完璧にならないというか」

夏紀「あー、疲れすぎ。ちょっと休憩(と楽器を置き、背中を向けて窓際でさぼる)」

 

教室の前方で1人で練習するあすか、その背中を見る久美子。

 

〇廊下の手洗い場

 

マウスピースを洗う久美子と葉月。バスケ部員の声が耳に入ってくる。

 

バスケ部員A「フルート持ったまま泣いてたなぁ」

バスケ部員B「割とスポ根だよな、吹奏楽部」

 

〇教室(フルートパート)

 

扉のスキマから覗き込む久美子たち。中では部員の三原がうつむいて泣いている。

 

三原「(泣き声)……」

滝「基礎の基礎ですよ。何年も貴重な時間を割いて、この部活に充ててきたんですよね?」

三原「……はい」

滝「それでその演奏しかできないのだとしたら、それこそ時間がもったいない」

姫神「それでもいいです!みんなで楽しく演奏するのも吹奏楽の楽しさだと思います!」

滝「だから、最初に聞きましたよね?目標はどうしますか、と。あなたたちは全国大会を目指すと答えたのです」

 

そそくさと立ち去る久美子たち。廊下では鎧塚みぞれが1人、練習をしている。

 

〇教室(トロンボーンパート)

 

岩田「(田浦に)もぅ、あの先生訳わかんない」

 

〇廊下(掲示板の前)

 

瀧川「自分はこういうやり方、嫌いじゃないです」

 

〇階段

 

瞳「(岸部に)これ、サンフェスもやばいんじゃないですか?」

 

〇教室(低音パート)

 

教室に戻ってきた久美子と葉月、真面目に練習を再開。いぶかしがる周りの部員たち。

 

緑輝「何かあったんですか?」

 

緑の問いに2人のロングトーンが不自然に途切れる。

 

葉月「別にぃ!?」

久美子「何にもないよ?」

緑輝「マウスピース洗いに行ってから、なんか変です」

久美子「そ、そうかなぁ?」

滝「(扉を開けて)遅くなってすいません」

 

振り向くあすか、ブホっとなる葉月、イヤホンを外す夏紀。

 

滝「他のパートで、少し時間を使ってしまいまして……。(教卓でノートを広げて)えぇと、低音のみなさんは……。まず、楽器を置いてください。みなさんにはチューニングの音を歌ってほしいんです」

葉月「歌う?」

あすか「もしかして、ソルフェージュですか?」

葉月「何ですか、それ?」

緑輝「楽譜を声に出して読む基礎訓練ですね!」

滝「その通りです。では、まずこの音から」

 

滝がノートPCを操作、スピーカーから流れる音に合わせて歌う部員たち。

 

部員たち「ラーーーー」

滝「(止めて)後藤君は、あまり歌が得意ではないですか?」 

卓也「すみません」

滝「大丈夫ですよ。慣れていけば、どんどん上手になっていきますから」

あすか「心配しなくても晴香よりは上手だし」

梨子「んふっ、部長に悪いですよ」

滝「では次に、同じ音を楽器で吹いてみましょう」

 

楽器を構える部員たち。

 

滝「いきますよ。(スピーカーから音が流れる)……3、4」

 

音に合わせて演奏する部員たち。モニターに波形が見える

 

滝「(演奏を止めて)はいっ、そこまで。いま、Fの音が聞こえましたか?」

あすか「はい」

滝「それが倍音です。音程が揃っている時に聞こえてくる音です。正しく音が取れていれば、今のように純正律と同じ効果でハモります。分かりましたか?」

部員たち「はい!」

滝「(うなずいて)では、もう1度」

 

〇コンビニ前

 

コンビニの前、久美子たち3人が並んでいる。

 

葉月「思ったより優しかったね、滝先生」

久美子「うん。あれっ?緑ちゃん、今日はガチャガチャやらないの?」

緑輝「(なんかぷんぷん)ふん」

久美子「……ん?」

葉月「うひゃぁ」

緑輝「菜月ちゃんから聞きました。さっき練習中にフルートパートの教室を覗きに行ったって」

久美子「え?……うん、滝先生すごく怖かったんだよぉ」

緑輝「なんでわたしも誘ってくれなかったんですか?」

葉月「そっちかよ!?」

緑輝「緑も滝先生の特訓が見たかったです」

久美子「そんなに良いもんじゃなかったよ」

葉月「うんうんうん」

緑輝「(秀一に気付いて)あっ、塚本くんです」

秀一「(久美子たちに気付いて)あっ、おう。うまそうなもの食べてるなぁ?」

久美子「あげないよ」

葉月「ねぇ、トロンボーンはどんな感じ?今日、先生に見てもらったんでしょ?」

秀一「たっぷりしぼられたよ。(滝のまね)塚本君、わたしが言った意味分かっていますか?」

葉月「ふふっ、やっぱり優しかったのって低音パートだけだよ。もしかして先生に認められているのかも」

久美子「それか、もう諦められているか……」

葉月「んもぅ!どうしてそういう風に思うの?」

久美子「え?」

秀一「久美子って結構ひねくれてるよな」

久美子「(にらむ)はぁ?」

秀一「(あせって)あぁあ、いやいや」

 

宇治駅

 

駅構内で久美子に謝ってる秀一。

 

秀一「悪かったよ、ついさ。ほら、会話の流れっていうか。(無視して歩く久美子に)待て待て、話があるんだよ」

久美子「なに?」

秀一「高坂のことなんだけどさぁ」

久美子「高坂さん、なにかしたの!?」

秀一「いや、トランペットパートの先輩に目ぇつけられてるみたいで……」

 

〇(インサート)教室(トランペットパート)

滝の質問に答える麗奈、それをにらむ優子。

 

麗奈「はい。練習量で言えば、中学のときの半分くらいです」

 

宇治川のほとり

 

川沿いの石段に座って話す久美子と秀一。

 

秀一「なんか先生に聞かれて、思ってる事はっきり言ったらしくてさ」

久美子「そっか……」

秀一「いい先生なら、そういう所も上手くフォローしてくれるんだろうけど……。あの先生、吹奏楽部の顧問するのも初めてらしいし」

久美子「そうなんだぁ……」

秀一「ずーっと同じ練習させるし、強引だし。指導力があるかって言ったら」

麗奈「(OFF)あるに決まってるでしょ!」

 

麗奈がいつの間にか背後に立って、2人をにらみつけている。

 

秀一「なっ……、高坂?」

久美子「なんでここに」

麗奈「わたしの家、この近くだし」

久美子「見た事なかった」

麗奈「電車使ってないからじゃない?わたし自転車通学だから。(秀一に)言っとくけど、滝先生すごい人だから!馬鹿にしたら許さないからっ!!」

秀一「あ、あぁ……」

麗奈「(久美子に)分かった?」

久美子「ぅ……、分かった」

秀一「(ぷいっと立ち去る麗奈にボソっと)別に馬鹿にしたわけじゃ……」

麗奈「(振り返り)何か言った!?」

秀一「いえっ!ナンデモナイデスっ!」

 

自転車で走り去る麗奈を目で追う久美子、その目を伏せる。

 

CM(アルトサックスの面々)

 

〇1−3教室

 

美知恵先生との三者面談に臨む久美子と明子。久美子は上の空。

 

美知恵「では、小学校時代から吹奏楽を?」

明子「はい。上の子がやっていたので、それにつられる様にしてこの子も」

美知恵「そうですか」

 

久美子「(ナレ)また高坂さんを怒らせてしまった」



美知恵「お姉さんは今も吹奏楽を?」

明子「いいえ、受験をきっかけにやめちゃったんですよぉ」

美知恵「そうでしたか」

 

久美子「(ナレ)わたしの考え無い一言が火種になって……、まぁ、正しく言えば今回は秀一に原因のほぼ全てがあると思うんだけど……(空の雲に向かってブレス)。でも……」

 

〇廊下

 

三者面談を終えた久美子と明子。

 

久美子「(ナレ)少なくともわたしは、落ち込んでいた」

 

明子「(教室内の美知恵に)失礼致します」

久美子「(頭をコツンと小突かれ)いてっ」

明子「なにぼぉっとしんてんのぉ?」

久美子「んー、してないってばぁ」

 

〇楽器室

 

楽器を出そうとしている久美子に、ふいに麗奈が声をかける。

 

久美子「よっこい」

麗奈「黄前さん」

久美子「うわぁぁぁぁ。……あぁ高坂さん」

麗奈「話したい事があるんだけど、ちょっとだけ、いい?」

久美子「……うん」

 

〇渡り廊下

 

人気のない校舎裏に連れ立って来る麗奈と久美子。

 

麗奈「こっちでいい?」

久美子「あっ、うん。もちろん!(なんだろう?昨日の事かな?……それにしてもここ、人気がまったく無いんですけど……これは絶対、殺される!)」

 

飛び立つカラスのイメージ。振り返る麗奈の表情は影で見えない。

 

麗奈「黄前さん」

久美子「ひゃい!」

麗奈「昨日のことなんだけど」

久美子「(ごくりとつばを飲んで)……はい」

麗奈「わたし、ちょっと言い過ぎたなって思って」

久美子「えぇ!?あっいや、そんなこと。わたしたちもなんか感じ悪かったかも、って言うか……」

麗奈「それだけなの」

久美子「あっ……」

麗奈「じゃ(と、立ち去ろうとする)」

久美子「(あ、駄目だ。また後悔するかも)高坂さん!」

麗奈「(呼び止められ、振り返る)……」

久美子「あの、あの、わたしも昨日はごめんなさい。なんか、なんか人のうわさ話とかうだうだ言ってないで、黙って練習しとけって感じだよね、うん。あと、あとね、……わたしから言いたい事があるんだ、このあいだ……。このあいだ練習無くなった日、ドヴォルザーク吹いてたの、あれ高坂さんだよね?すごく元気でた!!わたしも頑張らなきゃって思った。だから、ありがとう」

麗奈「……っ(頬が上気する)」

久美子「ぁっ。……ご、ご清聴、有り難うございました!(と走り去る)」

 

〇廊下

 

息を切らして立ち尽くす久美子

 

久美子「はぁっ、はぁっ。……どうしようっ、今の絶対引かれた」

 

久美子「(ナレ)だけど、なんだかそれは不思議と嫌な気分ではなくて、少し気持ちよかった」

 

3−3教室

 

練習している葉月、緑ら低音パートの部員たち。久美子が入って来る。

 

久美子「遅くなりましたー」

葉月「(息継ぎ)プハー」

久美子「(葉月の譜面を見て)今日はリップスラー?」

葉月「そう。めちゃくちゃ難しいんだぁ」

 

リップスラーに苦戦する葉月

 

葉月「駄目だぁ……。がんばってよチュパカブラぁ」

梨子「頑張るのは菜月ちゃんだよぉ」

卓也「音が力みすぎてる」

葉月「無理ですぅ。どうしても力入っちゃうし、難しいですぅ」

あすか「(教室に入ってきて)おいーっす!三者面談終わりっす」

梨子「あれ!?先輩もう終わったんですか?」

あすか「あぁ梨子ちゃん。あんなの5分もあれば充分だよ」

卓也「(あきれて)受験生なのに、いいのか?この人は……」

あすか「(うんうんと苦戦する葉月を見て)ん?何なに加藤ちゃん、苦しんでるね。生まれそうなの?」

葉月「リップスラーが難しくて……」

あすか「おぉー、初心者らしく順調に一歩一歩つまずいているねぇ。よかった、よかった」

葉月「むぅ、ふんんん(とリップスラー)」

あすか「(それを見て)加藤ちゃん、マウスピースだけ持ってごらん?それだけ吹いて、音程を変えてみるのだよ。ちょっと難しいけどね(と、やってみせる)」

葉月「お、わぁ……」

あすか「はい、加藤ちゃんもやってみる」

葉月「あぁ……、えーとぉ」

緑輝「久美子ちゃんもできるんですか?」

久美子「あんまし得意じゃないんだけどね」

卓也「中川は全然できない。まぁ、俺もうまくはないけど」

久美子「そうですか……」

卓也「(リップスラーをする)」

久美子「後藤先輩って、いつからチューバをやってるんですか?」

卓也「中1の冬から。陸上部やめて吹部に入った」

久美子「その時からずっとチューバなんですか?」

卓也「(チューバ、好きだから」

梨子「……(微笑む)」

久美子「へぇぇ(と、ちょっと感動。窓際で背を向ける夏紀を見やる)」

あすか「頼むよ、加藤ちゃん」

葉月「えー、難しすぎますってぇ」

久美子「(夏紀のもとに歩み寄り)中川先輩」

夏紀「(目をさまして振り返る)ん……ぅん?」

久美子「みんなで、合わせてみませんか?」

夏紀「……いいよ(と、立ち上がり眠そうにみんなのもとに)」

久美子「はぁ(と、安堵のためいき)」

 

〇グラウンド

 

練習する野球部員の奥で、ホルンパートの部員たちが走り込みをしている。

 

野球部員「オーライっ!」

久美子「(ナレ)それから、その翌週の合奏まで、それぞれの練習は続いた」

沢田「(走り込みを終えて)ハァハァ……。よしっ、曲練行こう!」

部員たち「はい!」

 

青空に響く金属バットの打撃音。

 

〇教室(クラリネットパート)

 

息を吐くイメージ練習をする部員たち。

 

久美子「(ナレ)今までの自分たちのやり方をほとんど否定されたことによる、滝先生への不満はとても大きかった」

 

〇教室(ホルンパート)

 

練習する3年生の脇で、岸部が吹いたティッシュが空高く舞い上がる。

 

久美子「(ナレ)だけど、そのエネルギーが部員たちの団結力へと形を変えて行った」

 

〇音楽室

 

合奏隊形の部員たち。

 

久美子「(ナレ)そして、合奏当日……」

 

沢田「絶対、文句言わせない」

加橋「なんか言われたらマッピ投げるし」

姫神「てかあの先生、なんで指揮棒つかわないの?」

渡辺「打点分かりにく」

 

準備をしている部員たちの前に、滝がやって来る。

 

滝「約束の日になりました。この1週間の成果が楽しみです。(クラに)鳥塚さん、お願いします」

 

鳥塚のクラリネットに合わせてチューニングを終える部員たち。

 

滝「……よろしいですか?では始めましょう。(手を振り上げて)3っ」

 

合奏が始まる。前回に比べ見違えるほど整った合奏に目を見張る葉月。

 

〇校舎の外

 

曲に合わせて行進のまねをする男子。

 

〇職員室

 

美知恵が合奏に気付き、笑みを浮かべる。

 

〇音楽室~校内情景

 

海兵隊』の演奏が続く。真剣な表情で演奏する部員たち

 

〇(インサート)青空、バケツに貯まる水。

 

〇音楽室

 

合奏が終わり、緊張の面持ちで滝の反応を伺う生徒たち。マウスピースに手をかける加橋、ため息をつく麗奈など。

 

滝「(部員たちを見回し、笑みを浮かべ)いいでしょう」

 

驚く久美子、喜ぶ部員たち。

 

滝「細かい事を言えば、まだまだ気になる所はありますが、なにより皆さん、いま(手を合わせて)合奏をしていましたよ」

 

夏紀を見やる久美子に、肩をすくめてみせる夏紀。

 

滝「小笠原さん、これをみんなに配ってもらえますか?」

晴香「はい」

滝「それではみなさん、お待たせしました。サンフェスに向けた練習メニューです」

野口「(びっしりのスケジュールに)げっ、これ本気でこなすのかよ?」

田浦「日曜も!?」

秀一「曲は、なんですか?」

滝「譜面は明日配ります、お楽しみに。さて、残された日数は多くありません。ですが、みなさんが普段若さにかまけてドブに捨てている時間をかき集めれば、この程度の練習量は余裕でしょう」

加橋「やっぱむかつく」

滝「サンフェスは楽しいお祭りですが、コンクール以外で有力校が一同に集まる大変貴重な場でもあります。この場を利用して、今年の北宇治はひと味違うと思わせるのです」

晴香「でも、今からじゃ……」

滝「できないと思いますか?」

晴香「……」

滝「わたしはできると思っていますよ」

晴香「ぁ……」

滝「なぜなら、わたしたちは全国を目指しているのですから(と、部員たちを見回す)」

 

秀一と顔を見合わせる久美子。チューバパートの3人、うなずく緑、滝を見つめるあすか。

夏紀ら、ほかの部員も滝を見つめる。

 

久美子「(ナレ)その挑戦的で屈託の無い笑顔を見て、わたしもみんなも気が付いた。この先生は本気だ、と」

 

にっこり笑う滝。それを見てうつむく葵。

 

久美子「(ナレ)そして、次の曲が始まるのです」

 

〇屋外

 

青空からパンダウン「サンライズ・フェスティバル」のゲート看板。

 

続く

ED

 

響け!ユーフォニアム 第五回「ただいまフェスティバル」 シナリオ抜き書き

響け!ユーフォニアム 第五回「ただいまフェスティバル」

脚本 花田十輝 絵コンテ・演出 三好一郎

 

(プロローグ)

 

麗奈「言っとくけど、滝先生すごい人だから!馬鹿にしたら許さないから!!」

滝「わたしはできると思っていますよ。何故なら、わたしたちは全国を目指しているのですから」

 

OP

 

〇保健室

 

身体測定をしている1年生たち。葉月は肺活量を測定している。

 

女子「(ざわざわ)また体重増えてた……」

葉月「ふー、はぁーーー、ぶふぅうぅぅぅ!(と肺活量を測定)」

女子A「わっ、すごーい」

女子B「男子並みだよ!どうなってんの?」

葉月「ぷはあぁぁ……(と、へたり込み)ふぅぅ」

女子B「すごいよ、葉月!」

緑輝「さすがチューバですね」

女子AB「えっ?」

緑輝「葉月ちゃんが担当するチューバは、吹奏楽のなかでも特に肺活量の必要な楽器と言われています」

女子B「そうなんだ」

葉月「だからさぁ、いつも先輩に鍛えられてて……」

 

〇廊下(回想)

 

梨子が葉月に腹式呼吸の指導をしている。

 

梨子「吐ききったところで吐く!さらに吐く!あきらめないで、まだ吐けるよ!」

葉月「うぅぅぅぅぅぅ」

梨子「まだ行ける!もっと吐ける!全部吐いて、残らず吐いて。吐いて吐いて吐いて吐いてぇ!」

 

〇保健室

 

会話を続ける葉月たち

 

緑輝「って、毎日耳まで赤くして頑張ってます!」

女子A「すげぇな、吹部……」

女子B「過酷だね……」

久美子「(OFF)嘘!?」

 

久美子、胸囲測定の結果を見て落ち込む。

 

久美子「胸囲が去年と同じ。まったく変わってない!あぁっ(涙目で胸をなで)」

 

〇草原(イメージ)

 

草原に立つ久美子、空に向かって叫ぶ。(高校生・成長期・憧れのCカップの文字が飛ぶ)

 

久美子「おい、久美子!あんたもう高校生だよ。春になったら大きくなって、すっかり大人になるんじゃなかったの?」

 

〇保健室

 

現実に戻った久美子に緑輝が話しかける。

 

緑輝「久美子ちゃん、どうかしましたか?」

久美子「あ、緑ちゃん。ん(と、緑の胸と自分の胸とを見比べ)、ふぅん……」

緑輝「えっ?」

 

〇中庭の階段

 

身体測定終わりの久美子たち。背伸びをする葉月。

 

葉月「あぁ、やっと終わった」

久美子「(葉月の胸を見て)ぺったんこ」

葉月「ん?何?」

久美子「2人ともありがとう。遠回しに励ましてくれて。わたし心が折れそうに……」

緑輝「あ、あすか先輩です」

葉月「せんぱーい!」

あすか「おっ、終わったね身体測定。どうだった?(と体をひねるとバストが揺れる)少しは成長したの、お嬢ちゃんたち?」

 

久美子があすかのバストに気圧され、また落ち込んでいる。

 

タイトル 第5回 「ただいまフェスティバル」

 

〇音楽室

 

談笑している部員たち。春香と牧が段ボール箱を持って入ってくる。

 

部員たち「(ざわざわ)」

葉月「あ、来た!」

晴香「はーい、来週の本番に向けて衣装配るから、順番に取りに来てね。まずはパーカスから。……堺さん」

堺「はい」

晴香「釜屋さん」

釜屋「はい」

 

久美子「(ナレ)サンライズ・フェスティバル、通称サンフェスでは音楽イベントのひとつとして、府内各校の吹奏楽部によるパレードが恒例となっている……」

 

晴香「次、低音……」

葉月「はい!はいっ、はーい!」

 

久美子「(ナレ)吹奏楽部ではマーチングと言って、今回の様に行進したり、フォーメーションを展開しながら演奏することもある。マーチングコンテストに力を注ぐ有名校にもなると、中には衣装に憧れて高校を決める生徒もいるらしい」

 

晴香「(手をたたき)はい、聞いて」

あすか「今日の練習はグラウンドが空いているので、外でやりまーす。試着終わったらジャージに着替えて、グラウンド集合で」

晴香「じゃぁ、音楽室は女子……」

 

試着を終えた女子部員たち。スカートを翻す葉月。久美子はまだ胸のサイズを気にしている。

 

葉月「ふん。どう、似合う?」

緑輝「はい!似合ってます。……あぁ、緑もコンバス持って行進したかったなぁ」

 

〇(インサート)マーチング会場

 

コンバスを抱き抱え、笑顔で行進する緑輝。

 

〇音楽室

 

葉月「(その姿を想像して)無理でしょ」

緑輝「分かってます」

葉月「まぁ、今回はわたしたち初心者に混じって一緒に歩こ?」

優子「きゃあああ♡先輩かわいい!マジ、エンジェル。あとで写真、いいですか?一緒に」

香織「いいけど、去年も撮ったような」

優子「いいんです!何度でも」

あすか「さっすが香織、確かに似合う」

香織「もぅ、あすかの方が全然かっこいいよ」

あすか「えっ?そうかなぁ?」

香織「そうだよ。スタイルいいし、美人だし。それに……」

麗奈「(久美子の視線に気づき)……?」

久美子「(目が合って)ぅ、ん……(と目を伏せる)」

麗奈「(照れて)っ……」

 

〇グラウンド

 

強い日差しのもと、グラウンドに久美子たちが立っている。

 

久美子「ぅわあ……。これってもしかして焼ける?」

葉月「そりゃ焼けるでしょ」

緑輝「出てるとこだけ、こんがりと……」

葵「(久美子たちに近づき、日焼け止めを差し出す)はい」

久美子「あ……」

葵「使っていいよ、日焼け止め」

久美子「あおいちゃ……先輩」

葉月&緑輝「ありがとうございます!」

葵「(笑って)やっぱり落ち着かないね、久美子ちゃんに先輩って言われると」

久美子「(立ち去る葵に)あ、ありがとう」

 

グラウンドに線が引かれる。整列する部員たち。

 

あすか「はーい、いいですか?今日はまず、楽器を持たずに練習をします。初心者の1年はステップ練習をしてください。他は全員、行進の練習から始めます。足が揃ってないと、ある意味演奏のミスより目立つので気合を入れていくように!」

部員たち「はいっ」

 

行進の練習をする部員たち

 

久美子「(ナレ)行進は1歩62,5㎝。左足から歩き出す。1歩62,5㎝というのは8歩でちょうど5m。演奏しながら下を見ないで、常にこの歩幅で歩けるようにならないといけない。正確にできていれば……」

 

晴香がピッと笛を吹き、部員たちの足が整然と並ぶ。

 

久美子「(ナレ)こうなるし、できていなければ……」

 

晴香がピッと笛を吹くが、部員たちの足の位置がばらばら。

 

久美子「(ナレ)こうなる」

 

行進する部員たちに、あすかたちの指導の声が飛ぶ

 

晴香「足ちゃんと揃えてね。ちょっと体ブレてるよ」

あすか「前をしっかり見て!」

晴香「背筋伸ばして。ほら、そこライン揃ってないよ」

 

(時間経過)並ぶ部員たちを前にあすか。

 

あすか「はい。それじゃ、5分休憩」

 

〇木陰のベンチ

 

久美子と葉月が歩いてくる。

 

久美子「あぁ……、やっと休めるよ」

葉月「あぁ、暑かった」

久美子「こりゃ本番はもっと暑いよねぇ」

葉月「勘弁してほしいよ……。(水筒を差し出し)飲む?」

久美子「ん?あぁ、いい。ありがとう。……あれ、緑ちゃんは?」

葉月「んっ(と指さし)。なんか、かわいいからガードやってって言われてたよ?」

久美子「(ガードの練習をする緑を見て)ふーん、ガードかぁ。さすが聖女だねぇ」

葉月「はぁ、わたしなんて謎ステップもまだななのに」

久美子「あぁ、北宇治高名物の?」

葉月「謎っていうだけあって難しいんだよ(と、やって見せる)。歩きながら、えっと、こうして、こう。こう、こう、こうで、こうか?あれ?こうだっけ?」

久美子「確かに謎だぁ」

葉月「でしょ?さっきあすか先輩に注意されたんだ」

 

あすかに指導される葉月のイメージ(ちょっと!!やる気あんの!ダメ!遅い!まだ遅い!の文字)

 

葉月「ねぇ、あすか先輩ってさぁ部長より厳しいよね」

夏紀「そりゃそうだよ(と2人のもとに近づく)。あすか先輩はドラムメジャーだからね」

久美子「夏紀先輩」

葉月「あの、ドラムメジャーって何ですか?」

夏紀「隊列の先頭を歩いて、指揮者の代わりになる人。まぁ、そのバンドの顔みたいなもんかな」

久美子「バンドの顔って、部長じゃないんですね」

夏紀「晴香先輩はメンタル弱いからなぁ……」

葉月「部長なのに?」

夏紀「まぁね。本当はみんな、あすか先輩に部長になって欲しかったんだけど、あすか先輩はそういうの、あんまり好きじゃないからさ。副部長も渋々だったし」

久美子「そうなんですか」

葉月「すごいリーダー体質ってかんじだけど」

夏紀「ま、向き・不向きと好き・嫌いは別ってことじゃない?どっちにしろ、去年に比べたらずいぶん変わったよ。去年は行進の練習なんて当日までほとんどしなかったし……」

あすか「(部員たちに)そろそろ始めるよー」

久美子&葉月「はいっ(と駆け出す)」

 

〇グラウンド

 

練習を再開した部員たち。

 

久美子「(ナレ)あの海兵隊の合奏以来、この部の空気は明らかに変わった。『やってもどうせ同じだ』から『頑張れば良くなる』に変化したのだ。ひとは単純だ。見返りがあると分かれば頑張るようになり、頑張ってよくなれば更に頑張ろうとする」

 

(時間経過)真剣な表情の部員たちの前にあすか、滝らが立っている。

 

あすか「(笛を吹き)はい、集合して……。ラスト1本の感じ、忘れないでね。来週の本番までもう時間がないから、明日も集中して練習するからね」

部員たち「はいっ」

あすか「(うなずく)」

滝「(あすかの視線をうけ)では、そろそろ時間ですね」

あすか「はい。じゃぁ、今日はここまで。片づけに入ります」

橋「あの、ちょっといいかな。明日からグラウンド使えないんでしょ?なら、もう少し合わせておいた良いと思うんだけど……」

滝「(時計を見て)分かりました。あと30分だけ延長しましょう。ただ、帰らなきゃいけない人は帰ってください。続ける人は携帯使っていいですから、家に連絡すること。分かりましたか?」

部員たち「はいっ」

 

〇テント

 

楽器を置き、ポーチからスマホを取り出す久美子に、葵が声をかける。

 

久美子「しょっ……」

葵「じゃあね、久美子ちゃん」

久美子「え、あ、葵ちゃん、帰るの?」

葵「うん。これから塾なんだ。頑張ってね(と、立ち去る)」

久美子「……あ、先輩つけるの忘れてた(と、晴香と立ち話する葵を見る)」

 

〇グラウンド

 

練習を続ける部員たち。美知恵の掛け声が響く。

 

美知恵「1,2,1,2,1,2,1,2,1,2,1,2,1,2……」

 

六地蔵駅

 

すっかり暗くなった駅前に久美子・葉月・緑輝がやってくる。

 

葉月「1,2,1,2,1,2,1、うわっつとと(足がもつれ)。もうっ、なかなか慣れないよぉ」

 

黄檗駅ホーム

 

電車から降りてくる葉月、車内の久美子にあいさつ。

 

葉月「じゃあねぇ」

久美子「バイバイ」

葉月「(あくび)ふわぁ」

 

〇電車内

 

がらがらの車内。久美子、シートに腰をおろす。

 

久美子「よいしょぉっ……。あぁ、疲れた。今夜は爆睡だな。(と、大あくび)ふぁぁ」

 

ローファーも脱いでくつろぎ、ふと横を見ると、隣の車両の麗奈と目が合う。

 

久美子「うっ……(と、姿勢を正す)」

 

宇治駅

 

改札を出る久美子と麗奈。

 

久美子「高坂さん、電車通学になったの?」

麗奈「帰り遅くて危ないからって、母さんが」

久美子「そうだよね。昨日もこの時間だったもんね。(どうしよう、なに話そう。中学の時のことは話せないし、また滝先生の話するのもなぁ……)」

 

宇治駅前の交差点

 

交差点までやってくる久美子と麗奈。

 

久美子「っそろそろ中間試験だね……」

麗奈「うん」

久美子「ぇ高校って、勉強難しいよね……」

麗奈「うん」

久美子「あぁ……」

麗奈「黄前さん」

久美子「あ、はいっ?」

麗奈「どう思う?滝先生」

久美子「えっ、滝先生?」

麗奈「そ、どう思う?」

久美子「どうって、そりゃ良い先生だと思うよ。みんな練習するようになったし、夏紀先輩も去年はこんなことなかったって言ってたし、それに、まぁかっこいい……とか」

麗奈「(ハッと)かっこいい?」

久美子「えっ、あ、いや、わたしじゃないよ。みんなが言ってるの。わたしはどっちかって言うと、乗せるの上手い先生だなぁぐらいで」

麗奈「そう」

久美子「うん、そう。ほら、海兵隊が上手にできたからって、去年まで銅賞だったところがいきなり全国行けるとか、そんなのあり得ないよなぁって思って……。(失言に気付き)ああっ、いや違う。あぁあ違うの。そう言うんじゃなくってぇ……」

麗奈「(表情が見えなかった麗奈がくつりと笑う)くくっ」

久美子「(意外な反応に驚いて)ぁっ」

麗奈「黄前さんらしいね(と髪をかき上げ、笑顔を見せる)」

久美子「あぁ」

麗奈「じゃあ、わたしこっちだから」

久美子「へっ、あ。……あぁ」

 

緩やかな坂道を登っていく麗奈を見送る久美子。

 

久美子「(ナレ)その微笑みは謎ステップより謎すぎたけど、なぜかちょっただけ嬉しかった(と、微笑む)」

 

久美子「(ぴょんっ、と振り返り鼻から息を漏らす)ふんっ」

 

CM(テナーサックスの部員たち)

 

〇黄前家

 

久美子の部屋。目覚ましが鳴り、ベッドの久美子が目をさます。

 

久美子「うーん……、っは!!」

 

宇治橋

 

走る久美子

 

久美子「(ナレ)吹奏楽部のイベントや大会の当日は、朝からとても忙しい」

 

〇北宇治高校・正門

 

走ってくる久美子に手を振る葉月。

 

久美子「(ナレ)まず当たり前のことだけど、会場に楽器を運ばなくてはいけない」

 

〇楽器室

 

楽器の準備をする部員たち。葉月が見慣れない楽器を見て。

 

葉月「何ですか?これ」

梨子「スーザフォンだよ」

葉月「おっきいですね」

久美子「(ナレ)小さい楽器なら自分で運べるのだけど、大きな楽器になるとトラックで会場まで運んでもらうことになる」

 

〇駐車場

 

トラックに楽器を積み込む男子部員たち。

 

久美子「(ナレ)楽器運搬係の指示に従ってトラックに積み込んでゆく、結構な力仕事。こういう時、男子部員はとっても頼りになる」

秀一「(重そうに楽器を運ぶ葉月に気付き)ん?」

葉月「(スーザフォンをおんぶしてよろよろと)ふっ、っく、……よっ」

秀一「大丈夫か?」

葉月「あ、うん……」

秀一「貸して(と楽器を持ち上げる)」

葉月「へっ……。(軽々と運ぶ秀一に)おぉっ……」

 

〇音楽室

 

集合して、点呼をとる部員たち。

 

沢田「ホルン、全員います」

香織「トランペット、全員そろってます」

晴香「フルートは?」

姫神「フルートは、(スマホをチェックしつつ)1人遅れてる」

晴香「連絡は取れてるの?」

姫神「(スマホのメッセージに気付き)いま、駅に着いたって」

 

それぞれ、担当する係につく先輩たちの姿(手を組む野口と田邊、役員の晴香、あすかと香織、ピースする吉沢の写真を撮る萩原、楽譜をチェックする雑賀、OBを出迎える渡辺)。

 

久美子「(ナレ)吹奏楽部にはそれだけではなく、様々な係が存在する。各パートのリーダー、部長・副部長・会計。その他、記録係や楽譜係、来場した卒業生を担当するOB係。さらに美化とか広報とか、学校によって様々だが、大抵部員は何か1つは係に就いて仕事を

していたりする」

 

〇学校前の道路

 

バスに乗り込む部員たち。

 

〇バスの車内

 

通路を後ろに進む久美子、空席を見つけ座ろうとする。

 

久美子「すいませーん、通りまーす。(空席を見つけ)あの、ここ座っても……ぁ(と、秀一に気付く)

秀一「おい、なんだよ?」

久美子「(舌打ち)チっ」

秀一「舌打ちすんなよ!(構わず隣に座る久美子に)座るのかよ!?」

久美子「嫌ならほかに行けば?」

秀一「お前なぁ……」

 

〇バスの外

 

最終確認をするあすかたち。

 

あすか「そっち、揃った?」

晴香「(両手でOKサイン)」

 

〇バスの車内

 

並んで座る久美子と秀一。スマホいじる久美子に秀一が声を掛ける。

 

秀一「なぁ」

久美子「ん?」

秀一「今日、頑張ろうな」

久美子「……うん」

 

〇太陽公園

 

会場に詰めかける観客たち。

 

陸上競技

 

他校の生徒たちに混じって北宇治高校の吹奏楽部員たちも集合している。

 

美知恵「いいかお前ら、いよいよ本番だぞ。手を抜いたら承知しないからな!」

部員たち「はい」

美知恵「練習通りやればできる!」

部員たち「はいっ」

美知恵「気合を入れろ、声が小さい!!」

部員たち「はいっ!!」

美知恵「よし、わたしからは以上だ」

滝「(遅れて駆け寄り、息を切らせながら)はっ、すみません。はぁ、ちょっと迷っちゃいました。はぁ。先生からは?」

美知恵「終わりました」

滝「そうですか。えっと、わたしからは特にありません。(きょとんとする部員たちに)皆さんの演奏、楽しみにしてます」

葉月「はぁ、なんか落差ありすぎ」

久美子「だね……」

晴香「じゃぁ、みんな自分の楽器のチューニング終わらせておいてください」

部員たち「はいっ」

 

チューニングを行う部員たち。久美子もチューニングを終えマウスピースから唇をはなす。

 

久美子「大丈夫です」

夏紀「こっちもいいよ」

卓也「(うなずく)」

緑輝「久美子ちゃん」

久美子「うん?」

緑輝「あれ洛秋です」

久美子「あっ、ほんとだぁ」

葉月「あのブレザー、強いの?」

緑輝「ここ10年、関西大会常連の強豪校です」

夏紀「それで、あっちが立華(と、指さす)」

 

水色のユニフォームに身を包み、談笑する学生たち。

 

葉月「えっ、立華ってあの立華高校?」

緑輝「はい。あきれるほどマーチングの強い高校です。独創的な振付けから、水色の悪魔と呼ばれている有名校です」

あすか「あんなにかわいいのに、競技が始まった途端、笑顔のままで演奏しながら飛んだり跳ねたりして、ほんと恐ろしい連中なんだよねぇ」

葉月「まじすか」

梨子「はっ、そういえばプログラムに(と取り出し見て)、うわぁ、やっぱり立華、わたしたち、洛秋の順だ……」

葉月「(沈む雰囲気に)えっ、それがどうかしたの?」

夏紀「最悪ってこと。わたしたち、霞んじゃって何にも残せないかもよ」

葉月「えぇ、嫌だぁ、そんなの」

久美子「(手を振る立華の生徒に気付き)ん?」

梓「久美子ぉ」

久美子「あれ?梓ちゃん?」

葉月「知り合い?」

久美子「うん。同じ中学で吹部だった子。まだ時間あるよね?ちょっと行ってくる(と、駆け出す)」

 

〇競技場の端

 

梓のもとに駆け寄る久美子。

 

梓「なんだ久美子、北宇治だったんだ」

久美子「うん。梓ちゃん、立華に行ったんだね」

梓「えへ、この服着たかったの。予想通りの超スパルタだったけどね」

久美子「そりゃあ、立華だもん」

梓「それより久美子だよ。なんで北宇治なの?」

久美子「え?」

梓「なにかあるんでしょ?友達がいるとか?あ、そうだ、北宇治と言えばほら、高坂麗奈!」

久美子「え」

梓「あの子ってさ、立華の推薦蹴って北宇治行ったって聞いたよ」

久美子「え、え!?そうなの?」

梓「絶対何かあるって、みんなで話してたの。かっこいい男子がいっぱいいるとか。あはは、ないか。ねぇ、久美子聞いてない?ってかさ、北宇治に何があるのぉ?」

久美子「知らない。ないよ、そんなのぉ」

梓「あー、もう教えてよぉ。ぉ、(スマホが鳴って)ごめん、ちょっと待って。お、南宇治到着したって。ちょっと会いに行かない?駐車場すぐそこだし」

久美子「え?」

梓「うちらの中学の子、ほとんど南宇治に行ったでしょ。きっとみんないるよ」

久美子「あの……」

梓「いいから、行こ?」

久美子「あ……」

梓「あさみとかようことか、久しぶりじゃん」

 

駐車場に向かって歩き出した梓、動こうとしない久美子に気付く。

 

梓「ん?どうしたの?」

 

久美子、北宇治高校の部員たちを見やる。謎ステップおさらいの葉月、緑輝、談笑するあすかたち、野口にいじられる秀一、真剣な表情の麗奈。

 

梓「ねえ、行こ?」

久美子「ごめん。わたし今日はいいや」

梓「えっ、どうして?」

久美子「特に意味ないんだけどね。わたしが北宇治を選んだ理由」

梓「……」

久美子「スタートしたかったの。知っている人があまりいない高校に行って、新しく、最初から」

梓「(言葉にならない)ぁ……」

久美子「それだけ」

梓「久美子……。そっか。で、スタートはできた?」

久美子「あ……」

 

スピーカーからアナウンスが流れる。

 

アナウンス「それではただいまより、府内各高校吹奏楽部によりますサンライズ・フェスティバル・パレードをスタート致します。関係者の方は競技場グラウンドまで集合し、整列・待機してください」

久美子「……行かなきゃ」

梓「うん。じゃあ、次会うときはコンクールかな?」

久美子「そう……だね」

梓「お互い、頑張ろう」

久美子「うん。じゃぁ(と立ち去る)」

 

久美子「(ナレ)そのとき気付いた。わたしはもうスタートしていることに。そして今、後悔していないことに」

 

〇公園内の道路

 

パレードが始まり、他校の演奏や歓声が聞こえる。

 

陸上競技

 

パレードが続き、アナウンスの声が流れる。

アナウンス「立華高校吹奏楽部のみなさん、準備をお願いします」

久美子「(深呼吸)はぁっ」

梨子「(緊張の卓也に)後藤君、あれだけ練習してきたんだから、絶対成功させようね」

宮「あの粘着悪魔、何度も同じことばかりやらせて……」

 

(インサート)にっこり笑う滝のイメージ

 

橋「もう完璧にできてるって、分からせてやる」

スタンドの女子A「次、立華高校でしょ?」

スタンドの女子B「で、1個はさんで洛秋だってさ」

観客男A「はさまれたとこ、可哀そうだよなぁ」

観客男B「逆に目立って、いいんじゃね?メリハリきいて」

秀一「(それを聞いて、小さく)うっせーよ」

アナウンス「続きまして、立華高校吹奏楽部のみなさんです」

 

『フニクリフニクラ』が始まり、観客の大歓声が北宇治の部員たちにも届く。

 

葉月「何これ!?すごいね」

緑輝「立華高校の十八番ですよ」

 

華やかな立華の演奏に、明らかに反応が違う観客の歓声。それを聞いてどんどん委縮していく北宇治の部員たち。

 

三原「来たわね」

高久「うわ、うますぎる……」

加瀬「でしょ」

大野「まったく外さない」

加山「これはウチら悲惨だわ……」

香織「(優子に)深呼吸して」

優子「ぁ、はい……」

瀧川「俺、なんか自信がなくなってきた」

平尾「大丈夫、落ち着いて……」

晴香「(その様子を見て)ちょっと、もう出番だよ。みんなしっかり……」

 

ふいに、麗奈のトランペットが高らかに鳴り響く。虚を突かれてびっくりする部員たち。

 

優子「(ハッとして)バカ!高坂なに音出してんのよ!?ここ来たら音出し禁止って言われたでしょ?」

麗奈「すみません(フンっとばかりに髪をかき上げる)」

優子「ぁぁ!?」

 

笑う部員たち。雰囲気が和む。

 

臼井「びっくりしたね」

島「(聞き取れず)かと思った」

 

いよいよ北宇治高校の名前が呼ばれる。

 

アナウンス「続きまして、北宇治高校吹奏楽部のみなさんです」

高野「先生、スタートです」

滝「(靴ひもを結びなおしながら)本来、音楽とはライバルに己の実力を見せつけるために有るものではありません。ですが、今ここにいる多くの他校の生徒や観客は、北宇治の力をいまだ知りません。ですから、今日はそれを知ってもらう良い機会だと、先生は思います。(生徒たちを見て)さぁ、北宇治の実力、見せつけてきなさい!」

生徒たち「(笑顔になって)はいっ!!」

 

〇公園内・道路

 

あすかが笛を吹き、パレードがスタートする。シンバルに続き『ライディーン』の演奏が始まる。立華を見ていた観客たち、その音に気付く。

 

男性「お!」

女性「ん?」

 

真剣な表情で演奏する部員たち。

 

スタンドの女子A「あれ?」

スタンドの女子B「かっこいいね」

観客男A「結構上手いじゃん」

観客男B「どこだっけ、ここ?」

 

パレードが続き、笑顔で手を振るあすか。

 

観客男C「へぇ、やるなぁ」

観客男D「見た?ドラムメジャーの子、超美人じゃね?」

観客女A「知ってる?ここ」

観客女B「知らない。調べてみる。……うそっ、北宇治?」

観客女A「こんなに上手かったっけ?」

観客男E「へぇ、北宇治ねぇ」

 

高台の道を進む北宇治高校のパレード W.O

 

〇ゴール地点

 

パレードが終わり、頬から汗をしたたらせながらマウスピースから唇を離す久美子。

 

久美子「(ナレ)こうして、サンライズ・フェスティバルは終わり……」

 

〇北宇治高校・グラウンド

 

手を振るチューバくん

 

久美子「(ナレ)次の曲が始まるのです」

 

つづく

ED

 

響け!ユーフォニアム 第六回「きらきらチューバ」 シナリオ抜き書き

響け!ユーフォニアム 第六回「きらきらチューバ」

脚本 花田十輝 絵コンテ・演出 河浪栄作

 

(プロローグ)

 

滝「さぁ北宇治の実力、見せつけてきなさい!」

生徒たち「はいっ!!」

観客男A「結構上手いじゃん」

観客男B「どこだっけ、ここ?」

観客女B「うそっ、北宇治?」

観客女A「こんなに上手かったっけ?」 

 

OP

 

〇1-3教室

 

中間試験を受けている久美子たち。choiceと書き込む久美子、考え込む葉月、真剣な表情の緑輝。

 

久美子「(ナレ)サンフェスを終えて、心地よい達成感を味わえたのも束の間。高校に入って初めての中間試験。平均よりやや上という、喜ぶほどでもなく落ち込むほどでもない結果を迎えた後、いよいよ夏のコンクールに向けての練習が始まった」

 

〇音楽室

 

並び座る部員たち、スケジュールの印刷された紙を順に受け渡してゆく。

 

滝「まず、これからのスケジュールをみなさんにお配りしました」

 

久美子「(ナレ)吹奏楽コンクールは、例えるなら野球部における甲子園のような、吹奏楽部にとっての最大の大会。わたしたちの地域では府大会、関西大会、全国大会の順に各大会で代表に選ばれた高校が次の大会に進むシステムなのだが、わが北宇治高校はここ10年、最初の府大会止まり。しかも銅賞という残念な状態なのだった」

 

滝「さて、ここからが重要な話なのですが、今年はオーディションを行うことにしたいと思います」

部員たち「(ざわざわ)え、まじ!?」

晴香「え、オーディションって?」

滝「はい。わたしが1人1人、みなさんの演奏を聴いて、ソロパートも含め大会に出るメンバーと編成を決める、ということです」

久美子「えっ」

部員たち「えぇーっ!?」

 

タイトル 第六回「きらきらチューバ」

 

〇大会に向けた編成の説明映像

 

久美子「(ナレ)わたしたちはA部門というカテゴリーでコンクールに出場する。この部門では、課題曲と自由曲の2曲を最大55名までの編成で演奏する決まりになっていて、それ以上人数がいる場合、誰かが出場できないことになる。北宇治高校では以前から、上級生が優先的に出場してきた。つまり、ほとんどの場合初心者と1年生が外れてきたのだった。そこに突然降ってわいたオーディション。当然、反対の声は大きかったが……」

 

〇音楽室

 

滝の説明が続く。

 

滝「難しく考えなくても大丈夫ですよ。3年生が1年生より上手ければよいだけの事です。もっとも、みなさんの中に1年生より下手だけど、大会には出たいという上級生がいるなら別ですが(と、にっこり)」

 

久美子「(ナレ)という『粘着』、『イケメン悪魔』のあだ名にふさわしい滝先生の『意地悪』なひと言に反論できる者はなく、オーディションは行われることになった」

 

〇教室(低音パート)

 

低音パートのメンバーがオーディションの話をしている。

 

葉月「でも、コンバスって緑1人だから当選確実でしょ?」

緑輝「先生の望むレベルじゃなきゃ、コンバス抜きで編成組むってこともありますよ?」

久美子「緑ちゃんなら大丈夫だと思うよ」

葉月「ユーフォだって3人だし、全員合格だよね?」

久美子「……うん(暗い顔をする)」

 

〇中学時代(回想)

 

楽器室で上級生に詰められる久美子。

 

上級生「馬鹿にしてんの?」

久美子「……」

 

〇教室(低音パート)

 

オーディションの話が続く。

 

梨子「そんなこと言って、チューバだって全員選ばれちゃうかもよ?」

葉月「えっ、わたし初心者ですよ」

梨子「わっかんないよ?オーディションだからね。先生の前でちゃんとした演奏ができれば、もしかしたら……」

葉月「いやー無理ですよ。無理、無理。きっと来年には成長してると思うんで、そん時に。(後ろ後ろーと指さす梨子と久美子をに気付き)……ん?(いつの間にか、後ろに立つあすかに)おっおわあぁぁぁぁぁあすか先輩、パーリー会議終わったんすか?」

あすか「甘いぞ、加藤!!」

葉月「うわあぁぁ」

あすか「(葉月を指でつつきながら)よく考えるのだ加藤ちゃん!オーディションだよ、オーディション!上手い人間がレギュラーになるシステムだよ」

葉月「そんなの分かってますよぉ」

あすか「本当に分かってる?それって逆に言えば、下手だと来年も再来年もレギュラーの保証はないってことなのだよ」

葉月「う……へっ?」

あすか「(緑の肩を掴み)来年、例えばサファイア川島みたいな、聖女のチューバ経験者が入ってきたら……」

 

〇未来のイメージ

 

新入生が入部して、自己紹介。

 

ルビー川島「わたし、ルビー川島ですぅ。チューバやってます(と上手く吹く)」

葉月「うまっ」

~1年後~

PD川島「プラチナダイヤモンド川島です。チューバやってます(ルビー川島と二重奏を始める)」

葉月「うまっ、うまっ。うまーっ!」

 

〇教室(低音パート)

 

現実の戻り、あすかの話が続く。

 

あすか「なんてことになるかも知れないんだよ?」

葉月「そんな。緑の人でなしっ」

緑輝「ほぇ?」

あすか「だから、初心者でも今年からレギュラー取るつもりで頑張る。冬に凍死するキリギリスのようにならないためにも」

葉月「はっ、はい分かりました」

梨子「なんか例えがおかしいような?」

久美子「キリギリスって凍死しましたっけ?」

あすか「あ、ノンノン。日々の練習が大切ってこーと」

 

扉が開く音に、女子たち「ん?」。卓也が入り口に立っている。

 

卓也「課題曲、自由曲の譜面とCDもらってきた」

 

机の上に置かれる譜面とCD。

 

卓也「課題曲が田坂直樹『プロヴァンスの風』、自由曲が堀川奈美恵『三日月の舞』」

あすか「おお、滝先生。分かってるぅ」

久美子「そうなんですか?」

あすか「うん。堀川奈美恵といえば、京都府生まれの今をときめく女性作曲家だよ。管弦楽吹奏楽を中心に活躍している若き才能。彼女の魅力は繊細なメロディーと……」

卓也「始まった……」

緑輝「聴いてみましょうか?」

 

ラジカセから流れる『三日月の舞』を聴く一同。

 

葉月「おぉ、何かかっこいい!」

緑輝「ですね」

あすか「うふふ。この曲は低音がいいんだよねぇ」

 

久美子「(ナレ)その曲は確かにダイナミックで、でも失敗したら目も当てられなくなりそうで……」

 

〇職員室

 

窓際でコーヒーを飲む滝。

 

久美子「(ナレ)わたしは思った。やっぱり滝先生は本気で全国を狙っていると」

 

〇教室(低音パート)

 

梨子、低音パートのメンバーに譜面を配る。

 

梨子「それで、これが譜面ね。それぞれオーディションで吹くところに〇印がついてるみたい」

夏紀「(譜面を受け取り)どうも」

あすか「えーと、どれどれ(と初見で吹ききる)」

葉月「うわぁ、もう吹けちゃうんですか?」

あすか「ふーん、オーディションはここからここまでかぁ。滝先生も意地悪だねぇ」

葉月「ねぇねぇ、久美子も吹ける?」

久美子「うん、あそこまでは無理だけど(と吹く)」

夏紀「(歩いてきて)上手いね」

久美子「えっ、ありがとうございます」

夏紀「ユーフォ始めたの、いつって言ってたっけ?」

久美子「小4からです。姉につられてなんとなく」

夏紀「じゃぁ今年で7年か。そりゃ差もつくか……。個人練行ってくるね(と、出ていく)」

久美子「あ、はいっ」

葉月「差ってなんですか?」

梨子「うん……。それより、はい。(葉月に譜面を渡して)指番号振っといてあげたから、これに沿って練習してみて」

葉月「はぁ(と、息を吸って吹き始める)」

梨子「ほらぁ、焦らないの。まずは1つ1つ、狙った音をしっかり出すことを心掛けて」

葉月「んなぁ、難しい!(と抜き差し管が外れて)うわっ、壊れた!!」

梨子「違う違う。外したの」

卓也「メンテのとき教えただろ?」

葉月「メンテ?ロータリーにオイルは注してますけど」

卓也「あっ、あー……」

梨子「あっ……。教えてなかったっけ?」

 

楽器室

 

チューバを分解して清掃する葉月たち。

 

葉月「チュパカブラばらばら事件」

緑輝「おぉ、迷える魂に幸あれ」

葉月「ま、まだ壊してないからね。……しかし、こう見ると大きいなぁ」

緑輝「管も長いですね。吹き込んだ息って、ここ通って、この管通って、あっちの管に行って、ここを通って」

葉月「すごいよ、チュパカブラ!」

久美子「(抜き差し管を清掃しながら)ねぇねぇ、たまにはこうやってメンテしないといけないんだよ。それぞれつなぎ目のところの汚れとか、中の汚れを柔らかいブラシで取っていって。で、全部きれいにしたら、グリースをちょっと付けてはめていく。ロータリーはこっちのオイル。わかるよね」

葉月「うん。あぁ、待って。自分でやる。じゃなきゃ覚えないし……」

 

管の清掃を終えて、楽器を磨く葉月を久美子と緑が見守る。

 

葉月「えーと、仕上げはこれで(ポリッシュで磨いて)、おぉ!きらきらだ。うーん、さすがチュパカブラ、美人だねぇ。惚れ直したよ。よおし、じゃぁこっちも」

緑輝「なんか、初めて楽器を持った時のことを思い出しますね」

久美子「……うん」

 

〇小学校時代(回想)

 

ソファーでユーフォを磨く久美子。横にはトロンボーンを持った中学生の麻美子が座って見守っている。

 

久美子「はぁー」

麻美子「あぁ、ぴかぴかになってきたじゃん」

久美子「うん!えへへ」

 

〇楽器室

 

昔を思い出して微笑む久美子。と、葉月が何か困っている.

 

葉月「あれー?抜けなくなった」

緑輝「それ、違うんじゃないですか?」

久美子「ん?わっ、それ間違ってるよ!」

葉月「そ、そうなの?」

久美子「ちょっと貸して!うわっ固っ、なにこれ!?」

緑輝「この緑もお力添えします」

葉月「ど、ど、どうしたら」

久美子「大丈夫。こっち持ってて。いい?」

葉月「うん」

緑輝「はい」

久美子「せーの」

3人「よっ……」

久美子「せーの」

3人「ほっ……」

葉月「ううぅ、こんなの先輩に見られたら絶対に怒ら……」

3人「(廊下のあすかに気付き)はっ!」

あすか「……そうか、チュパカブラだけに大きなかぶだ!」

葉月「助けてください!」

 

〇中庭

 

麗奈と話す久美子。

 

麗奈「チューバのソフトケース?」

久美子「うん。葉月ちゃんが、もっと家でも練習したいって。楽器管理係だったら知ってるかなぁって……」

麗奈「ちょっと待って。調べてみる。(ノートを開いて)……1つだけあった」

久美子「ほんと?」

麗奈「持ち帰るなら、いま書いておくね」

久美子「うん。ありがとう。あ、個人練?」

麗奈「あぁ、うん。トランペット、ソロもあるから」

久美子「えっ!?ソロやるつもりなの?」

麗奈「分からないけど。滝先生、ソロもオーディションで決めるって言ってたでしょ」

久美子「そっか」

 

上階の渡り廊下からトランペットの音が聞こえてくる。

 

麗奈「……香織先輩」

久美子「上手だね」

麗奈「先輩の中ではね。ハイトーンもきれいに出せるし。(ノートを閉じて)もう持ち帰っても大丈夫」

久美子「……高坂さんらしいね」

麗奈「……っ」

 

宇治駅前の交差点(回想)

 

髪をかきあげて笑顔を見せる麗奈。

 

麗奈「黄前さんらしいね」

 

〇中庭

 

話を続ける久美子と麗奈。

 

麗奈「仕返し?」

久美子「あっ、うーん、そうかも(と笑い)あ、ケースありがとう(と、立ち去る)」

麗奈「っ……」

 

トランペットのソロパートを吹き始める麗奈。

 

〇楽器室

 

チューバのケースを閉める葉月に久美子が尋ねる。

 

久美子「ほんとに持って帰るの?」

葉月「ここまで来て、やめるわけに行かないでしょ。こうやって背負うんだよね(ケースを背負って)っおぉおぁっととぉ」

久美子「わぁ、大丈夫?」

緑輝「わぁあ」

葉月「よっと、ほぅ」

久美子「なんか、チューバに担がれてるみたい」

緑輝「久美子ちゃん、声に出てる……」

久美子「はっ(と手で口を押さえる)」

 

宇治川沿いの石段

 

チューバを吹く葉月。その横では久美子と緑がソフトクリームを食べている。

 

久美子「やっぱり抹茶ソフトにすればよかった」

葉月「はあぁ駄目だ。ぜんぜん思ったように吹けないよぉ」

緑輝「さっきよりは良くなりましたよ。ねっ」

久美子「ぅんっ」

葉月「いいよ。自分でわかってるから」

久美子&緑輝「うぅ……」

葉月「わたしさ、中学の時、テニス部でも最初はまったく思ったプレーができなくて。中途半端は嫌だったから、いっぱい練習したんだ。でも、駄目だった。最後の大会、勝てなくって。だから上手くなりたい、チューバは。自分で納得できるくらい」

緑輝「あぁ、葉月ちゃん(葉月に近づく)」

葉月「うわぁ、なに」

緑輝「緑、感動しました。これ食べていいですよ(と抹茶ソフトを差し出す)」

葉月「ちょ……」

緑輝「ひとは何でも変えられます。世界中の何でも」

葉月「……うん、頑張る!」

緑輝「その意気です!さぁ」

葉月「うぉ、緑。(ベチャっと押し付けられて)ぼべ、冷た!……助げでぇ」

緑輝「葉月ちゃん、大好きですよ」

葉月「ヴえぇ」

久美子「上手くなろうね」

葉月「ぶへ!」

緑輝「はい!」

 

CM(バリトンサックスの晴香)

 

〇廊下

 

梨子にインタビューする久美子たち。

 

梨子「チューバやってて良かったこと?」

緑輝「はい!モチベーションの側面から、ぜひ参考にしたいと思いまして」

葉月「(コクコク)」

梨子「そうだねぇ」

緑輝「何かありませんか、梨子先輩?」

梨子「大きくて、重い!」

緑輝「それは、良いところですか?」

梨子「地味で、あんまり目立たないところばかり吹く割には息がつらい。苦しい」

緑輝「良いところなんですか?」

梨子「なぜかチューバのせいってよく怒られる。……そんな感じだなぁ」

 

〇渡り廊下

 

卓也にインタビューする久美子たち。

 

卓也「チューバの良いところ?」

久美子「はい。前に後藤先輩チューバ大好きって言ってましたよね。その辺りを是非、葉月ちゃんにご教示いただきたく」

葉月「……(期待のまなざし)」

卓也「ふん……。加藤」

葉月「はい」

卓也「チューバの一番良いところはなぁ」

葉月「はいっ」

卓也「チューバの良いところっていうのはなぁ、良いところが無いところだ」

久美子「先輩」

葉月「おぉ」

卓也「良いところが無いのに一生懸命頑張る。ひたすらに頑張る。そこが良いんだよ。いや、それが良いんだよ。その気持ちが分かれば、お前も立派なチューバ吹きだ」

葉月「はいっ」

梨子「(拍手して)良いこと言った!」

久美子「良いことでした?勢いだけでしたよね、今の。明らかに」

梨子「違うよ。愛と自信が大切ってことだよ」

久美子たち「ぁー……」

 

〇廊下の手洗い場

 

あすかに相談する久美子たち。

 

あすか「もう、なんで早く聞きに来なかったの?水臭いなぁ」

久美子「梨子先輩は愛と自信が大切だって言っていました」

あすか「そうだねぇ。そう言うことなら、今の加藤ちゃんにピッタリのやつがあるかな。レッツ加藤ちゃん」

 

〇教室(低音パート)

 

あすかに楽譜を渡される葉月。

 

葉月「なんだこれ?」

あすか「指番号振ってあるから、初見でいけるでしょ?」

葉月「えっと……(と、吹き始める)」

久美子「練習曲ですか」

あすか「そ、初心者用のね。どんな簡単なことでも、完璧に出来ると嬉しいもんでしょ」

緑輝「まずはできるって感覚と喜びを味わってから、次につなげるわけですね」

あすか「そうよぉ。えらいわねサファイア川島」

緑輝「えへへ、川島緑ですぅ」

あすか「(葉月に)ほらぁ、できてるじゃない」

葉月「はぁ」

あすか「この調子ならオーディションだって間に合うよぉ」

葉月「だって簡単ですし……」

あすか「ん?何?」

葉月「だって簡単じゃないですか。テンポも遅いし。見て分かりませんか?どこがわたしにピッタリか知りませんけど、あすか先輩の考える練習って……」

あすか「(怒りのあすか、葉月の脇腹をくすぐり)加藤ちゃんのくせに生意気だぁ!」

葉月「ああぁ、ちょっとやめっ!?お腹いたいっ!うはは」

あすか「腹筋が出来ていないからだ、この怠け者めが!」

 

〇楽器室

 

葉月に隠れて密談するあすか、卓也、久美子と緑。

 

あすか「奥の手か」

久美子「早っ……(口を押える)」

あすか「サファイア川島は15分後、ここに加藤ちゃんを連れてきて」

緑輝「緑ですが!(と、敬礼)」

あすか「黄前ちゃん」

久美子「はい」

あすか「君には一肌ぬいでもらおうか」

久美子「……」

 

あすかの前にチューバ君(CV黄前久美子)が立っている。

 

あすか「ばっちりだね!去年の学園祭で作ったの。あっ、でね、加藤ちゃんが来たら『チュパカブラだヨー。葉月ちゃんはボクを吹くために生まれてきたんだヨー』って」

チューバ君「わたし、騙されてます?」

あすか「加藤ちゃんのために決まってるダロが」

チューバ君「噓だ」

あすか「口ごたえとは生意気だねぇ」

チューバ君「ぜったいあすか先輩の趣味ですし、しかもこれチュパカブラじゃなくてチューバ君ですし……」

あすか「えっ、そうなの?」

チューバ君「わたしのカバンに付いてるやつなんですけど……」

あすか「なんでユーフォなのにチューバを?」

チューバ君「あのシリーズではユーフォのマスコット出してくれないから、代わりです」

あすか「あいかわらず日陰だねぇ、ユーフォ」

 

楽器室の外から葉月たちの声がする。

 

葉月「どしたの、急に?」

緑輝「こっちですよ」

葉月「楽器室?」

チューバ君「はっ」

あすか「おおっと、時間よシンデレラ。飛び切りの魔法をかけてあげるわ。!!グッドラック!」

チューバ君「えっ、へぇ」

 

入り口に立つ葉月と緑。緑のほうがチューバ君に食いつく。

 

チューバ君「あっ……」

緑輝「チューバ君♡」

久美子「そうだった!」

緑輝「チューバくーん♡」

チューバ君「うわ、ちょっと」

緑輝「チューバ君!チューバくーん♡」

チューバ君「ぼ、僕は葉月ちゃんに用事が……」

葉月「久美子、なにやってんの?」

チューバ君「チュパッ!!?いや、僕は久美子じゃなくて……」

 

扉の外のあすかと卓也。その手にはカンニングペーパーが示されている。「初志貫徹」「加藤を頼む!!」

 

久美子「後藤先輩!そうだ、しっかりしなきゃ。葉月ちゃんの為に」

チューバ君「葉月ちゃん。僕はチュパカブラだよぉ……(葉月がいなくなったことに気づいて)いない!!」

緑輝「(うっとりと)わたしがいますよ、チューバ君♡」

あすか「うん。いいねぇ(と、写メを撮る)」

 

〇教室(低音パート)

 

久美子が着ぐるみから顔を出して落ち込んでいる。

 

久美子「騙された。騙されました、わたし(と、さめざめ)」

あすか「あららぁ、こっちも面倒くさいねぇ。吹部にもユーモアは大切でしょ(と、チューバ君の顔をぷにぷに)

緑輝「(それを見て)わあああぁ!」

久美子「そうかも知れませんけど」

梨子「でも何で急に葉月ちゃんのこと心配しだしたの?」

久美子「それは……」

 

〇小学校時代(回想)

 

ソファーで泣いて落ち込む小学生の久美子。

 

久美子「(OFF)なんか思い出しちゃって。上手く吹けないのって……」

 

〇教室(低音パート)

 

久美子の話が続く。

 

久美子「周りが思ってるより、ずっとつらいと思うんです」



〇廊下

 

1人廊下で個人練習をしている葉月。ふと、秀一の姿を見かけて頬を赤らめる。

 

久美子「(OFF)今はまだ考えることも多いから、そこまで意識していないのかも知れないけど、何かきっかけが掴めないと嫌になっちゃうんじゃないかなって」

緑輝「そもそもトランペットかサックスがやりたいって言ってましたもんね」

 

〇教室(低音パート)

 

あすか「まぁ、低音はねぇ。最初は他の楽器やりたかったって人、多いからなぁ」

梨子「モチベーションを上げる……かぁ」

卓也「俺は合奏したときかなぁ……」

久美子「えっ、今なんて?」

卓也「あ、いや、チューバだけだと単調なフレーズが続くから、なぁんだって思ってたことがあって……。でも、合奏で他のパートと音が合わさったらさ、音楽になった。ハーモニーが生まれた。支えてる実感もあった。その時から俺はずっとチューバが……」

あすか「何でそれを加藤ちゃんに言わなかったの?」

卓也「少し、照れくさくて」

久美子「葉月ちゃん、合奏したことないかも」

あすか「この前のサンフェスは……」

梨子「あっ、ポンポン持って歩いてました」

あすか「その前の合奏練習は?」

緑輝「初心者だから、演奏せずに座ってました」

全員「それだ!!」

梨子「葉月ちゃん、基礎練してばっかりだったねぇ」

緑輝「合奏の楽しさ」

久美子「ある!葉月ちゃんができる曲」

 

〇廊下

 

夕日が射す廊下を、葉月がチューバを抱えて歩いてくる。

 

葉月「うぅ、唇痛い……んん、ふんっ(と気合を入れて)」

 

〇教室

 

葉月が帰ってくると、久美子と緑が待っている。

 

葉月「ただいま戻りましたぁって、あれ先輩たちは?」

久美子「葉月ちゃん、これ合奏してみたいんだけど(楽譜を差し出す)」

葉月「え、わたし曲とかまだ出来ないよ?ん、ってこれ、さっきの……」

 

葉月が椅子に座り、久美子と緑も演奏準備が整って、3人の合奏が始まる。

『きらきら星』の演奏。ハッとする葉月。

 

(インサート)練習をする麗奈、夏紀、クラリネットパート、パーカッションパートの姿。

 

曲が終わり、久美子が葉月に尋ねる。

 

久美子「どうだった?」

葉月「……ぁ、何だろう。すごく……、音楽だった」

久美子&緑輝「はぁ」

葉月「そっか、こういうことか。うん、やっぱいいね、チューバ。めっちゃ楽しい!!」

 

〇電車内

 

下校する久美子と葉月。葉月はチューバを抱えている。

 

久美子「そしてまた持って帰る、っと」

葉月「うん!離れたらいけない気がしてさ。そういう久美子だって、持って帰ってるじゃん?」

久美子「感化されちゃった」

葉月「いいじゃん!久美子も頑張りな」

久美子「上から来るねぇ」

葉月「(電車が駅に着き)おっと、降りなきゃ。よっ(と、立ち上がり)、……ありがとね」

久美子「ぅん」

 

黄檗駅ホーム

 

電車から降りようとした葉月、足がもつれて転びそうになり、秀一がそれを助ける。

 

葉月「フンっ、ふぇうわあぁぁぁ……痛っ……くない。です」

秀一「っぶね。大丈夫?」

葉月「あ……」

 

チューバを支える秀一、葉月がその顔を見つめる。

 

秀一「すげぇな、チューバ持って帰るんだ」

葉月「あ、……うん。家でも練習、したくて……」

秀一「そっか。オーディション、頑張ろうな!」

葉月「ぅ……、うん」

 

宇治川沿いのベンチ

 

ベンチでユーフォを吹く久美子。塾帰りの葵が歩いてくる。

 

久美子「(ナレ)こうしてコンクールに向け、それぞれが目標へと向かって歩き出し……」

 

葵「(久美子を見つけて独り言)いいな、久美子ちゃんは」

久美子「(気配に気付き)ん?葵ちゃん?」

 

久美子「(ナレ)それぞれの想いを胸に……」

 

葵「(笑顔を見せた後、叫ぶ)オーディション、頑張りなよ!!)

久美子「えっ?」

 

風になびく久美子の髪~空の一番星へパン。

 

久美子「(ナレ)次の曲が始まるのです」

 

つづく

ED