響け!ユーフォニアム2 第七回「えきびるコンサート」シナリオ抜き書き

響け!ユーフォニアム2 第七回「えきびるコンサート」

脚本 花田十輝 絵コンテ・演出 藤田春香

 

◯(プロローグ)

橋本「あの子に話したの?滝くんの話」

麻美子「わたし、やっぱり大学やめる……」

滝「黄前さんの想像通り、そこに写っているのはわたしの妻です」

 

◯OP

 

◯音楽室

 

メトロノームの横で、予定表を手にした滝が部員たちに話をする。

 

滝「ではみなさん、合奏は今日を含めて、予定表の2重マルの日に重点的に行います。よろしいですね?」

部員たち「はいっ」

滝「では、今日はこれで終わります」

部員たち「ありがとうございました(雑談の声)」

久美子「駅ビルコンサートか……」

 

久美子の手元、予定表に書かれた駅ビルコンサートの文字。

 

◯京都駅

 

京都駅烏丸口の俯瞰、大階段アオリ。

 

葉月「(OFF)あの吹き抜けのトコで演奏するんですよね?」

卓也「(OFF)でも、わざわざ全国大会前のこの時期に入れなくても……」

梨子「(OFF)コンクールを優先させたいって意見もあったみたいだけど、滝先生が……」

 

◯音楽室

 

椅子に座り話す低音パートの面々。滝の横に立つ晴香が部員たちに話しをする。

 

梨子「演奏する機会は大切にしなさいって」

晴香「あと……」

低音パート「?」

晴香「まだ秘密ですが、実は駅ビルコンサートには清良女子高校も出演します」

部員たち「(どよめき)」

鳥塚「嘘!?」

葉月「そんなにすごいの?」

緑輝「当たり前です、葉月ちゃん!全国大会金の常連ですよ?緑、CDとブルーレイ持ってます!」

久美子「清良女子か……。ん?」

 

あすかの様子を伺う久美子。1人浮かない様子のあすかの横顔。

 

タイトル 第七回「えきびるコンサート」

 

◯教室(1-3)

 

葉月がチューバのメロディーを口ずさむ。緑が話しかける。

 

葉月「ボーンボッボボボンボン、ボーンボボボンボン……」

緑輝「ご機嫌ですね葉月ちゃん!」

葉月「うんっ、楽しみでさ!ほら、わたし全員で演奏すること、あんま無かったから」

緑輝「そうですね。えへ、やっぱり楽しいですよね、みんなで演奏するの。……あれ、久美子ちゃんは?」

葉月「おぁ、さっき出て行ったよ。今日、ノートの回収係」

 

◯廊下

 

ノートを抱えて歩く久美子の背。

 

久美子「いや、重っ……」

 

◯職員室

 

扉から入る久美子の耳に、女性(明美)の大声が聞こえてくる。

 

久美子「失礼しまー……」

明美「どう責任を取ってくれるんですか?」

 

職員室の奥、滝と教頭が明美を応対している。横に立つあすかが滝に頭を下げる。

 

あすか「すみません……」

明美「なんであなたが謝るの?謝ってもらうのはこっちでしょう?」

あすか「大きな声出さないで、お母さん」

久美子「ぁ……」

明美「先生なら、子供にとって今、なにが大切か分かりますよね?」

教頭「ぇぇ……」

明美「部活動で推薦入学するならまだしも、うちの子は一般受験なんですよ?」

教頭「ぉ、お母様のおっしゃる通りです」

明美「だったら、すぐ退部届を受理してください」

 

退部届を突きつける明美に、教頭が答える。

 

教頭「や、しかし今年の吹奏楽部は非常に頑張っておりましてですね、全国大会にも……」

滝「わたしはなにがあっても、その退部届を受け取るつもりはありません」

明美「……どうしてです?サックスの3年生の退部は認めたと聞きましたけど?」

滝「斎藤さんは、自分の意志で退部すると言ってきました。だから認めたのです。しかし、今回は違います。その退部届は、お母さんの意思で書かれた物ではないですか?」

明美「っ、それの何がいけないんですか?この子は、わたしがここまで1人で育てて来たんです。誰の手も借りずに、1人で。だから、娘の将来はわたしが決めます!」

 

立ち聞きする久美子の手に力が入る。

 

明美「部活動は、この子にとって枷でしかありません!」

教頭「ぇ、ええ。そのお気持ちは分かります。しかし……」

滝「わたしは、本人の意思を尊重します。田中さんが望まない以上、その届は受け取りません。何があってもです」

教頭「滝先生、もう少し言い方を考えて……」

滝「田中さんは副部長として、立派に部をまとめてくれています。その部の悲願である全国大会に出場できるんです。応援してあげることはできませんか?」

明美「……っ、……ふぅ。あすか、この場で退部すると言いなさい。」

あすか「え?」

明美「言いなさい。今、辞めるの」

あすか「……お母さん、わたし部活辞めたく……」

 

明美があすかの頬を平手打ち。乾いた音が響く。

 

久美子「はっ……」

滝「ぁ……」

 

明美が興奮した様子でまくし立てる。

 

明美「なんで……、なんでわたしの言うことが聞けないの!?」

教頭「お母さん、ちょっと……」

明美「あんな楽器吹いてるのも、わたしへの当てつけなんでしょ?そんなにわたしのこと苦しめたいの!?」

あすか「(ズレた眼鏡も直さず)……」

明美「(我にかえり、オロオロと)ぁ、ぁ、あすか……。あすか、ごめんなさい……、わたしまた、カッとしちゃって……」

 

明美が伸ばした手をやんわり遮って、あすかが答える。

 

あすか「大丈夫……」

明美「……っ、ごめんなさい……」

あすか「先生、すみません。今日は母と帰りますので、部活休ませてもらっていいですか」

教頭「ぁぁ……」

滝「分かりました」

 

あすかが滝に一礼して明美の手をとる。

 

あすか「お母さん、行こう……」

 

あすかが明美の手を引く。頬が赤くなっているあすか、入り口に立つ久美子を一瞥すらせずに職員室を後にする。

 

久美子「ぁ……。(息を呑む)」

 

歩み去るあすかと明美の背。

 

久美子「(ナレ)その事件の話はまたたく間に広まり……」

 

◯木立

 

落葉の情景。

 

◯教室(低音パート)

 

不安そうな表情の低音パートの部員たち。晴香と香織の姿も見える。

 

久美子「(ナレ)吹奏楽部にも動揺がひろがっていた……」

 

六地蔵駅

 

夕方の情景。

 

麗奈「(OFF)それで……」

 

京阪電車・車内

 

シートに並び座る久美子と麗奈。

 

麗奈「あすか先輩は本当に辞めるの?」

久美子「分かんない……。でも、なんであんなに言って来るんだろ?」

麗奈「あすか先輩のお母さん?」

久美子「うん……」

麗奈「部活なんて、親が決めるもんじゃないし、受験だって進路だって、最終的には自分で決める物なのにね」

久美子「自分の子供が心配っていうのはあるんだろうけど……」

 

(インサート)職員室、平手打ちされるあすか(回想)。

 

久美子「っ……」

麗奈「どうかした?」

久美子「んーん」

麗奈「でも、あすか先輩ってどうして部活続けてるんだろ?3年生で受験もあって、お母さんにまで反対されてるんでしょ?」

久美子「部活が好き、だから?」

麗奈「そう?あの先輩、とてもそんな風には見えなかったけど。どちらかと言うと、自分が吹ければいい、みたいな感じだったし」

 

◯倉庫(回想)

 

窓外を眺めながら、あすかが言う。

 

あすか「心の底からどうでもいいよ。誰がソロとか」

 

◯明石総合文化センター・控え室(回想)

 

部員たちに語りかけるあすか。

 

あすか「ここまで来た以上、なんとしてでも次へ進んで、北宇治の音を全国に響かせたい!」

 

京阪電車・車内

 

久美子が考え込む。

 

久美子「うーん……」

 

京阪電車宇治駅

 

踏切越し、ホームに入る電車。

 

久美子「(OFF)あすか先輩は分からないよ……」

 

 

◯北宇治高校・正門

 

登校する生徒たちの情景。

 

生徒たち「(あいさつ)おはよー」

 

久美子「(ナレ)しかし翌日……」

 

◯教室(1−3)

 

授業中の情景。

 

久美子「(ナレ)そんなみんなの心配をあざ笑うかのように……」

 

 

◯教室(低音パート)

 

教室にやってくるあすか。

 

久美子「(ナレ)あすか先輩は……」

 

あすか「おっ、やってるねぇ(笑う)」

 

久美子「(ナレ)あっさりと現れた」

 

喜びの表情の久美子と夏紀。

 

◯廊下

 

勢い余って廊下に飛び出て来る緑たち。

 

緑輝「あすか先輩!」

梨子「先輩!」

久美子「先輩……」

あすか「うぉ、どったのぉ、みんなぁ?」

葉月「だって、今日学校休んだって、晴香先輩が……」

卓也「ていうか……、来て大丈夫なんですか?」

緑輝「辞めないですよね?続けるんですよね?」

あすか「(笑って)って、そんな1度に聞かれても答えられませーん(緑の髪を撫でる)」

梨子「(泣きながら)先輩……。ヒック、ヒッ……」

あすか「えっ、何で泣いてるの?」

梨子「だってぇ……」

あすか「あーもぅ、後藤!アンタの彼女、なんとかしなさい!」

卓也「ぁ……、ふぅ」

 

(時間経過)

 

あすか「そっか……、そんなに噂になっちゃってたかぁ。心配かけてごめんね。黄前ちゃんもごめん!びっくりしたでしょう?」

久美子「うっ、ぃえ。それで、あすか先輩……」

あすか「大丈夫。みんなに迷惑かけるようなことはしないから」

 

安堵の声を漏らす久美子たち。

 

梨子「良かったぁ……」

緑輝「だから緑言ったじゃないですか。大丈夫だって」

あすか「(手を叩き)はいはーい、そういう訳だから、この話はおしまい!練習するよ」

久美子たち「はいっ」

葉月「はぁ、一時はどうなるかと」

緑輝「緑は信じてましたから、あすか先輩のこと……」

 

教室に戻る久美子たち。あすかが夏紀を呼び止める。

 

あすか「夏紀」

夏紀「?」

あすか「あとでちょっと、話があるんだけど」

夏紀「……はい」

 

 

◯教室(サックスパート)

 

椅子に置かれた晴香のバリトンサックス。晴香が滝と話している。

 

晴香「えっ、アルトの所をバリサクのソロにするんですか?」

滝「はい。学園祭の時とはちょっと趣向を変えようかと思って。考えておいてください」

晴香「はいっ」

 

滝が去り、晴香が不安げに呟く。

 

晴香「バリサクの……。わたしが、ソロ……」

香織「晴香……」

 

香織が晴香に手まねき。

 

晴香「香織……」

 

◯廊下

 

香織が晴香に耳打ち。

 

晴香「どうしたの?」

香織「(耳打ち)……」

晴香「(ハッ、と香織を見やる)」

 

◯渡り廊下

 

あすかが晴香と香織に話をする。

 

あすか「だーかーらぁ。大丈夫だって、そんなに心配しなくても」

晴香「ホントに」

あすか「ホ・ン・ト・にっ(手すりに身を乗り出す)もー、みんないちいち煩い。そんな大事じゃないって」

晴香「嘘」

あすか「えぇ?」

晴香「今日もあすかのお母さんから電話があったって、教頭先生と滝先生が話してた」

あすか「…………そっか」

晴香「実際、どうなの?」

香織「もし相談に乗れることがあったら、協力……」

あすか「(遮るように)大丈夫。」

香織「ぁ……」

あすか「みんなに迷惑はかけないから。それで十分でしょ?大事なのは演奏がどうなるか、それだけなんだから」

 

立ち去ろうとするあすか。

 

香織「それだけって……」

あすか「それだけだよ。部活なんだから。だから、これ以上ゴチャゴチャ言わないで。(人差し指を口にあてて)プリーズ、ビー、クワイエット……」

晴香「あすか……」

あすか「……ふふふ」

 

扉を閉めるあすか。残された晴香と香織の背。

 

久美子「(ナレ)そしてその翌日から、あすか先輩は部活に現れなくなった……」

 

CM(バリサクを吹く晴香)

 

◯音楽室

 

秀一が久美子に尋ねる。

 

秀一「あすか先輩、今日も来ないのか?」

久美子「えっ、あぁ、うん……」

田浦「連絡は?」

久美子「……(首をふる)」

夏紀「今は気にしてもしょうがないよ。練習に集中するしかないんじゃない?」

 

晴香の楽譜のアップ、「バリサクソロ?」の文字。悩む晴香の表情。

 

久美子「(ナレ)あすか先輩が……」

 

◯階段

 

降りてくる久美子。

 

久美子「(ナレ)部活に来なくなって1週間が過ぎていた。あすか先輩は大丈夫と言った。きっと明日は戻ってくる。みんなその想いを頼りに動揺や不安を押し殺していた」

 

ユーフォとフルートの音が聴こえてきて、久美子の足が止まる。

 

久美子「ユーフォだ……」

 

◯教室

 

夕方の教室。久美子が息を切らせて扉を開く。夏紀が希美のフルートに合わせて『三日月の舞』のユーフォパートの練習をしている。

 

久美子「っ……、はっはっ」

夏紀「どうしたの?」

久美子「あ、いや。音がしたので。……最近よく残ってますよね」

希美「わたしの練習に付き合ってもらってんの。来年のこともあるしね」

夏紀「音楽室、人多いからさ。こっちの方が集中できるでしょ?」

久美子「……そうですよね」

 

◯廊下

 

歩く香織の主観。

 

◯楽器室

 

窓際であすかの楽譜を見ている晴香。香織が声をかける。

 

香織「ここだったか」

晴香「ぁ……、うん。終わり?」

香織「うん」

 

楽器ケースを収めて、香織が尋ねる。

 

香織「連絡あった?」

晴香「無いよ。いちおう毎日メールは送るようにしてるけど。香織の所には?」

香織「ううん……。それは?」

晴香「あすかの楽譜。さっき見つけて……。多分、家に置いておけないんだと思う」

香織「あすかの……」

 

香織があすかの楽譜ファイルをめくる。

 

晴香「わたし思ってた。あすかはわたしたちとは違う所を歩いているんだって。あすかは特別なんだって。でも、あすかも……」

 

楽譜に書き込まれた「めざせ全国!」の文字。香織が楽譜を抱きしめる。

 

香織「うん……」

 

足音がして、優子がやってくる。

 

優子「香織先輩っ!(息を切らせて)今、下で騒ぎになってるんですけど、教頭先生が代理であすか先輩の退部届を受け取ったって……」

晴香「はっ……」

香織「えぇっ!?」

 

◯校舎・外患

 

響く『三日月の舞』合奏練習の音。揺れるラベンダー。水路に落葉。

 

◯音楽室

 

冴えない表情で合奏する部員たち。滝が手を叩いて演奏を止める。

 

久美子「……」

滝「なんですか、これ?みなさん、ちゃんと集中してます?」

部員たち「……」

滝「……」

 

 

沈黙の中、優子が手を挙げる。

 

優子「あの……」

滝「なんですか?」

優子「あすか先輩の退部届、教頭先生が代理で受け取ったっていう話しは、本当なんですか?」

 

不安げな表情の部員たち。滝が静かに答える。

 

滝「その様な事実はありません。(部員たちを見やり)……みなさんはこれからも、そんな噂話が1つ出るたびに集中力を切らして、こんな気の抜けた演奏をするつもりですか?今日は終わりにして、残りはパート練にしましょう」

晴香「先生!」

 

晴香の声に応えることなく、滝が音楽室を出ていく。

 

晴香「ぁ……、はぁ……」

 

楽譜を見る晴香。「全国!!!」の文字。空席のままのあすかの椅子。

 

(インサート)あすかの楽譜「めざせ全国!」の文字。

 

晴香が部員たちに向かい、語りかける。

 

晴香「……みんな、少しだけ時間くれる?」

香織「晴香……」

 

指揮台に立ち、部員たちに話を続ける晴香。

 

晴香「あすかがいなくて、みんな不安になるのは当然だと思う。でも……、このままあすかに頼ってたら駄目だと思うの。あすかがいないだけで不安になって、演奏も駄目になって……、部活ってそうじゃない」

田邊「そんなの分かってるよ」

野口「でもさ……、ぁ」

 

香織が野口を手で制して、人差し指を口に当てる。

 

晴香「わたしは、自分よりあすかの方が優秀だと思ってる。だからあすかが部長をやればいいって、ずっと思ってた。わたしだけじゃない。みんなも、あすかが何でもできるから頼ってた。あすかは特別だから、それでいいんだって……。でもあすかは、特別なんかじゃなかった。わたしたちが、勝手にあの子を特別にしていた……。副部長にパートリーダーに、ドラムメジャーとか……」

 

(インサート)過去のあすかのイメージ。

 

晴香「仕事を完璧にこなすのが当たり前で、あの子が弱みを見せないから平気なんだろうって思ってた……」

 

晴香が伏せていた視線を前に向ける。

 

晴香「今度はわたしたちがあすかを支える番だと思う。あの子がいつ戻って来てもいいように。……もちろん、去年のこともあるから、ムカついてる人もいると思う。あすか以外、頼りない先輩ばっかって感じてる子もいるかもしれない。でも、それでも付いてきて欲しい……。」

 

一歩前に出る晴香、部員たちに頭を下げる。

 

晴香「お願い、します……」

 

優子が晴香に言う。

 

優子「あんまり、舐めないで下さい」

晴香「……」

優子「そんなこと言われなくても、みんな付いていくつもりです。本気なんですよ、みんな」

 

笑みを浮かべる部員たち。頷く鳥塚。晴香が顔を上げる。夏紀が後ろから優子をからかう。

 

夏紀「ま、あんたの場合、好きな先輩に対して私情を持ち込みすぎだけどね」

優子「うっさい!」

部員たち「(笑い声)」

優子「大体あんたねぇ、こういう時は」

夏紀「あー、はいはい。これだからいい子ちゃんは」

優子「何ぃー」

 

目を潤ませる晴香、嬉しそうに目を伏せる香織。

 

◯職員室

 

滝の机の上の写真。滝と晴香が話をしている。

 

滝「バリサクソロの件ですね?」

晴香「はいっ。(頭を下げて)わたしにやらせてください」

 

◯京都駅烏丸口

 

烏丸口の情景。楽器を運ぶ他校の生徒たち。

 

◯室町小路広場

 

壁際で緑色のTシャツ姿の久美子が、水色のコスチュームの梓と話をしている。

 

梓「でも、まさか北宇治が全国へ行くとはね」

久美子「立華はマーチングどうだったの?」

梓「そっちは、バッチリ全国だよ」

久美子「さすがだね」

梓「はぁ……。本当、きっつい練習したかいがあったよ」

久美子「あははは」

上級生「立華、そろそろ集合してくださーい」

久美子「ぉ」

梓「ぁ」

久美子「呼ばれてるね……」

梓「久美子……」

久美子「ん?」

梓「頑張ろうね、お互い」

久美子「……(嬉しげな鼻息、走り出す)」

 

壁際に座り緊張の葉月を緑が励ましている。

 

葉月「ううぅ、緊張してきたぁ。できるかなぁ?」

緑輝「大丈夫ですよ、葉月ちゃん」

葉月「ぅん……。でもほら、わたし学祭しかこういうの経験してないし、初心者みたいなもんっていうか……」

緑輝「チョップ!」

葉月「痛っ!!」

 

緑が葉月の頭にチョップする。痛がる葉月に緑が諭すように言う。遅れて久美子もその場にやってくる。

 

緑輝「なにアホなこと言ってるんです。大切なのは今、この演奏ですよ。今までがどうだったかなんて関係ないありません。(振り向いて)ね、久美子ちゃん」

久美子「(状況が掴めず)えっ!?あ、うん……。えぇ……、うんっ!」

緑輝「葉月ちゃんはいい演奏をしています。胸を張っていいんです!」

麗奈「そうね」

葉月「ぁ……」

麗奈「(笑いかける)」

葉月「……(感動)」

緑輝「さぁ、胸を張って!」

葉月「……はいっ!!」

緑輝「よろしい!」

 

それを遠くで見ていた晴香と香織、通路を歩く他校の生徒たちに気づく。

 

香織「あ……」

晴香「清良女子……」

香織「さすが全国常連だけあって、堂々としてるね」

晴香「うん。でも、わたしたちも全国出場だよ」

香織「……うん、そうだね」

あすか「そのとーり」

晴香「ぇ……」

香織「ぁ……」

晴香「あすか!」

あすか「なによぉ、お化け見るような顔してぇ」

 

制服姿のあすか。久美子たちが声に気づいて振り返る。

 

久美子「ぁ……、あすか先輩」

緑輝「わぁ……」

 

香織があすかに話しかける。奥から久美子たちが近づく。

 

香織「来れたんだね」

あすか「言ったでしょ?迷惑はかけないって」

久美子「あすか先輩!!」

梨子「先ぱぁい……」

あすか「うぉっ」

梨子「心配したんですよぉ……」

あすか「もう、また泣く……」

梨子「うぇぇ……」

あすか「(苦笑)」

晴香「あすか……」

あすか「?」

晴香「わたし、ソロ吹くことになったから……」

 

あすかに楽譜を手渡す晴香。

 

晴香「しっかり支えてね」

あすか「……、(楽譜を受け取り)もっちろん!」

 

パーカッションの音色が流れる。

 

◯室町小路広場・ステージ

 

大階段下から見下ろすステージ。滝の指揮で部員たちが『宝島』を演奏。希美やチームもなかも混じって演奏している。楽しげな音にカップルの足も止まる。

 

男「ぉ……?」

女「ぁ……」

 

滝の視線が送られ、岡本のサックスソロ。観客たちの拍手。立ち上がり演奏する部員たち。晴香のソロが近づく。前方に歩み出る晴香。晴香のソロが始まる。そのファンキーな音色に驚く久美子。目で笑うあすか。大階段の上方では梓が独りごつ。

 

梓「カッコいいじゃん」

 

ソロを吹ききった晴香に、観客たちの拍手が降り注ぐ。

 

観客たち「(歓声と拍手)」

 

晴香が、笑顔で深々と頭を下げる。

 

◯京都駅・周辺

 

京都駅周辺の情景。新幹線越しの東寺、烏丸口

 

◯久美子のマンション

 

日没後の情景。

 

◯玄関

 

サンダルを履いた麻美子、静かにドアから出て行く。

 

久美子「(ナレ)そして、次の曲が始まるのです」

 

つづく

 

ED